第3話 地上を目指す



 僕の名前は佐久平さくだいら 啓介。

 どこにでもいる15歳。


 ある日突然異世界に勇者として召喚される。

 けれど僕に与えられた勇者の武器が、【カバン】とかいう謎の武器だったことで、イラン子扱い。


 女王の策略で、ダンジョンに飛ばされた僕だった。


「さて……」


 僕がいるのは、洞窟の中。

 それも結構でっかい洞窟だ。


 天上が見えないんだもんね。

 結構でっかいんだろう。


「これからどうしようかなぁ」


 僕はその場に座って、菓子パンをもっちゃもっちゃと食べる。

 僕のカバンから取り出した、菓子パン。

 これはどう見ても現代日本のパンで相違なかった。


「このカバン……もしかして日本に繋がってる、とか?」


 日本の食べ物を取り寄せできたんだから、日本に通じてる可能性はある。

 僕はカバンを広げて、顔を突っ込む。


 カバンの底が、そこにはあった。……なんちって。

 カバンから顔を出して、腕を入れる。


「底に手が届かない……どうなってんだろこれ……?」


 わからないことだらけだ……。

 なんて不親切なんだ。


 まあ、僕以外の勇者たちは、女王から受けてるんだろうね。


「僕以外の勇者……オタクさん、元気かな」


 チャラオさんとシズカさんは、どうでもいい。

 けど、オタクさんだけは、僕のことを気にかけてくれたし、ハズレ聖武具を引いたときも、励ましてくれた。


 あの人が酷い目にあってないかだけが気になる。

 だってワルージョ女王が側にいるわけだし……。


 ちゃんとその女、危ないよって、オタクさんにだけは伝えにいかないと。


「なおのこと、外に脱出しないとね」


 さて。


「でも外に出るって……どうやって? 地図も無いわけだし……あるのはこのカバンだけ」


 聖武具。

 勇者のカバン。


 そういえば、僕はこのカバンのこと、何も知らない。


 毒大蛇ヴァイパーっていうモンスターを吸い込んだ。

 また、毒大蛇ヴァイパーが吐き出した毒も、吸い込んだ。


 カバンからは日本の食べ物や飲み物を取り寄せできる。


「このカバンがあれば、モンスターが出てきても大丈夫そう。さっきみたいに吸い込めばいんだし。それに、食事も水もいらないよね。さっきみたく、取り寄せれば良いんだし」


 ちなみに、さっき取り寄せた大量の菓子パンは、カバンの中に仕舞った。

 アイテムボックス的な機能も、カバンにはついてるらしい。


「カバンがあれば結構だいじょうぶ、だねよ! よし、進もう!」


 もうちょっと色々できることを探っておいたほうがいいかもだけど。

 ここ……ダンジョンのど真ん中だし、安全ってわけじゃないからね。


 てくてく……。

 てくてく……。

 ううん……。


「ここ、どこ……?」


 現在地がわからない……。

 こう言うときマップとかあると……。


 って、そうだ!


「マップを取り寄せればいいんだ!」


 僕はカバンの中に手を突っ込む。

 マップが欲しい!


『金額が不足してます』


 ……ふぁ!?

 頭の中に、また例の女の子の声が聞こえたぞ。


 いや、え、お金……?


「え、どういうこと? さっき水もパンも、ただで取り寄せできたじゃん……?」


 気になって、もう一回、僕はペットボトルのミネラルウォーターを取り寄せしようとする。


『金額が不足してます』


 あ、あれぇ……?

 取り寄せできない……。


「え、もしかして、取り寄せにはお金いるのかな……? え、でもさっき取り寄せの時にはお金なんて払って……」


 いや、待てよ。

 僕はズボンのポケットを漁る。


 右ポケットには、スマホ。

 左ポケットには、財布。


 財布を開けてみる。


「わ! お小遣いが……消えてますやん」


 なるほどなぁ。

 つまり、スキル【取り寄せカバン】を使用するためには、対価が必要と。


 さっきのミネラルウォーターと菓子パンは、元々僕が持っていたお金から、自動で引かれた……と。


 うん。


「え、詰んでない……?」


 現在、水と菓子パン(大量)を買ったから……所持金ゼロ!


「こんなことなら、菓子パンあんなに取り寄せなきゃ良かった~。とほほぉ」


 ……しばらく菓子パンがあるから、飢えはしのげるだろうけどさ。

 でも、それもいずれストックが無くなってしまう。


 取り寄せするためにはお金が必要で……。


「あー……どっかにお金落ちてないかなぁ」


 と、そのときだった。


「ん? なんだあれ……? 人……?」


 ちょっと離れたとこに、人陰があった!

 そうだよ、ここ、ダンジョンなんだから、他にもここを訪れてる人、いるかもじゃん!


「すみませーん! 助けて……って、ああ……マジかぁ……」


 近づいてみて、僕は気づいた。

 人だと思ったそれは、【人だったもの】だった。


「白骨死体じゃーん」


 多分このダンジョンに来て、でれなくなって、死んじゃった人なんだろうなぁ。

 はぁ……助けてもらえると思ったんだけど。


「って、ん? 待てよ……もしかして」


 白骨死体さんは、服を着てる。

 そして、リュックもあった。……僕は、手を合わせて言う。


「ごめんなさい。生きるために、ご協力ください」


 僕はリュックサックを漁る。

 食べ物は当然のようになかった。


 着替え、毛布、ナイフ……。


「あった! お金!」


 お金の入った革袋が、入っていたのだ!

 良かったぁ。


「ごめんなさい、泥棒みたいなことして。でも……生きるためなんです」


 さて。

 

「この人どうしよう。埋葬してあげようかな。でも……ダンジョンに埋めるのはさみしいというか、可愛そうって言うか……」


 地上に連れて行き、埋葬してあげよう。

 この人にも家族がいるかもしれないしね。


「じゃあ、カバンのなかに……入るかな」


 白骨死体さん、結構大きい(180センチくらいある)。

 僕のカバンは、学生カバンだ。この中にデカい死体は入らない……。


「いや、でもさっき毒大蛇ヴァイパーを吸収できたんだ。アレとおなじ感じで……」


 僕はバッグを大きく開く。

 ごぉおお!


 バッグから、さっきみたいに風が吹く。

 死体がバッグの中に吸い込まれていった。


「わ、収納できた。やっぱり、大きさを無視して、モノを収納できるみたい」


『以下の物を収納しました』


・短剣の勇者【豊丘トヨオカ モブオ】の死骸

・30万ゴールド

・勇者の短剣

・毛布(低品質)

・着替え(低品質)


『死骸の収納を確認』

『条件を達成しました』


『スキル【マッピング】、【隠密ハイド(最上級)】、【鍵開け(最上級)】、【解体】を獲得しました』


 え、勇者?

 え、スキルの獲得?

 ええ? どうなってるの?

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