第9話 うわぁ! ドラゴンだぁ!(歓喜)



 僕は妖精郷アルフヘイムへと向かっている。

 道中、たくさんの雑魚モンスターと戦闘した。


『解せぬな』

「なにが?」


 馬車の中、膝の上のスペさんが首をかしげながら言う。


「先ほどの大量のモンスターどもじゃ。なにゆえ、皆同じ方向から押し寄せてきたんじゃろうな?」


 あ、言われてみれば、全部僕らの進行方向から、魔物が流れてきた。


「スペさんの見解は?」

『わからんな。我が見たところ、皆なにかに怯えてるような魔力の波長を出していたが』


 ふぅん、怯えてた……。


「それって、何か強い敵がいて、怯えてたってこと?」

『かもしれんが、ありえんな』


 あら、スペさんがきっぱりと否定してきた。


「ありえないってどうして?」

『簡単なことよ。この周囲に、脅威となるような【強者の魔力】は、感知できないのじゃ』


 スペさんは魔力感知って言う、特殊な技能を持っている。

 周囲に居る、魔力を帯びた生物を見つけ出すことができるんだって。


『強者となれば内包する魔力量は多くなるもの。じゃが、我が感じ取れる範囲内に、そんな気配はゼロじゃ』


「ふーん……じゃあ、なおのこと、あの魔物の大群は何に怯えてたんだろうね」


『さぁのぅ……む? またも、魔物がこちらに近づいてくるのじゃ』


 ええー……またぁ。

 正直飽き飽きなんですけど。皆弱いし。(※普通に上澄み)


 ワクワクするような戦闘みたいなのは起きないんだよね。


「どんな魔物?」

『まあ、我より弱いな。それが1匹、向こうから来るぞ』


 弱い魔物が一匹かぁ。

 じゃあまたさっきと同じ展開になりそう。

 だるーい。


「勇者様。ここは、私にお任せくださいっ」


 ディートリヒさんが、どんっ、と自分の胸を叩いて言う。


「露払いはお任せください!」


 どうやらやってくる雑魚を、ディートリヒさんが倒してくれるみたい。



「大丈夫ですか?」

「はいっ。私はこう見えても、帝国軍の指揮官を担っております! 並の魔物くらいなら、私ひとりで十分対処可能です!」


 さっきの魔物のときは、お姉さんなんもしてなかったじゃん……っていう言葉は飲み込んでおいた。

 まあ、数多かったしね。


「じゃあ、お願いします」


 あんまり目立ちたくない僕は、戦闘をディートリヒさんに任せることにした。

 まあ相手弱いって言うし、ディートリヒさん程度でも倒せるんだろうな。


 で、だ。

 そいつはまた、妖精郷アルフヘイムからやってきたのだ。


「あ……ば……あ……ああ……」


 ディートリヒさんが、【それ】を見上げて震えてる。

 そして……僕も……。


「あ、ああ……う、あぁあ……!」


 なんて……ことだ。

 そこに、居たのは……。


 巨大な体。

 力強いフォルム。ギラリと光る牙と爪。

 黒い鱗に包まれた。


「「う、うあぁああああ! ドラゴンだぁああああああああああ!」」


 僕とディートリヒさんの声が、被る。

 

『脆弱ナ人間共ヨ! 我ガ名ハ、【暗黒竜ジャガーノート】!』

「「暗黒竜ジャガーノート!」」


 な、なんてことだ……!

 うわぁあああああああ!


名持ちネームドモンスター……! この魔力量では……勇者様、ここは一度撤退を……あたしが時間を稼ぎます!」


 て、撤退……?

 いま、逃げる……って言ったの?


 そんな……。


「もったいない!」

「『え?』」


 ヘルメスさん、そして暗黒竜さんが……ぽかんとしてる。


「も、もったいない……? どういうことでしょう?」

「だってドラゴンだよ! 生! ドラゴン! か~~~~~~~っこいいじゃないですかあ!」


 異世界に来て、僕は初めてドラゴンを見ている。

 ドラゴン!


 ファンタジーものでは、定番のモンスターだ!

 カッコいいフォルムの、カッコいい魔物!(興奮)


『ナンダ貴様……。サッキ怯エテイタ、ハズナノニ……』

「え、普通に大興奮していただけですけど?」

『悲鳴デハ無カッタノカ……?』


 嬉しい悲鳴だね、あれは。


『マアイイ。矮小ナル人間。我ガ暗黒竜ノ威容ヲ、前ニ、平伏セヨ……。サスレバ、痛ミヲ感ジヌ、ヤリ方デ、殺シテ……』

「わー、かっけ~! 鱗ぴっかぴかじゃーん」ぺんぺん。


 僕は暗黒竜さんの足に近づいて、ぺんぺんと叩く。

 うわはっ、ドラゴンの鱗つるつるぅ。


 なんか今まで触ったことない、さわり心地だ!

 硬いんだけど、なんかあったかい。わ、わ、おっきぃ。


「に、逃げろカバンの勇者殿! そいつから! 早く!」


 ディートリヒさんが真っ青な顔で叫んでる。

 でも僕はぺちぺちをやめなかった。


 もっとドラゴンの鱗を堪能したいじゃないかぁ。


『人間ゴトキガ! コノ偉大ナル、【憤怒ノ眷属】タル、暗黒竜ニ触レルトハ! 万死ニ値スル!』

『む? 憤怒の眷属……? まさかこやつに名付けしたのは……』


 スペさんが何か言ってる。


『死ネ!!!!!!!!!』


 暗黒竜さんが腕を広げる。

 ぶっとい、そしてでっかい腕を、僕めがけて振るってきた!


 その鋭い竜の爪が、僕に襲いかかる……!


 バキンッ……!


「カバンの勇者殿ぉお……!」

「ふぁーい。なんですか?」

「なにぃいい!?」 


 驚いてるんだろう、ディートリヒさん。


『ソ、ソンナ! 我ガ爪ノ一撃ヲ受ケ、無傷ダト!?』


 そして同じように驚く、暗黒竜さん。


「これくらい位じゃ傷なんてできませんよぅ」


 しかしあの暗黒竜さん、恐い見た目に反して、ぜーんぜん強くない。

 あんな勢いよくパンチしてきたのに、全然相手にダメージ与えられてないし(※即死レベル攻撃)


 スペさんの言っていたとおり、あのドラゴン、強い敵じゃないのかも(※強い敵です)。


 じゃあ、近づいても大丈夫だよね!(※大丈夫じゃないです)


 僕は暗黒竜さんに近づく。


『死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ!!!!!』


 暗黒竜さんがめちゃくちゃに腕を振るってくる。

 ばき! ばき! がきぃいんん!


「あはは、無駄だよ。僕には反射スキルがあるんだもん」


 自動で展開する、防御スキルが僕にはあるのだ。

 暗黒竜さんの爪とぎ攻撃は、僕には通じない!


 ぱきぃん!


『バ、バカナ……! 鋼鉄ヲモ容易ク切リ裂ク我ガ爪ヲモッテシテモ、倒セナイダト!?』


 よじよじ。

 ふぉおおおお!

 たっかーい!


 ドラゴンの頭の上に乗る、僕!

 しゅごーい! たかーい! わー!


『コノ……ナメルナヨ、小僧ォオオオオオオオオオオオオオオ!』


 ごぉお! と暗黒竜さんの体から、漆黒の魔力が吹き出る。

 僕は空中に投げ出される。


「わー」


 でも大勇者の記憶がよみがえり、僕の体が勝手に動き、最適な受け身を取る。

 すちゃっ。


「なんて膨大な量の魔力!」

「勇者様っ、お逃げください! 竜のブレスが来ます!」


 おお!

 ドラゴンブレスだぁ!

 りゅうのいぶき、破壊光線だ!


 わ、わー!


「見せて見せてぇ~!」

『望ミ通リ、消シ炭ニシテクレル!』


「え、別に消し炭にしてなんて頼んでませんけど?」

『クタバレェエエエエエエエエエエエエ!』


 ぐおぉ! と暗黒竜さん大きな口を開ける。

 ブレスくるかなぁ、わくわくっ。


「逃げて勇者殿ぉ!」

「勇者様ぁ……!」


 逃げる?

 あはは、何言ってるんだろう。特等席で、ドラゴンのブレスを見れるんじゃないか!


 見逃せませんよぉ、これは!


『我ガ暗黒ノ炎デ、消シトベェエエエエエエエエエエエエエ!』


 ビゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!


 反射があれば、はじき返せるだろうけど。

 反射→直撃で大爆発起こしちゃ、目立っちゃうからね。


 オタクさんに目立っちゃいけないって言われてる。

 彼の言ってることは、守らないとね。


「ということで、蠅王宝箱ベルゼビュート!」


 勇魔のカバン、固有スキル:蠅王宝箱ベルゼビュート

 カバンから無数の触手が伸びる。


 黒い触手の群れが津波のように、ドラゴンのブレスへと向かって伸びる。


 触手がブレスに絡みつく。

 ジュゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ。


 触手の波にブレスがぶつかる。

 ブレスは頑張って触手の群れを突破しようとする。


 が、だめ。

 全部、触手に吸収されてしまった。


『……………………嘘ぉ』


 唖然とする暗黒竜さん。

 触手をカバンに戻すっと。


 僕は暗黒竜さんの元へ行く。


「ビーム格好良かったです! 見せてくださってありがとうございました!」


 ドラゴンの鱗を触れたし、ドラゴンに乗ることもできた。

 ブレスを見ることもできた! うん!


「もう用は済んだんですけど……どうします?」


 帰ります? みたいに言いたかったんだけど……。


『あの……すみませんでした!』


 暗黒竜さんが、僕の前で土下座してきたのだ。

 はえ……?


『あの、ほんと調子のってすみませんでした! 命だけは! 命だけはどうかお助けくださいぃいいいいいいいいいいいいいいい!』


 えっとぉ……え?

 なんで命乞いしてるの……?


「す、すごい……名持ちネームドの邪悪なるドラゴンを、服従させてしまうだなんて!」

「勇者様……すごすぎます!」


 ええ~……。

 別に服従させる気なんてなかったのに。


 ただ、一通り満足したから、もう帰っても良いよって言いたかっただけなのに。

 うーん、どうしてこうなった……。


~~~~~~

《暗黒竜ジャガーノート》


 オレの名前はジャガーノート。

【憤怒】の魔王【イラ】さまから、名前をもらい、暗黒竜へと進化した、ちょーつえードラゴンさ。


 オレが住んでいたの場所は、妖精郷アルフヘイムってところだ。

 元は憤怒の魔王様のナワバリだったんだが、舎弟であるオレに、この場所を譲ってくれたわけ。


 以後、オレは妖精郷アルフヘイムで暮らしていたわけだ。

 ところが、だ。


 最近(※竜基準)になってオレのナワバリに、変な虫が居着くようになった。

 人間共はそいつを【魔蟲まちゅう】と呼んでいるみたいだ。


 虫どもはオレが見つけ次第駆除していった。

 オレから見れば、魔蟲まちゅうなんてまあ蚊みたいなもんだしな(笑)


 ところが……だ。

 すこし、ほんのすこーし余裕ぶっこいていたら、オレのナワバリ……虫の巣だらけになってしまった。


 しかも、だ。

 特大の【卵】まで発見してしまった。


 その卵はどんだけぶったたいても、ブレスを放っても、壊れようとしない。

 中で育つ、【それ】は、どんだけ強いものになるのだろうか……。


 いやいや、オレは憤怒の魔王様直々に名前をもらった眷属だぞ?

 虫ごとき、恐るるに足らず!


 ……って、思っていたのだが。

 その巨大な卵が、今朝、どっくん! と強く動いた。


 心臓の鼓動。

 それだけで……オレを含めた、妖精郷アルフヘイムの魔物たちは、ビビって逃げちまった。


 心臓の音だけで、わかる。

 あれはヤバいものだと!


 オレは逃げた。

 だが……逃げた先で、もっともっと、もぉ~~~~~~~~~~~~っと、やべえモノに遭遇しちまった……!


 そいつは、人間に擬態した化け物だった。

 小さい見た目をしてるから、弱いんだとおもった。


 また、生物なら誰しもが持っている魔力。

 それを、そのガキからはまるで感じられなかった。


 魔力ゼロゆえに、オレは、そいつが弱い人間だって、勘違いしちまった。

 ……だが、あり得ないのだ。


 生物である以上、魔力がゼロになるなんてありえない。

 恐らく、凄まじいまでの、魔力コントロール術を持った、強者だったのだ。


 その証拠に、オレの鋼鉄をも砕く爪を受け手も、山を吹き飛ばすブレスを受けても、そのガキは平然としてやがった。


 極めつけは、ドラゴンブレスを、吸収しやがった。

 オレは、もう降伏した。


 その小さなガキに。


 マジ無理。ほんとむり。こいつには……オレ、敵わないよぉ……ふぇええん……。

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