第10話 キャンプ飯を絶賛、そして杖の勇者登場



 暗黒竜ジャガーノートさんとたわむれた。


『おい貴様。ジャガーノートとやら。【龍王】の眷属じゃな』

「りゅー、おー?」


『憤怒の魔王の通り名じゃ』


 ふーん。龍王ってことは、ドラゴンなのかなっ。

 魔王で、竜……どんな姿だろー!


 きっとドラゴンボ●ルのシェ●ロンみたいな?

 わー! かっこいー! 会ってみたいなぁ!


『その通りでございます。オレは憤怒の魔王、【龍王イラ】様より、名前をもらいました』


 憤怒さんは、イラさんっていうんだ。

 イライラしてるから、なんてね。


『ということは、このあたりにイラのやつがおるのか?』

『いえ、イラ様はおりません。ここは、イラ様のナワバリの一つで、オレが管理を任せておりました』


 ふーん、憤怒の魔王さんの領地ってことか、このあたり。

 でも魔王さんはいないと。ちぇ。会ってみたかったのになぁ。


『ジャガーノートよ。貴様は逃げてきたようじゃが、一体この先になにがあったのじゃ?』

『それは……』


 ぐぅ~~~~~~~~~~。


「スペさん、お腹空いたの?」


 頭の上から、でっかい音が聞こえてきた。

 スペさんが『お腹しゅいた~』と言う。


 何もしなくても腹へ減る。

 それに……。


「日も暮れてきたし、今日は野営しよっか」


 魔物を倒す→カバンに収納を繰り返してたら、結構時間食っちゃったや。

 ちなみにレベルアップはしなかった。うーん、やっぱりレベル上がりづらくなってるかも。


「野営の準備だなっ。ヘルメス、天幕の準備を」


 ディートリヒさんが張り切って言う。

 ……ん? 天幕の準備だって。


「え、必要ありませんよ」

「「必要ない……?」」


 僕は勇魔のカバンをパカッと開ける。


■庭ハコニワ!」


 聖武具の派生スキル、■庭ハコニワ

 カバンの中に、僕らが吸い込まれる。


「「『うわぁあああああああああああああああああああああ!』」」


 視界が暗転。

 次の瞬間、僕らは白い何もない空間に……。


 って。


「あれ? なんか、前と違う」

『ふむ、以前は何もない空間が広がっておっただけじゃが……土があるの。むき出しじゃが』


 地面がちゃんとあった。

 それに……。


「あ、見て! あんなとこに……小屋!」


 木造の小さなお家が、あったのだ!

 わ、わ、いつの間に~!


『ふむ、考えるに、カバンが進化したことで、■庭ハコニワの中身も進化したのじゃろうな』


 なるほどっ。つまり、聖武具のレベルが上がれば、この空間が充実していくってことか!

 

「「『な、なんだこりゃああ!?!?』」」


 ディートリヒさん、ヘルメスさん、それと……なぜか暗黒竜ジャガーノート(長い名前……)さんがもいて、全員が何故か驚いていた。


 ん?


「どうしたんです?」

「お、恐れながら……勇者様。ここは、一体……?」


 ヘルメスさんが周りを見渡しながら尋ねてきた。


■庭ハコニワのなか。僕の聖武具、勇魔のカバンが持つスキル。異空間を作るスキルなんだ」

「!? く、空間魔法……!」


 空間……魔法……?

 いや、スキルなんだけども……


「し、信じられません! 空間魔法は、古代魔法の一つ! 現代で使い手は限られてるし……こんな、一つまるごと異空間を作るような魔法、見たことも聞いたこともありませんっ!」


 へー……そうなんだ。

 まあ、ヘルメスさんが知らないってだけかもね。世の中広いし、使い手は他にもいるんじゃない?


(※↑いないし、ヘルメスは、知恵者である杖の勇者と内通しており、その彼女でさえもここまでの空間構築能力は無い。)

(※↑つまり世界最強の空間構築スキル)


『ここここここ、ここどこですか!? お、オレを今から処刑するんですかぁ!?』


 と慌てるジャガーさん(略称)。

 えー、処刑ぃ?

 なーんでそんな考えになるんだろう。物騒だなぁ。


「違いますよ。今から野営です」

『や、野営!? 野営ってなんですか!? 新たな拷問方法っすかぁ!?』


 あ、バカだこのドラゴン。

(※↑憤怒の魔王の眷属であり、知性を持つ超強いドラゴンです)


「ここでご飯を食べて、一泊して、明日に備えるってことですよ」

『は、はぁ……』


 いまいち、ジャガーさんわかってない様子。


『はよぅ、ケースケ、はよぅご飯を!』


 スペさんが空腹の限界らしく、僕の顔を尻尾でぺんぺん叩いてくる。やめれ。


「OK。じゃあ、ご飯を作るから、適当にくつろいでおいて」

「「それはちょっと……」」


 え、なんでくつろげないんだろう?

(※↑目の前に暗黒竜ジャガーノートがいるからです)


 もしかして、僕に料理作らせることに、遠慮してるのかな、二人とも。


「料理は僕が作りますよ。スペさん、僕のご飯しか食べないから」

『うむ。我はグルメじゃからな。ケースケの料理以外は、受け付けんのじゃ!』


 ということで、二人と暗黒竜さんを残して、僕は小屋の中に入る。


 小屋は、1Kって感じだった。


「わ、キッチンあるじゃん! 助かるぅ~」


 水道は通ってない。

 けど、水瓶が置いてあった。並々に水が注がれてる。


 ガスコンロ……は、なかった。ですよねー。


『ケースケ、今日はどんな美味なる料理を食べさせてくれるんじゃぁ!?』


 スペさんが頭からコロンと下りて、着地。

 僕の足にしがみついて、キラキラした目を向けてきた。


「今日は、さっき猪のお肉が取れたから……肉料理かなぁ」

『ONIKU! FU~♪』


 さっき僕が倒した、黒猪ブラック・ボアの肉が、結構たくさんある(解体スキル発動によって、質の良い肉を大量にゲットしてる)。


「猪の肉……猪……豚……豚……うんっ」


 僕は、献立を思いつく。

 あ、そうだ。


 僕、帝都で、現実から取り寄せた商品を売って、お金を手に入れたよ。

 500万円くらいかな。


 もうちょっと売ろうと思ったんだけど、オタクさんが、


【こちらの世界の素材を売るときはいいでごあるが、地球の商品は質がいいゆえ、売りすぎると、商人側からツッコまれて面倒でござるよ~】


 ってアドバイスをくれた。

 だから、地球の商品は最低限に、ダンジョンで手に入れた素材をメインに売った。

 

 で、500万円のもうけ!

 中学三年生(来春高校生)の僕に、500万円は……大金だよぅ。


 家買えちゃうね!(※買えません)


 で、その500万円で、僕は現実の商品をより寄せ!


『む? なんじゃ……瓶? 飲み物かのこれは……?』


 スペさんが僕の肩までよじのぼり、僕が取り寄せたそれを見て言う。


「飲み物じゃないよ。調味料」


 うへえ、とスペさんが顔をしかめる。


『調味料って、塩とかコショウのことじゃろ? なんじゃ、肉に塩コショウを振るだけの料理かのぉ? もうちょっと美味しい、珍しいご飯が食べたいのじゃ~』


 なるほど。

 こっちじゃ調味料=塩コショウなんだ。


「まあまあスペさん……僕に1分ください。1分後に、とても美味しいものを用意してあげますから」

『! 待つ! お外でまってる~』


 スペさんが小屋から出て行った。

 さて……。


「いでよ、勇者の鍋!」


 ぼんっ、とコンロの上に、勇者の鍋が出現……。


「あれ、しない? 鍋がないと、料理スキル発動しないんだけど……」


 うーん、困ったぞ。どうしたものか……。


「まあいいや。今回作る料理は、別にスキル無くても美味しく作れるし」


 僕はしまってあったカバンから、フライパンを取り出す。

 それを手に取った瞬間……。


 じゅ~~~~~~~~!

 たたたたたんっ!

 ぼんっ!


「わ、完成しちゃった! 料理スキルが発動した!? なんで!?」


 勇者の鍋、出してない(でてない)のにっ。


「わからないときは、鑑定!」


 オタクさんから教えてもらった。

 困ったときはとりあえず鑑定ってね。


 オタクさんは物知りだなぁ。


・勇魔の鍋

固有スキル:料理(最上級)、万能調理具



「万能調理具? スキルが変化してる……って、あれ!? 聖武具の名前も……変わってる!」


 前は勇者の鍋だったのに!

 僕のカバンみたいに、進化したのかな……? 聖武具が。


 へえ、そんなことってあるんだぁ!(※勇者と魔王の力を持つ啓介にしかできません)


・万能調理具

→自分がイメージする調理器具に、勇魔の鍋を変形できる。

 変形した調理器具には、料理スキルが付与される。


「なるほど。つまり、煮込み料理じゃないときに、鍋を出さなくてもいいわけだ」


 今回はこのフライパンに、勇魔の鍋が変形した訳ね!


「何やらとても美味そうなにおいがっ!」

「食欲をそそる、イイ匂い……!」

『うぉおおおお! やべええ! よだれが止まらない!』


 小屋の外では、腹ぺこな皆さんの、待ちきれない声が聞こえてくる。


「みんな~。ごはんできましたよ~。運ぶの手伝って~!」

「「『はーい!』」」


 いや、暗黒竜さんは遠慮してね。

 小屋が壊れちゃうから。


 ややあって。


 僕らは小屋の外に出る。

 小屋には机もなかったからね。


 レジャーシートの上に、お皿を置く。


『け、けーしゅけっ! じゅるり……この、う、うましょうな料理は……じゅる……なんじゃあ……じゅるるる』


 スペさん、よだれよだれ。

 犬みたい(※フェンリルです)。


「これは……」

「しょうが焼きというのですねっ!」


 ヘルメスさんが、僕が答えるより先に、料理の名前を呼んだ。

 そう、僕が作ったのは、豚のしょうが焼き、です!


 ……ん?

 あれ? 今ヘルメスさんなんで……。


『ケースケ! 食べていい、食べていい~?』


 スペさんがちぎれそうなくらい、ぶんぶんぶん! と尻尾を振るっている。


「あ、うん。どうぞ」

『「「いただきまーす!」」』


 スペさん他、皆さんがしょうが焼きにがっつく。


『ぬぉお! こ、これはぁ~~~~~! 今までに無い、味! あまじょっぱくって……最高にうーーーーーーーーーーーーーまーーーーーーーーーーーーーーーーーいーーーーーーーーーーーーーぞーーーーーーーーーーーーー!』


 スペさんがフェンリル姿になって、また天井へ向けてビームを放っている。

 好きだねえ、ビーム。


「はぐはぐはぐ! むっぐむぐ……ぷはぁ! なんだこの料理! こんな美味い肉料理、生まれてはじめてだぞっ!」


 ディートリヒさん、泣きながら食べてる。


『んほぉおおおおお! 美味いぃいいいいいいい! こんなの初めてぇえええええええええ!』


 ジャガーさんも大絶賛。

 ちょっとリアクションが気持ち悪かった。


 で、ヘルメスさんはというと……。


「あー、最高だねぇ。これは米が食べたくなるよ~」

「そうでしょ~?」


 ………………。

 ……………………ん?

 え?


「へ、ヘルメスさん……?」

「ん? なんだい?」


 ヘルメスさんの雰囲気が……違った。


 それに、彼女の目の色が、左右で……違う!


 彼女の左目が……黒目。

 つまり、僕と同じ色をしてる。


「ああ、あいさつが遅れたね。カバンの勇者ケースケ・サクダイラ君……いや、佐久平さくだいら啓介君……かな?」


 ヘルメスさん……さっきと全然雰囲気が違う。

 しかも僕を、佐久平さくだいら啓介って、呼んだ。


『おぬし……もぐもぐ……何もじゃ……けぷっ。貴様の肉体には……はぐはぐ……二つの魂を感じるぞ……』


 スペさんが顔を、しょうが焼きソースでベッタベタにさせながら、シリアス顔で言う。

 僕はハンカチでスペさんの口元を拭いながら聞く。


「ヘルメスさん、あなたは一体……?」


 するとヘルメスさんは、ニヤリと笑う。


「自己紹介が遅れてすまないね。ぼくは、【ヘルメス・洗馬せば】」

「ヘルメス……洗馬? 洗馬せば……? って、まさか!」


「君も気づいたかい。そう……」


 すっ、とヘルメスさんが自分の胸に手を置いて、言う。


「ぼくは、転生者。つまり、君と同じ世界から来た……日本人だ」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【★お知らせ】

新連載、はじめました。


https://kakuyomu.jp/works/16818093075626693330


『おばさん聖女、隣国で継母となる〜偽の聖女と追放された、私の方が本物だと今更気づいて土下座されても遅い。可愛い義理の息子と、イケメン皇帝から溺愛されてるので〜』


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