第19話 サウナでととのう



 魔族を自害させたよ!


 で、その日の夜。

 今日は森の中で野営だ。


 ■庭ハコニワスキルがあるおかげで、どこだろうと快適に野営できるんだ。


 ■庭ハコニワ内に設置された、小屋の中にて。


『ふぅう~……ケースケ、今日のごはんも最高じゃったぁ♡ この、インスタントラーメンってやつは、うまいな!』


 ちょっと今日は運動しすぎて、疲れちゃったから、即席麺でラーメンを作ったのだ。


『こんなに美味い麺は初めてじゃぁ~♡ ケースケと一緒に居ると美味いもんたらふくたべられて、はっぴーはっぴーじゃぁ~♡』


 テーブルの上で、お腹ぽっこりスペさんが、満足げにつぶやく。

 ヘルメスさん(ヒキニートさん)も、インスタント麺を「んめっ、んめっ」とずるずる食べてた。


 こちらも満足そう。

 でも……約一名、ずっと暗い顔をしてる人が居る。


「どうしたんですか、ディートリヒさん? ラーメン、お口に合いませんでした?」


 僕がそう尋ねると、ディートリヒさんは慌てて首を振る。


「大変美味しかった……こんな美味しい麺類、はじめてだ」

『ふむ……ならば、なぜそんなシケタ顔をしておるのじゃ。美味しいご飯を作ってくれたケースケに、失礼じゃろうがっ』


 ぷんすこ、とスペさんが怒る。

 まあまあ、と僕はスペさんのぽっこりお腹をなでた。


 ディートリヒさんは何かを言いかけて、そして言う。


「カバンの勇者殿……! どうか……私をあなた様の弟子にしてください!」


 な、なんだろう……急に……?


「どうして弟子になりたいだなんて、急に言い出したんです?」


 すると実に悔しそうな表情で、ディートリヒが内情を吐露した。


「私は……勇者殿を無事目的地に届ける役割を与えられて、ここにおります。ですが! 私は……ここまでずぅっと足手まとい!」


『たしかに。おぬし基本ケースケに驚くか、相手に怯えるか、ケースケに感心するしかしてないし。正直なんで着いてきたんじゃろう、ってずっと思っておったわ』



 あーあ、スペさん、言っちゃったぁ。

 まあディートリヒさんは、ほんとに何もしてない。

 ただついてきてるだけだ。


「このままではいけないと、わかってます。だから、強くなりたいのです! どうか、カバンの勇者殿のように、強く、していただけないでしょうか!」


 強く、ねえ……。

 う~~~~~~~~~~~ん。


「お願いします……! どうか!!」


 必死に訴えるディートリヒさん。 

 なんかちょっと可哀想になってきた。


「いいですよ」

「ほんとかっ?」


「はい」


 彼女をひとりで帰らせて、途中で死んでしまったら、困る。


 彼女に僕を道案内するよう頼んだのは、他でもない、大親友のオタクさんだ。


 僕がここでディートリヒさんを、なんもせず帰らせて、ケガなんてさせたら、オタクさんの顔に泥を塗ってしまう。


 一緒に着いてくるにしても、彼女が弱いままだと、ケガして、それもまたオタクさんに悪い。


 なので、僕は彼女の望み通り、彼女を鍛えて、強くしてあげることにした。


「お手軽に強くするなら……手料理かなぁ」

「料理?」


「はい。僕の手料理には、バフ効果が…………ってあれ?」


 そうだ……。


「ディートリヒさん、僕の手料理食べてましたよね? しょうが焼き」


 さっきの即席麺は手料理じゃないから、ノーカンだとしても。

 しょうが焼き……この人食べていた。


「強くなってるはずじゃ……?」


 でも、彼女は経験値(※←魔族です)2体に、普通にびびってた。

 しょうが焼き食べて強くなってるのだとしたら、オカシイ。


『ケースケ、この女……先天性の魔力欠乏症をかかえておるようじゃぞ』


「まりょく……けつぼーしょー?」


 なんじゃそりゃ?


『この世界独自の病気じゃ。魔力を外部から取り込んでも、体に吸収できないという病気じゃ』


 なるほど、だからしょうが焼きを食べても、だめだったんだ。

 体の中に魔力が貯まらないってことなんだもんね。


「治らないの?」

『うむ。病気と言っても、体質に近いからの』


 生まれつきの体質(=病気じゃない)じゃ、救急ファーストエイドボックスで治せないなぁ。



 う~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん……。


「体質改善……デトックス……。そうだっ!」


 僕は、とあることを思いついた。


「皆さん、ここで待っててください! ちょっと準備してきますのでー!」


 僕は■庭ハコニワから出ていく。

【とあるもの】を、取り寄せカバンで、地球から取り寄せた。


 ややあって。


「準備できましたので、外に出てください!」


 スペさん、ディートリヒさん、そして……ヘルメスさんが続く。


 そこは、森の中。夜の妖精郷アルフヘイム


 僕らの目の前には……。


「「『なんだこりゃぁ……!?』」」


 みんな驚いてる驚いてる。

 まあ、この世界にはないものだもんね。


「勇者様。これはもしや……テント、ですか……?」


 ヘルメスさんが恐る恐る尋ねてくる。

 地球人ひきにーとと知り合いだから、テントは知ってるんだろう。


「な、なるほど……言われてみると、天幕に見え無くないな」


 とディートリヒさん。

 あ、テントはなくても、天幕はあるんだね。


「そう、でもこれだけだと、ただ。ここからが……凄いんです!」


 僕はテントのジッパーを下げる。

 むわ……!


『な、なんじゃ……? テントの中から、熱気がむわぁっと……』


 スペさんが首をかしげてる。ふふ……。


「これは……【テントサウナ】、です!」

「「『テントサウナ……?』」」


 異世界人の皆さんは知らないようだ。

 そりゃそうだ。


「勇者殿。な、なんなのだテントサウナとは……?」

「見ての通り、テントを張って、その中でサウナを楽しむグッズです」


 今アマゾンでも普通に、テントサウナ売ってるんだよね。

 それを地球から取り寄せたのだ。


『サウナぁ~~~~~~? はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~』


 スペさんが、ちょーがっかりしていた。

 おや、どうしたんだろう。


 スペさんって、僕の出したものに、いつも感激してたのに。

 今回のはなんだか、お気に召さない様子。


『我はなぁ~……お風呂が好きなんじゃ』

「あら、意外」


 犬はお風呂苦手だと思ってた。


『風呂はいい。命の洗濯じゃ』

「ふーん……お風呂好きだから、サウナは微妙ってこと?」


 てかそもそも、サウナってあるんだ、この世界……。


『サウナなんて、ハンッ。ただ蒸し暑いだけじゃないか。ケースケを否定したいつもりはないが……今回はちょっと、【スペP】マイナスじゃ』


『なんだよスペPって……』


 と、ヒキニートさんが突っ込む。

 もうすっかりツッコミ役になってるね、この人。


『高慢の魔王スペルヴィアを、喜ばせることで得られるポイントじゃ』

『なるほど』


『ちなみにケースケは今、5000000000000ポイント持ってる』

『もうカンストしてんだろそれ! これ以上Pもらってどうすんだよ!』


 ヒキニートさん、突っ込むのお上手ですね。

 働いてないくせに。


「ゆ、勇者殿……これがサウナであるのはわかったのですが。これに入ることと、私を強くすること、一体どういう繋がりが……?」


「まあまあ、だまされたとおもって、ちょっとサウナに入ってみてくださいよ」


 うーん、と半信半疑そうな、ディートリヒさん。


『ま、仕方ない。ケースケの頼みじゃ。ちょこっと入ってやるかな』


 スペさん優しい。


 全裸で入るわけにもいかなかったので、僕は異世界から水着を取り出す。


「ど、どうだろうか……勇者殿……?」


 ディートリヒさんが、赤いビキニ水着を着ていた。

 わ、え、エッチ……。

 おっぱい結構おっきいなぁ。


「勇者様……その……恥ずかしいです……」


 ヘルメスさんは、パレオを巻いた、水着姿だ。

 こちらも……おっきぃ。


「うわはは、ちっさいのぉ、おぬしら!」


 でぇん! と爆乳の美女が、現れる……!

 

「だれ?」

「高慢の魔王スペルヴィア、人間形態じゃ」


 あー! ひさしぶりぃ! 

 ずっとスペさん子犬姿だったけど、そうだった。


 この人人間にもなれるんだったねぇ!


「なんで人間姿なの?」

「毛皮があると汗かいたときにむれちゃうからの。あんまりこの姿好かんがの」


 スペさんは金色のゴージャスなビキニだ。


 しかも結構……え、えぐい……。

 股の付け根とか。あとおっぱいとか……。


「なんじゃ、好きな子おるのに、お姉さんに見とれちゃってよいのかぁ?」

「うう、スペさんのいじわるっ」


 ちなみに僕も水着に着替えている。


「じゃ、サウナにれっつらごーです!」


 大きめのテントサウナだ。

 ジッパーを開けて中に入る。


 椅子がおかれてる。

 そして、暖炉も。


 むわ……と暑い室内に、僕らは座る。


「はー。あついのぅ。むしあついのは苦手じゃあ。もうでていい?」


 スペさんがすぐ出て行こうとする。


「だめだよ、スペさん。もっと我慢しないと」

「えー。肌べたべたするぅ~。やっぱりサウナは嫌じゃぁ~」


 まだまだ。

 僕は、カバンから【それ】入りの瓶を取り出す。


 そして、暖炉に水をくべる。


 ジュゥウウウウウウウウウウウウウウウウ!


「うわっぷ! 蒸気がやばいのじゃ! 暑いのじゃぁ!」

「不思議な匂いのする、水ですね……?」


 とヘルメスさん。

 ふふふ、でしょう?


「うーうー、なんだか頭がもーろーとしてきたのじゃあ~」


「じゃあ、外に出ましょうか」


 ばびゅんっ! とスペさんが外に出る。

 で、気づく。


「な、なんじゃこりゃ!?」


 テントをでた先にあったのは……。


「プール?」

「水風呂です!」


 子供用のプールに、水を入れたものを、あらかじめ用意しておいたのだ。


「水風呂ぉ?」

「はい。さあさあ、こっちは入って」

「えー……?」


 と言いつつ、スペさんたちは大人しく、ちゃぽんする。


「ほわぁ……これは……なんじゃ……なんか……ちょうどいい……」


 スペさんがとろけた顔になってる。

 ふふ……。落ちかけてるね……。


「はい次もういっかい、テント入って~」

「またかの?」


 というのを何度か繰り返す。

 そして……。


「さ、仕上げです。椅子に座ってください」


 と、地球から取り寄せた、サウナ用の椅子を、テントの隣に置く。


 スペさんは椅子に座る。

 外気が体温を下げる。


「お、お、おおぉお!?」


 スペさんが体をびくびくさせて……。


「ふぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡」


 甘い声を上げるスペさん。


「にゃにこれぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡ なんか、きもちぇええええええ~~~~~~♡」


 ふふ……。

 

「これが……【ととのう】です!」

「ととにょうう~?」


「サウナに出たり入ったりしてると、こうして……気持ちよくなる……この現象を、ととのうというんです!」


 異世界人のみなさんは、このサウナでととのうっていう概念がなかったんだろう。


 でも、現代人の僕は知ってる。

 サウナで整うことができると!


「ふんあぁ~~~~~~~~♡ やばいぃ~~~~~~~♡ からだけちゃうぅ~~~~~♡」


 スペさんが奇声を発する。


「これは……きもちいいなぁ~……♡」

 

 とディートリヒさん。


「外気が心地良いです……」


 とヘルメスさん。


「ふにゃぁ~~~~~~~~♡ んにゃぁ~~~~~~~~~♡」


 とスペさんが一番気持ちよさそうにしていた。

 ふっふっふ、サウナ沼にはまったようだね。


「しかし……勇者様。サウナに入って、一体何がしたかったのでしょう……?」


 ヘルメスさんは気づいてない様子。


「まあ、明日、魔物と戦ったときに、わかると思いますよ。僕が何をしたのかって」


 ネクスト、啓介ず、ヒント!

 魔神水!


 正解は次回……!

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