第2話 奈落へ追放

「う、うう……え!? こ、ここ……どこ……!?」


 気づけば、僕は知らない場所に居た。 どうやら僕は、洞窟の中にいるようだった。


 真っ暗なはずだけど、不思議と視界は明瞭だ。

 多分、壁とかがうっすら、青白く光っているからだろう。


「え、ええっと……ここは……? たしか昨晩は……」


 僕は、寝る前のことを思い出す。

 現代日本から異世界に召喚された僕たち。


 今日はゆっくり休んでくださいと、勇者それぞれに、部屋があてがわれた。

 チャラオさん、シズカさんは疲れたと言ってさっさと眠ってしまった。


 オタクさんだけは、『大丈夫、いざとなれば拙者が守りますゆえな!』と励ましてくれた。

 そんな彼も疲れたらしく、部屋に戻っていった。


 自分も辛いはずなのに、僕を励ましてくれる。オタクさん……いい人……。


 その後僕は自分の部屋に行こうとしたところ、ワルージョ女王から呼び出しを食らった。


 特別に話したいことがあるって言うからついて行ったんだけど……。

 魔法陣が敷いてある部屋についた。


 そこで……。


『【麻痺パラライズ】』

『がっ!』


 突如、ワルージョ女王が僕に何かをかけてきたのだ。

 いきなり体がしびれて動けなくなった。

『カバンなんていう外れ聖武具を引いてしまった、あなたは不要です』

『ふ、不要!?』


『ええ。ですので、あなたは廃棄。七獄セブンス・フォールに送ります』

『は、廃棄!? せ、七獄セブンス・フォール……?』


 ようするに、使えない聖武具を引いてしまった僕を、処分しようっていうのか!

 でも、直接殺すんじゃなくて、どうして廃棄……?


『王家のものが勇者を直接手を下したとなれば、王家の威信にかかわります。なので、魔物うろつくダンジョンに廃棄します』

『そ、そんなぁ~……』


 ……ということらしかった。


「ちくしょう……ワルージョめえ。覚えてろよぉ」


 僕はひとりつぶやく。

 しかし……ううん、どうしよう。


 ここは魔物うろつくダンジョンらしい。

 ダンジョン……かぁ。


 さっきまでワクワクしていた僕だけど、今は結構落ち込んでいる。

 いや、勝手に呼び出しといて、勝手に捨てるとかさ。


 理不尽すぎるだろ!

 はぁ……。


「オタクさん……助けに来てくれないかな……」


 あの優しいオタクさんなら、来てくれるかもだけど。

 でもワルージョが嘘をつくかも(僕が魔王退治にビビって逃げたとか言って)。

 そのほかに、僕を助けてくれそうな人は……。


「チャラオさんもシズカさんも、僕のこと足手まといみたいな感じに思ってたし……。来ないだろうなぁ助けになんて……はぁ……」


 結局、自力でここを脱出する必要があるってことだ。

 自力で?


 無理無理!


「だって僕……鑑定スキルとアイテムボックスしか、ないんだよ……?」


 あと、勇者のカバンか。

 これでどうしろってんだよ……。


「つーかなんだよ、ボックスって。異空間に通じる箱って……。これでどうやって戦えば……」


 と、そのときだった。


「SHAAAAAAAAAAAA!」

「え……? わぁ! へ、蛇し!?」


 目の前に、でっかい蛇が現れたのだ! 明らかに普通の蛇じゃない!


 これは……モンスター!?


「か、鑑定!」


 僕はとっさに鑑定スキルを使っていた。

 いやよく動けるな。まあたしかに、オタクな僕は、異世界に行ったときに、僕ならこうするって想定していたことあるけど……。


毒大蛇ヴァイパー(S)

→巨大な蛇型モンスター。生物を一瞬でドロドロに溶かす、溶解毒を使用する。


 え、Sランクモンスター!?

 ……って、どれくらい強いんだろう……。


 いやわからないけど、ネット小説とかだと、Sって最高に強い敵じゃない!?

 えええ!?


 僕やばくない!?


「SHAAAAAAAAAA!」


 わわわ! 毒大蛇ヴァイパーが体をのけぞらした。

 そして、口から……


 ブシャアアアアアアアア!


 毒々しい色の液体を噴射した。

 あ……おわた。


 勇者のカバンを持った状態で、僕は腰を抜かしていた。

 終わりだ……あれは、溶解毒。


 アレを浴びたら、僕はドロドロに溶けて……死んじゃうんだ……。

 ああ、父さん母さん、姉さん……ごめんなさい……。


 啓介は異世界で死にます……。


『【溶解毒】を、収納しますか?』


 え?


『【溶解毒】を、収納しますか?』


 突如として僕の脳内に、女の人の声がした。

 え、えっとわからないけど……。


 毒?

 収納?


「し、します!」


 このまま毒をかぶりたくない一心で、僕は叫ぶ。

 すると……。


 しゅるぅううううううううううん!


「えええ!? ど、毒が……カバンに吸い込まれた!?」


 なんということだ。

 どうなってんだ……これ……?


『【溶解毒】を、収納しました』

『条件を達成しました』

『聖武具のレベルが上がりました』


 よ、よくわからない、けど……助かったみたい……。


「SHAAAAAAAAAA!」


 ひ!

 今度は毒大蛇ヴァイパーが、突っ込んできたぞ!


 ど、どうしよう……!


『【毒大蛇ヴァイパー】を、収納しますか?』


 は、はい?

 今なんて……?


『【毒大蛇ヴァイパー】を、収納しますか?』


 え?

 え? なに……毒大蛇ヴァイパーを……モンスターを収納!?


 そんなことできるの!?

 できるんだったら……。


「い、YES!」


 その瞬間……。

 しゅごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!


 突如として、僕の持ってるカバンから風が吹き出した!

 いや違う……吹き出したんじゃない!


 吸い込んでる!

 掃除機みたいに!


「SHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA…………」


 毒大蛇ヴァイパーはカバンの中に吸い込まれていった。


「え、ええ……なにこれ……? カバンのなかに……モンスター入っちゃったんですけど……?」


『【毒大蛇ヴァイパー】を、収納しました』

『条件を達成しました』

『聖武具のレベルが上がりました。スキル【取り寄せカバン】を習得しました』


 ……え、てかレベル?

 レベルが上がった……?


 聖武具ってレベルあがるの?

 あと、新しいスキル覚えたって……。


「なにが、何やら……だ。けど……助かった……みたい」


 毒を吸い込み、モンスターを吸い込み……って。

 カバンってもしかして……結構チート?


「勇者のカバンって、アイテムボックスとイコールなんでしょ? アイテムボックスって……ネット小説とかだと、ただアイテムを入れることしかできなかったはずなのに……」


 疑問を覚えても、答えてくれる人は居ない。

 でもどうやら、勇者のカバンは、アイテムボックスとは、また別の力を持ってるのかも……。


「力……そうだ。新しいスキル。たしか、【取り寄せカバン】って……」


・取り寄せカバン

→どこにあるモノでも取り寄せられる。取り寄せたいモノを声にしながらカバンに手を入れると、それがある場所に空間が繋がる。


 …………。

 ………………?


 ど、ドラえ●ん……?


 なんかそういう秘密道具あったよね……?


「えっと……【ミネラルウォーター】」


 とりあえず試してみようと思って、カバンに手を突っ込む。

 すると、はしっ、と僕はたしかに何かを掴んだ。


 引っ張って取り出すと……。


「ほ、ホントにミネラルウォーターじゃん!」


 ペットボトル入りのミネラルウォーターをゲットしていた!


「え、じゃ、じゃあ……菓子パン……たくさん!」


 僕はそう言いながら、スキル取り寄せカバンを発動。

 カバンをひっくり返すと……。


 どさどさどさどさっ!


「や、山盛りの菓子パンだ……! これで食事に困ることはない! ……って、ん?」


 あれ……?

 カバンって……もしかして、もしかしなくても……。


「結構、チートじゃね……?」


 だって、敵の攻撃はカバンが吸収できる。

 モンスターだって吸収できる。


 スキルで、現実世界から食べ物も飲み物も取り寄せ放題……。

 あれ?


「結構、余裕……かも?」


 こうして、どん底からスタートした僕の異世界生活に、一筋の光明が見えたのだった。

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