第26話 一章エピローグ



 その後、僕たちは順調にダンジョンを進んでいった。

 出てくる敵は、強くなった黄昏の竜の皆さんが瞬殺してくれた。


 僕は後ろからついてくだけでよかった。

 そして、25階層から、2日後。


 僕たちはついに、ダンジョンの出入り口までやってきた、のだけど……。


「扉……しまってるね」


 目の前には、大きな鉄の扉があった。

 扉表面には複雑な模様が描かれており、ぼんやりと光っているのがわかる。


「ど、どうなってるんだこれは!?」


 あれれ、シーケンさんが驚いてるぞ?


「どうしたんです? 早く扉を開けて外に行きましょう」

「……ケースケ様。恐れながら申し上げます」


 シーケンさんはすっかり、僕に対して、恐縮するようになってしまった。

 大勇者だと思ってるらしい。


「ダンジョンの出入り口には、扉なんてものは存在しません」

「なんと。え、じゃあこれは、異常事態ってことです?」


 なんで急に扉なんてできたんだろ?


「おれが開けましょう。ふんぬ! ふんぐぅうううううううううう!」


 シーケンさんが渾身の力をこめて、扉を押す。

 チビチックさんとそろって、あーでもないこーでもない、と扉を開けようと躍起になっている。


 結果。


「どうやっても開かないようです」

「カギがかかってる感じもしねーっすわ」

「魔法でも剣でも開けられないみたいだわ」


 ってことが、黄昏の竜の皆さんの検証で分かった。

 うーん、わからない。わからないときは……。


「鑑定!」


・七獄【高慢の迷宮】の扉

→迷宮が生成した扉。迷宮の意思が許さぬかぎり、決して開くことはない。物理・魔法攻撃無効。

※破壊不能オブジェクト


・破壊不能オブジェクト

→この世の理では、破壊することのできないものの総称。


 僕は情報をみんなに共有する。


「め、迷宮が生成した扉!? そんな現象、聞いたことないわ!」

「破壊不能オブジェクトっていう単語も初めて聞いたぜ。何が起きてるんだ一体……?」


 黄昏の竜の皆さんが困惑してる。

 一方、スぺさんが冷静に言う。


『おそらくはこの迷宮、ケースケを外に出したくないのじゃろう』

「はえ? 僕を? どういうこと?」


『迷宮は生物じゃ。生き物である以上、栄養を取り込まねばならぬ、と前に説明したじゃろ?』


 ミサカさんが封印されていた部屋で、たしか、スぺさんがそんなこと言っていたような。


『迷宮は、栄養価の高い、とてもおいしいエサを外に出したくないのじゃ』

「栄養価の高いエサ……?」

『うむ。大勇者の力を継承し、9つの神器を自在に操る、強者けーすけをな』


 なんと、迷宮は僕を食べたいがために、出入り口をふさいでしまったようだ。


「ごめんなさい、僕のせいで、皆さんが外に出れなくなって」


 黄昏の竜の皆さんにペコっと頭を下げる。

 人様にめーわくかけるのはよくないもん。


 シーケンさんたちは「いえ、大丈夫です」と強がってみせた。

 でも不安そうにしている。


「しかし、どうしましょう。迷宮の出入り口は一つしかありませんし」

「あの、敬語いいですよ。シーケンさん。てゆーかやめてください」


 年上の人に敬語使われるの、なんかやだし。


「わ、わかったよ、ケースケ君」

「ありがとうございます。てか、そうだ……この世界、テレポート的な手段はないんですか? 転移的な」


 僕は一つ気になっていたことを尋ねる。

 僕は、気づいたら王城から、このダンジョンの最下層に来ていた。


 でも、どうやって僕をここまで連れてきたのか、ずっと疑問だった。

 一番簡単な答えは、テレポート的な手段があって、王城からここへと送り届けたといううこと。


 テレポートできるなら、たとえ出入り口をふさがれても、脱出はできるはず。

 チビチックさんが答える。


「転移する手段はあるけど、ものすげえ高いんだ」


 あるにはあるんだ。


「転移結晶っつって、使うと迷宮の外に出る魔道具マジックアイテムがあるんだ」

「転移結晶……魔道具!」


 なんかファンタジーだ。


「どれくらい高いんですか?」

「少なくとも、おれらじゃ逆立ちしたって買えないなぁ」


 この人たちが転移結晶をもってないってことは確定した。


「エルシィさん、念のために聞いておきたいのですが、転移てきな魔法は使えます?」

「ううん、使えないわ。転移魔法は、古代魔法っていって、現代で使える人は数えるほどしかいないの。ごめんね」


 そもそも、使えるなら最初から使ってるだろうしなぁ。


「フェンリル様のお力で、ダンジョンの壁を破壊するのはどうでしょう?」

『やってみよう』


 ぼんっ、とスぺさんがフェンリル姿になる。

 我ビームを、放った。


 ビゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


『む! ビームが、曲がる!』


 壁に向けてはなったつもりの我ビームが、急に向きを変えて、扉に直撃。

 扉は大きな音を立てたけど、破壊されることはなかった。


『特殊な力場が形成されてるようじゃ。攻撃がすべて、扉に向かってしまう』

「万事休す……か」


『ケースケ、どうする?』


 スぺさんを含め、みんなが僕に期待のまなざしを向けてくる。


「やってみる! みんな、下がってて」


 僕は扉の前に立ち、カバンを大きく開く。


「収納!」


 シュゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 カバンの中に向かって、空気が吸い込まれていく。


「しゅ、収納……? ケースケくんは何をするつもりなの?」

「あの扉を、収納してみます!」


 スぺさんだけはいち早く、僕の意図に気づいたようだ。


『そういうことか! あの扉は……破壊不能。攻撃をすべて無効化する! じゃがケースケの収納は、攻撃では……ない!』


 勇者のカバンによる得意技、収納。


 ものを、ただしまう。

 攻撃じゃないのだから、収納事態、扉に対して有効!


 けど……。


「だ、だめだわ! 扉がびくともしない!」

『く! どうやら扉は壁にがっちり固定されてるようじゃ……』


 カバンに収納するためには、物を吸い込む必要がある。

 裏を返すと、吸い込むことができないと、収納不可能。


 こんな風に、がっちり踏ん張られると、モノを収納できないのだ。


「そんな、無敵のケースケ君の収納が、通用しないなんて! もう、お仕舞だわぁ~~!!」


 エルシィさんがギャン泣きする。

 シーケンさんたちの表情にも、あきらめの色が見えた。


『いや、ケースケは、あきらめておらん!』


 スぺさんだけは、僕を信じてくれている。


『あやつは、すごい子じゃ。魔と勇に認められし男じゃぞ! こんな障害くらい、容易く超えて見せる!』


 そのときだった。


『条件を達成しました』

『聖武具が、進化します』


 聖武具が、進化?

 瞬間、僕のカバンの形が変わる。


『勇者の鞄は、【勇魔の鞄】へと進化しました』


 今まで少し小さめのカバンだったのが……。

 大きめの、カバンになった!


『進化に伴い、ユニークスキル【蠅王宝箱ベルゼビュート】を獲得しました』


 蠅王宝箱!?

 なんだそれ、と思った次の瞬間……。


「な、なんだあの、【触手】は!?」


 カバンから無数の、黒い触手が生えてきたのだ!

 それらは扉に向かって飛びて行く。


 無数の触手が扉のふちに手をかける。

 そして、ず、ずずずずずう! と扉を引っ張る。


 みし!


「見て! 扉の周囲の壁にひびが!」

『これが……新たな聖武具の力じゃ! 蠅王宝箱ベルゼビュート、カバンから触手を出し、異次元の力で対象を引き寄せ、そして絶対に収納する!』


 なんで、スぺさんがそんな詳しいのか気になった。


『これは、暴食の魔王の力! つまり今のケースケには、勇者と魔王、二つの力が備わっておる! こんなの前代未聞じゃあ!』


 無数の触手が、扉を……。

 みしみし、ばきぃいいいいいいいいいいいいん!


「「「扉を、壁から引っこ抜いたぁ!?」」」


 新しい力、蠅王宝箱ベルゼビュート

 僕のカバンからあふれ出した、黒い触手が、扉を力尽くで……引っこ抜いた!


「やった……! って、やばい! あんなでっかい扉、ケースケ君のカバンの中に入らないわよ!?」


『心配するな。蠅王の権能は【暴食】。たとえどんなに大きなものであろうと、飲み込んでしまうのじゃ』


 無数の触手は扉をがんじがらめにしていく。

 ドンドンと、小さくなっていき……。


 やがて、野球ボールくらいの大きさになった。

 黒いボールは僕のカバンの中にすぽっと入る。


『聖武具のレベルが上がりました』


『派生スキル、【救急ファーストエイドボックス】を獲得しました』


『派生スキル、【魍魎イビルボックス】を獲得しました』


『派生スキル、【聖■アーク】を獲得しました』



 扉を収納したことで、レベルアップして、新しいスキルを覚えたみたい。

 それも、一気に三つも!


「す、すごいぞケースケ君!」

「やっぱりあんたはたいしたやつだ!」

「破壊不能オブジェクトを取り込んじゃうなんて! すごすぎるわ!」


 わっ、と黄昏の竜の皆さんが駆け寄ってくる。


『見事じゃ、ケースケ。実に、見事。聖武具をまさか、こんな短期間に進化させるなんて、思わなかったぞ。あのミサカに並ぶほどの才能じゃ』


 ミサカさんに匹敵する……才能……かぁ。

 えへへ、嬉しいなぁ。


「見て……外よ! ああ、久しぶりの、地上の光!」


 たっ、とエルシィさんが外へ向かって駆け出す。

 僕も……知らず走っていた。


 そして……。


「わぁ……!」


 そこには、異世界が……広がっていた。

 眼前には森が広がっている。

 

『ここは小高い丘になっておるでな。よく、遠くが見えるじゃろう』

「うん……うん! すごい……世界って……こんなに広いんだ!」


 異世界の空も、現実の空と同じで青く、どこまでも遠くまで広がっていた。


 空気が、美味しい。

 日の光……あったかい。


 ああ……やっと……やぁっと……。

 僕は、外に……来たんだぁ。


『まだ終わりではないぞ、ケースケ。ここからじゃ。おぬしの、異世界生活はの』


 あ、そうだった。

 まだダンジョンでただけだった。


 これからやりたいこと、いっぱいある。

 オタクさんに会いたい、ミサカさんを自由にしたい。


 そして……この世界を、のんびり旅したい。


『どこまでも、お供するぞ、我が主よ♡』


 ぴょんっ、とスペさんがジャンプして、僕の頭に乗っかる。

 そうだ、まだ旅は始まったばっかりだ。


「よし……いこう!」


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ステータス

 名前:佐久平さくだいら 啓介けいすけ

 種族:人間

 称号:勇魔

 加護:魔王の加護、大勇者の加護

聖武具:9個所有

・勇魔の鞄

固有スキル:蠅王宝箱ベルゼビュート

派生スキル:

取り寄せカバン

■庭ハコニワ

アイテムボックス

魔物ボックス

魔法ボックス

救急ファーストエイドボックス

魍魎イビルボックス

聖■アーク


・大勇者の神眼

固有スキル:神鑑定

派生スキル;

超眼力他(※省略)


・勇者の短剣

固有スキル:隠密ハイド(最上級)

派生スキル:マッピング、解体、鍵開け(最上級)


・勇者の鍋

固有スキル:調理(最上級)

派生スキル:絶対切断、加温


・勇者の針

固有スキル:裁縫(最上級)

派生スキル:麻酔針、鋼糸


・勇者の靴

固有スキル:ウォーキング

派生スキル:空歩、縮地


・勇者の箒

固有スキル:クリーニング

派生スキル:浄化、突風


・勇者の鏡

固有スキル:ミラーサイト

派生スキル:反射、幻影


・勇者の鎚

固有スキル:鍛冶(最上級)

派生スキル:全修復、武具強化付与

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