第18話 料理で冒険者達を強化しよう



 地上を目指す僕たち。

 出発してから、8時間後。


「ぜえ……はあ……」

「も……無理……」

「足がいってえ……」


 冒険者パーティ、黄昏の竜の皆さんが、疲れた表情を見せてきた。


『なんじゃ、だらしのない。たった8時間くらい迷宮を歩いたくらいで何を根を上げておるのじゃ。ケースケを見よ、ぴんぴんしておるじゃないか』


「まあしょうがないよ。戦闘してるし、彼ら」


 それに僕には、靴の勇者さんから習得ラーニングした、ウォーキングスキルがあるからね。


「しっかしタフだなあんた」

「いくら歩いても疲れない靴履いてるんで」

「お、おう……そうか。やべえな……」


 チビチックさんは、相変わらずあまりツッコんでこない。

 説明の手間が省ける。いい人だ。


 しかし……そろそろ休憩取るとするか。

 皆疲れてるみたいだし。途中で死なれても困るしね。


「休憩にしましょう。■庭ハコニワに……」


 と、そのときである。

 ぎゅるんっ、と僕の目が、ダンジョンの隅を向いた。


 探偵眼プライベート・アイが発動したんだ。

 僕の探してるものが、あるみたい……?


「どうしたんだい、ケースケくん?」

「こっちに……何かあるみたいです」


 僕らは壁側へと移動する。


「ただの壁じゃないの」

「え、見えないんですか?」

「何を?」

「いや、穴空いてるんですが……?」


 僕の目には、ダンジョンの壁に大きな穴が空いてるのが見える。

 でも、彼らには見えてない。


 あ、これ赤ペ●先生でやったとこだ。

 もとい、さっきのカメレオンと戦ったときと、同じ現象だ。


「エルシィさん、幻術魔法って、もしかしてあります?」

「あるわよ。ありもしない幻覚を見せる魔法ね。姿を変えたり、ないはずのものをあるように見せたり」


 やっぱりそうか。

 じゃあこの穴は、幻術で、見えないようにされてるんだ。


 僕は壁に向かって進む。


 てくてく。


「ちょ、ぶつかるわよ! 危ないわ!」


 するぅ~……。


「って、ええええええええええ!? 壁をすり抜けたぁ!? ま、まさか……幻術!?」


 にゅっ。


「中に部屋がありましたよ」


 黄昏の竜の面々が、僕の後に続く……。

 そこは、ダンジョン内なのに、まるで外のように明るい場所だった。


 空気も地下とは思えないほど澄んでいる。

 ここにいるだけで、気分が良くなってくる。


「セーフゾーンだ! 助かったぞ!」


 シーケンさんが嬉しそうに言う。

 セーフゾーン……? なんか聞いたことあるような。


『ダンジョン内にある、休憩所じゃ。聖なる加護が部屋に施されておって、魔物が決して入ってこれぬ』


 そうだったそうだった。

 でも、探偵眼プライベート・アイはセーフゾーンに反応したのかな?


『ケースケよ、勇者の反応じゃ』

「! ほんとっ! スペさん!?」

『うむ、あっちじゃ』


 勇者の遺体があるなら、回収したい。

 僕と同じで、異世界から呼び出され、こんなところに放置された存在。

 可哀そうで、ほっとけないもんね。


「ちょっと奥見てきて良いですか?」

「ああ、おれたちはここで休んでるね」


 シーケンさんたちを他所に、僕は部屋の奥へと進む。

 セーフゾーンは結構広かった。


 ほどなくして、部屋の壁際までやってきた。

 そこには、白骨化した勇者さんがいた。


『こやつは、セーフゾーンから出れなかったのじゃろうな』 

「そっか……じゃあこの人も、廃棄勇者さんだね」


 僕は座り込んで、手を合わせる。

 短剣さんたちのように、ほっとくわけにはいかなかった。


「あなたを外へ、連れていきます。だから……お力をお貸しください」


 僕はカバンを開いて、勇者の遺体をッ回収する。


~~~~~~

・勇者のハンマー

固有スキル:鍛治(最上級)

派生スキル:全修復、武具強化付与

~~~~~~


 回収したハンマーを、僕は手に取る。

 見た目は金色をしてるけど、普通のトンカチだ。


『これで聖武具は9つじゃな』


 カバン、短剣、鍋、針、靴。

 箒、鏡、神眼。

 そして、鎚。

 もうちょっとで10個だ。


 ……こんなにたくさんの、可哀想な人たちがいるんだ。ちょっと……いや、だいぶへこむ。


 勇者だって、来たくて異世界に来たわけじゃないのに。

 無理矢理こさせられて、こんなとこに捨てられてさ。はぁ……。


『ケースケ。いかんぞ、そんな顔しちゃ』


 スペさんが頭の上からころん、と落ちてくる。

 僕は手で受け止める。


『大勇者ミサカと約束したんだろう? のんびり、ほどほどに頑張る、とな』

「!」


 ……そうだった。

 ミサカさんは言っていた、重いモノを僕に背負わせたくないって。


 楽しく冒険して欲しいって。だから僕は約束したじゃないか、シリアスに、なりすぎないって。


「そうだったね……ごめんね、スペさん」

『ふふふ、そこはありがとう、じゃろう?』

「そうだね。ありがとう」


 きゅっ、と僕は子犬スペさんを抱きしめる。

 柔らかくて、あったかい。ささくれだった気持ちが、癒やされていく。


 スペさんが側にいてくれて、良かった。


『して、ケースケよ。我はそろそろ~……お腹が~……』

「ふふふ、そうだね。ご飯にしよっか」


『おほー♡ 今日はどんな美食を堪能させてくれるんじゃ~♡ 我はもうそれだけが楽しみじゃ~♡』


 あ、そっか。

 スペさんからすれば、退屈極まりないのか。


 僕は勇者の鍋を取り出しながら、会話する。


「ねえ、スペさん。なんかさ……進み、遅くない?」

『我も思った。だいたい、1日かけてダンジョンの階層を2つしか上れないとは! どうなっとるんじゃ! 弱すぎじゃろあやつら!』


 背後の、黄昏の竜の皆さんを、ちらと見る。


「それにしても、快挙だな! 一日に2階層も進めるなんて!」

「ほんとね。ケースケくんのサポートがあるおかげね」


「つか、体のキレがなか普段よりよくない? うめーメシ食ってるからなかぁ」


 あ~もー。

 のんきな人たちだなぁ。


『我と二人きりのときは、250から50層まで、一瞬でこれたのにのう。なあケースケ、今からでも遅くない、二人でこそっと抜けだそうぞ?』


 うーん……。

 たしかにこのままだと、凄い時間かかる。


 地上まであと48階。

 1日2階層だとして、24日かかる計算だ。


 スペさんの我ビームや、僕のすけすけビーム+空歩のコンボがあれば、一日でダンジョン突破できるのに。


 でもここを抜けた先、オタクさんがどこにいるかは、知らない。彼らに案内してもらうしかない。


「どうやったら、もっと早く進めるかな……?」

『せめてあやつらが、もうちっと強ければのぅ~』


 ふーむ……強く。

 強く……。そうだ!


「良いこと考えたぞ。僕が、あの人達を強くすれば良いんだ!」

『ぬ? あやつらを強くする? スキルでも付与するのか?』


「ううん。もっと根本的な改善。あの人達弱いから、僕が強化するの」

『強化……ってどうするのじゃ?』


「聖武具を使って!」


 僕は取り寄せカバンから、必要なモノを取り寄せる。


「パン粉、卵、とんかつソース……よしよし」

『おほほほほ~! ケースケぇ~! また美味いものを作るのかぁ!』


「うん。力のつく料理を作る。で、あの人達に食べさせる」


 どうやら聖武具を使って、勇者ぼくが料理すれば、ご飯に魔力が付与される。

 で、それを食べるとスペさんはでっかくなった(強くなった)。


 つまり、魔力は人を強くするんだ。


『なるほど、良い案じゃな。我も美味しいモノ食べれるしな!』


 僕は早速調理に取りかかっていくぅ!


 コンロに、お鍋を置いて、そして……。


「魔神水をここに注ぎます」


 とくとくとく……とお鍋に魔神水を注ぐ。

 そして火にかける。


『カレーか? カレーを作るんじゃな!』

「煮込み料理はカレーだけじゃないよ。それに今日は、煮込みじゃない。揚げ物します!」


『ぬぅ? 揚げ物? しかしこれ入れたのは、魔神水じゃろ?』

「うん。でも、前からちょっと試したかったんだ。ひょっとしたら、魔神水で揚げ物できるかもって」


 魔神水って、ちょっと粘性があるんだ。

 だから油のように、揚げ物ができるかもって。


 そして僕には、できる、という確信があった。

 なぜなら……。


「調理……開始ぃ!」


 かかかかっ!

 ぱふぱふっ。

 じゅ~~~~~~~~~~!


 やっぱりだ!


『おお、ケースケの言ったとおり、揚げ物ができておるな! なんでわかったんじゃ』

「この勇者の鍋の力っぽい。魔神水で揚げ物できる、っていうインスピレーションが沸いてきたんだ」


 ありがとう、鍋さん。だいぶ助かってます。


 ほどなくして。


「完成! ミノタウロスの、牛カツ!」

『ぬわぁ~~~~~~~~~!』


 スペさんが奇声を発する。


『これ、美味いやつぅ~~~~~! ぜぇったいうみゃーーーーーい!』


 びょんっ、とスペさんが牛カツに飛びつこうとする。

 僕は首根っこを掴む。


『なにすんじゃー!?』

「ご飯は皆で食べるものです」

『しょんにゃぁ~~~~~~~…………』


「直ぐ人数分できるから」

『でもでもぉ! こんな美味そうな匂いさせてるものを前に、我慢なんてできない! ケースケぇ! はよぅ食わせてぇ』


「待て!」

『きゃいーん!』


 ややあって。

 僕は人数分の牛カツを作って、黄昏の竜の皆さんに、料理を振る舞う。


「な、なんだこの料理……見たことないぞ……」

「でも……とんでもなく美味しそうね……」

「やべ……よだれが……」


 皆さん眼を輝かせてる。


『ケースケはやくぅう! はやくぅう~~~~~!』


 スペさんなんて尻尾を、残像が見えるレベルでぶんぶんさせていた。


「じゃ、食べましょうか」

「「「『いただきまーす!』」」」


 サクッ……!

 じゅわ……!


「「「『うまぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~い!!!!!!』」」」


 全員、絶叫。

 しかも恍惚の笑みを浮かべてる。


「やばいわこれぇ! なにこの揚げ物! 油が甘い! すごいわぁ!」

「衣がこんなさっくさくの揚げ物なんて、今まで食べたことねぇー!」


「ケースケ君はやっぱり料理の天才だなぁ!」


 全員、牛カツに満足してるっぽい。


「んふぅ~~~~~♡ はぁ~~~~♡ この甘塩っぱいソースに、さっくさくの揚げ物あうぅ~~~~~♡ しふくぅ~~~~♡」


 エルシィさんと同じくらい、凄い勢いで食べてるのが……。


『う~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~みゃ~~~~~~~~~~~~!』


 スペさんである。

 

「『おかわり!』」


 二人がほぼ同時におかわりを言ってきた。

 僕のそばにはお鍋が置いてある。


「わかりました。今上げますね~」


 じゅぅううう……。


「はいどうぞ」

「『うまぁあああああああああ!』」


 ドンドン食べていくエルシィさん(とスペさん)。

 シーケンさんもチビチックさんも、もりもり食ってる。よしよし。


「君は食べないのかい、ケースケくん?」

「あ、はい。あとでちゃんと食べますよ。今はあなたたちの食事かかりですので」


 するとエルシィさんが涙を流しながら言う。


「こんにゃに美味しいもの……食べさせてくれるなんて……ぐしゅ……ありがとおぉ~」


 いえいえ。

 これも僕らが冒険をスムーズに進めるためですので。


 とは、言わない。別に言わなくてもいいことだしね。


 っと、そうだ。

 ちゃんと強化されてるかなぁ。


 鑑定して……


『ケースケおかわり!』

「あたしももう一枚!」


 ……エルシィさんとスペさんが、おかわりしまくってくる。

 まー、鑑定はあとで良いか。


 多分強化されてるよね、そこそこ(※←全員英雄クラスに強化されてます)

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