第25話 駆け出し剣士さん(※剣聖)を鍛える
大勇者ミサカさんの剣術、聖剣技を
・聖剣技(初級)
→大勇者ミサカ・アイの得意とする剣術、その初級技を使用可能となる。
またミサカの剣士としての記憶を呼び覚まし、トレースする。
「これって……つまりミサカさんみたいに剣が使え、動けるようになるってこと?」
『そうじゃ。さらに、大勇者の使う技の一部を使用可能となる』
「祓魔ってやつも?」
『あれは上級技じゃな。下位互換の技があったはずじゃが、それなら使えるやもな』
さて。
色々片付いたし、地上へと向かって出発しようとしたとき。
「勇者様、お願いがあります! おれを……あなた様の弟子にしてください!」
パーティリーダーで、剣士のシーケンさんが、僕の前で土下座してきた。
えぇ、弟子だって~……?
「お断りします」
きっぱり。
だって僕は先を急いでるからね。
早くオタクさんに会って無事を知らせたいし、聖武具のレベルを上げて、ミサカさんを呪縛から解放したい。
やることが多くて、弟子なんて取っている暇がないのだ。
「ごめんなさい」
「そ、そんなぁ~……。いや、そうですよね。勇者様は、世直しの旅の最中……ですもんね」
え、世直しの旅?
なにそれ聞いてない(当事者)。
『どうやら勝手に勘違いしておるようじゃな』
カバンからひょっこりと、スペさんが顔を出す。
なるほど、勘違いかぁ。まあよくあるよね。
よく知らないせいで、変なふうに解釈しちゃうってやつ。
実は強いのに自覚無しみたいな、ネット小説じゃよくあるやーつ。(※←世界最強の勇者)
というか。
「スペさん、いつの間に、カバンの中に」
『ここのほうが、肩の上より揺れないのじゃ。居心地よきじゃ♡』
収納(スキル)を使わないと、聖武具も普通のカバンのように使えるのだ。
スペさんはカバンに入って、顔だけ出すというスタイルが気に入ったようです。
「勇者様、ならばせめて、おれに剣の稽古をつけてはいただけないでしょうか? 一回だけでいいので!」
そうだなぁ。
うーん……。先を急ぐんだけど……。
でもここまで、一緒に旅した仲間の頼みだし。
稽古くらいならね。弟子にはできないけど。
「いいですよ」
「!!!! ありがとうございます! 恩に着ます!」
「いえいえ」
って、あ、そうだ。
ちょうどいいや。
ここで新しく手に入れた、聖剣技のスキルを、試しておこうかな。
いざというとき、焦って使えないってことがないように。
「スペさん、聖武具とりだしたいから、カバンから出て」
『やーじゃー♡ ケースケの側におる~♡』
カバンに手を突っ込むと、僕の手に、、とスペさんがすりすりと頬ずりしてくる。
子犬だけど。ちょっとどいてほしい。
「そーら、菓子パンだよ~」
取り寄せカバンから、菓子パンを取り出して、僕はぽいっと投げる。
『かしぱーーーーーーーん♡ はむっ!』
スペさんがカバンから飛び出て、菓子パンをキャッチ。
あんぱんをもぐもぐ食べている。
そのすきに、僕は聖武具、勇者の短剣を取り出す。
いきなり長い剣をぶん回すのは恐かったので、短剣さんの聖武具を借りることにした。
短剣さん、ミサカさん、力お借りします。
僕は剣を持って……構える。
シーケンさんが息をのむ。
「!? なんと……自然体。それでいて、隙の無い、構え! すごいです!」
剣を持ったら、自然と、体が構えを取っていたのだ。
聖剣技は、剣を持つと発動するみたい。
ミサカさんの剣士としての記憶を読み取り、体が、勝手に最適な構えをとったんだろう。
「…………」
かたかた……とシーケンさんが震えていた。
「どうしたんですか?」
「すみません……あなた様に、萎縮してしまってます」
「萎縮……?」
何にもしてないのに、僕……。
「伝説の大勇者と、練習とはいえ剣を交える。緊張してしまいます……」
「ふーん……そういうもんなんですね」
よくわからないや、僕には。
シーケンさんは片手で、がんがん! と太ももを叩く。
体の震えが、止まった。
シーケンさんの周りの空気が、びりびり……と震えてる……気がした。
「行きます!」
だんっ!
相変わらず、シーケンさんは、ゆっくりと僕に近づいてくる(※←神眼の超動体視力によって、スローに見えてます)。
ええー……あれだけかっこつけておいて、やっぱりゆっくりなの?
……と思ったんだけど。
「スキル【縮地】!」
あれ、一瞬僕の目線が、シーケンさんから逸れた。
と思ったら、直ぐ近くまで来ていた。あらまぁ。
「ぜやぁあああああああああ!」
シーケンさんが剣を、もの凄い勢いで振るってきた。
当たるといたそう……。
そう思ってると、体が勝手に動いた。
「聖剣技【流水】」
シーケンさんの剣を、短剣の腹で受ける。
そのまま、つるん……とシーケンさんの刃が滑った。
「これは……受け流し!?」
シーケンさんは、そのまま地面に倒れる。
『今のは初級聖剣技【流水】。敵の攻撃を、最小限の動きで受け流す技じゃ』
いやぁ、それにしても、すごいなぁ。
僕は単に剣を持って立ってただけだ。
それなのに、体が勝手に、技を使ってくれたのだ。
「も、もう一本おねがいします!」
「いいですよー」
つるん。
ドシャッ!
ツッコんできたシーケンさんの攻撃を、流水で躱す。
つるん。
ドシャッ!
そんな風に繰り返してるうちに、僕はだんだんと、聖剣技スキルについて理解してきた。
剣を持ってる間は、僕の体には、ミサカさんの剣士としての記憶が宿っている。
僕の思いに呼応して、最適な動きをしてくれるみたい。
こうして実際使ってみて、スキル効果がよくわかった。
「ぜえ……はあ……つ、次は……打ち込みを……お願いします!」
「打ち込み? 僕が攻撃して良いんですか?」
「はい!」
すちゃっ、とシーケンさんが腰を落として、構える。
攻撃か……。
あんま本気出したら、だめだよね。
こっちは大勇者ミサカさん(の力が宿っている状態)。
向こうは、駆け出し冒険者(※←若き剣聖。トップクラスの実力を持つ剣士)
あんま本気出して、ケガをさせちゃ悪いしなぁ。
なので、ほどほどのやつで。
「お、お、体が動く……」
すぅ……と僕は、片手を前に突き出し、腰を落とす。
あれだ……牙●!
さっきミサカさんに体を明け渡したときは、いえなかったけども。
ミサカさんの構え……●突なんだ!
もしかして……る●剣愛読者……だったりするのかな? ミサカさん。
「くぅ……なんて……プレッシャー。勇者様の圧倒的な殺気に正直……気絶しそうです……」
あ、ボンヤリ考え事してたら、なんかシーケンさんが勝手に疲れてた。
多分緊張して、体がこわばってたんだなぁ。
「体に無駄な力が入りすぎですよ」
「! な、なるほど……」
す……とシーケンさんが体から力を抜く。
あ、良い感じ。
「じゃ、いっきまーす」
僕は牙●の構えから、初級技を放つ。
「【閃光】」
ガキィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!
「ぐわぁああああああああああああああああ!」
あれ、今何が起きたんだろう……?
気づけば、シーケンさんが、ぶっ飛んでいた。
僕は……さっき立っていた場所から移動していた。
シーケンさんの
「ち、チビチック……何が起きたのか、わかった?」
「ぜ、全然……。勇者さんが消えた、と思ったら、シーケンがぶっとんでた……」
チビチックさんたちも、僕と同じ感想らしい。
こんなときは。
「教えて、解説のスペさん」
『しかたないのぉ~』
スペさんは腕を組み、ちょっと得意げになりながら、今の出来事を解説してくれる。
『今ケースケが放った技は、初級聖剣技【閃光】。超高速の突きを放つ技じゃ』
「牙●だ!」
『がと……ちゅ? とにかく、ケースケが超高速で放った閃光が、剣士の
「「「な、なるほどぉ~」」」
ん? とエルシィさんが首をかしげる。
「って、なんで君も感心してるの!?」
「え、いやだって僕も何が起きたかわからなかったし」
「自分で撃った技なのに!? どういうことなの!?」
ミサカさんのスキルだからね、これ。
あれ、でもおかしいな。
「僕には神眼があるのに、どういて閃光を目で追えなかったんだろ?」
『それはケースケ、おぬしの練度が足りないからじゃな』
「練度……」
『うむ。おぬしの眼も、剣術も、まだまだ……完全には使いこなせておらぬ。今はまだ、強い力を持ってるだけに過ぎんのじゃ』
経験値が足りないっていいたいのかな……?
そうだよ、僕の力……全部もらいものだし。
圧倒的に使う回数が少ないしね。
『練度の上昇に伴い、より強い……本来の、神眼の大勇者の力が行使できるようになるのじゃ』
シーケンさんが立ち上がりながら、声を震わせながら言う。
「これでまだ……全力ではない、のですか……?」
『うむ。運が良かったな、おぬし。これでケースケが殺す気だったり、もっと熟練度が上がっていた時に手合わせしていたら、額にこぶ程度じゃ済まなかったぞ』
僕はシーケンさんに近づいて、魔神水を頭からかけてあげる。
たんこぶが引っ込んでいく。(神眼でケガがわかる)
シーケンさんの治療を終えると……。
「ご指導、ありがとうございました……!」
バッ! とシーケンさんが僕に深々と頭を下げてきた。
「自分は、まだまだだと痛感させられました! 少し、天狗になっていたところ、鼻をへし折ってくだっさこと、感謝します!」
天狗になってたって……。
駆け出しなのに? ちょっとそれは早いんじゃ……。
「あなた様から受けた、ご指導。あなた様の流麗な剣技。この目に、記憶に……しかと、焼き付けました。この経験を一生忘れず、死ぬまで、鍛錬を続けようと思います!」
あ、熱い……。
「が、頑張ってください」
ちょっと熱の入り用が以上じゃないですかね。
少し練習に付き合ってあげただけなのに。
まあ、いいか。満足したっぽいし。
「じゃ、先に進みますか」
「「「はいっ……!」」」
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