第13話 フロアボス、瞬殺
『魔力充填完了じゃ! いつでも魔力感知、いけるぞ! けぷ……』
僕の頭の上で、魔王スペさんが元気いっぱいに言う。
ストックしていたカレー、全部食われちゃった……。
お肉がもう無くなっちゃったよ。
次の肉仕入れないとなぁ。
っと、今はそれどころじゃないか。
「じゃあスペさん、一特定よろしく」
『うむ! う~~~~~~~~~~~~~………………ハァ!』
スペから、何か薄紫色の波……? みたいなものが発せられた。
なんだろう、この紫色のやつ……?
少なくとも、スペさんと出会ってから今日まで、見たことないものだった。
これは一体……?
『場所を特定できたぞ。ここより上の、第50階層に、人間達はおるぞ』
「50……随分と浅いところにいるんだね」
僕がいたの250階層だし。
はっ、浅い階層にいるってことは……。
低ランクの冒険者なのかな?
だよねえ、250階層あるダンジョンの、たった1/5(20%)しか突破できない程度なんだもん(※←ここが最難関ダンジョンと知らないです)
「直ぐ行こう、スペさん」
『急ぎじゃな! よし、我が本来の姿なり、ビームを……』
「ビームは結構。僕を乗せて上に飛んで!」
『う、うむ……ビームは……?』
「人に当たっちゃうかもしれないでしょ!」
『うう~……カレーちゃんすがぁ……』
ま、まだ食べようとしてたのか……。
食い意地張りすぎてない……?
「スペさん、フェンリル! はりーあっぷ!」
『わかったのじゃ、変身!』
ぽんっ!
スペさんがフェンリル姿(3~4メートルの巨大狼)となる。
僕はジャンプして、彼女の背中に乗っかる。
スペさんのこの姿は、魔力を結構消費する。
だから、あんまりこの姿になって欲しくない(魔力補給のための料理に、お金掛かるから)。
「GO!」
『わおーーーーーん!』
ぐぐっ、とスペさんが体を縮めて、びょんっ! と勢いよくジャンプ!
僕はスペさんの毛皮をぎゅっと掴む。
そうしないと、振り落とされてしまうそうだ。
『ケースケよ! 天井が近づいてきたぞ! どうするのじゃ!』
「超透視!」
目からすけすけビームが出る。
壁をすり抜けることができたんだ、天井だって……。
するぅうん!
「よし、成功! このままドンドン登っていって!」
『任せるのじゃ、ケースケ!』
超透視+スペさんのジャンプ力が加わり、僕らはもの凄いスピードで、階層を駆け抜けていった。
一直線に、僕らは迷宮を上へ上へとかけていく。
迷宮はきっと、こんなふうにショートカットしていくことを、想定してなかっただろう。
ややあって。
『50階層に到着するのじゃ!』
びょんっ! と天井をすり抜け、フェンリルが着地。
「「「え!?」」」
僕らの前に、3人組の男女がいた。
彼らは僕らを見て、ぎょっ、と目を剥いてる。
良かった生きてるみたいだ。
ポンッ!
『だめじゃぁ~。ケースケぇ……おなかしゅいたぁ~……』
スペさんが子犬姿へと戻る。
フェンリル姿は思った以上に燃費が悪いみたいだ。
でもここまで頑張ってくれた彼女に、僕は感謝する。
「ありがとう。ちょっと休んでて。はい菓子パン」
『おほー♡ 菓子パンもちゃもちゃ~♡』
スペさんを肩に乗っけて、僕は冒険者さん達を見やる。
「こんにちは!」
「「「は? え……? え?」」」
あれ、返事が返ってこないや。
失礼な人たちだなぁ。まあいいか。
注意を促しておこう。
「このあたり、危ないですよ。ヤバい魔物がいるみたいなんで……」
「「「いやいやいや! 後ろ! 後ろぉ!」」」
後ろ?
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
「ぎゃー! 子供が死んだぁ!」
「
「今頃ミンチじゃろう……なんと、可哀想に……」
ええっと……。
「生きてますけど?」
「「「なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」」」
いきなりびっくりしたなぁ。
なんか急に大きな音がしたんだもん。
「き、君ぃ!」
鎧を着込んだ、大柄な男の人が、僕を見て言う。
腰に剣をつけてるから、剣士さんかな。
「な、なんともないのかい……?」
「あ、はい。なんとも」
「え、ええー……あの一撃食らって生きてるなんて、ありえない……。き、きっと
えるだー?
ミノタウロス……?
振り返ってみると……。
「BUMOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
見上げるとそこに、10メートルくらいの、牛頭の巨人がいた。
全体の見た目は、毛深い牛って感じ。
上半身、下半身はボディビルダーみたいに筋肉ムッキムキだ。
体は牛って言うより、人間に近いかも。
一番変なのは、腕が四本生えていること!
『
もちゃもちゃと、菓子パンを頬張りながら、スペさんが言う。
「スペさんより、強いの?」
『そんなわけ無かろう! こんなの、我に比べたら子猫のようなもんじゃ! 牛だけども!』
そっかぁ。
スペさんより弱いんだもんね。そんなに、強い魔物じゃないな!(←※普通に強いです)
「ちょ、ちょっと君! 危ないわ!」
女の冒険者が僕にむかって叫ぶ。
金髪に、長い耳……長い耳!
もしかして……エルフ!?
魔法の杖持ってるし、わ、わ、エルフだ!
生エルフだ!
ファンタジーだ! すごぉい……
「後ろぉ!
ん?
あ、ほんとだ。牛さん、斧持っているや。
斧を振りかぶって、僕にむかって、振り下ろす……。
「ぎゃあああああ! 今度こそ死んだぁ……!」
斧が僕にむかって……。
【ゆっくり】と、襲いかかる。
「あれ? なんか……動きちょーゆっくり……?」
ゆっくり、ゆう~~~~~っくりと、牛さんが斧を振り下ろしてくる。
えっと……なにこれ?
ほんとに、ゆっくり動いてる。
ハエが止まってしまうんじゃないかってくらいの遅さだ。
こんなにスピードがないなんて。
なーんだ、やっぱり弱い魔物じゃないか(※←神眼の超動体視力のおかげで、敵がゆっくりに動いてるように見えてるだけ。実際は超スピード)
ゆっくりと振り下ろされる斧を、僕は余裕でかわす。
ひょいっと。
ズッドーーーーーーーーーーーーーン!
「BUBOぉ……!?」
「「「ええええええ!? 何今の神回避ぃ!?」」」
神回避って……。
大げさだなぁ。
敵がゆっくりと動いてるんだから、除けるのなんて、簡単じゃないか。
この程度で神とか……。
あ、そっか。
能力の低い
「信じらんねー……。なんだあの動き! 早すぎて目で追えなかった! 武術の達人かよ!」
三人組の最後の一人は、やたらと身長が低かった。
もしかして……ハーフフット?
たしか人間より身長が低いけど、手先が器用だったり、魔法に対して高い適性があったりする種族って……。
うぉお! すっごい!
エルフにハーフフットだなんて! ファンタジーてんこもりじゃん!
「もっと近くでじっくり見たい……」
「BUBOOOOOOOOOOO!」
ああもう、牛さんがうるさいなぁ。
「背負っていた斧を取り出した! 4本の腕に斧を装備したぞ!」
「本気を出してきたの!?」
「やべえ! おいガキ、にげろぉお!」
いやいや……。
逃げる? なんでだろう?
「ちょっと邪魔しないでくれないかなぁ、牛さん」
「BUBOOOOOOOOOO!」
カバンに直接収納すれば、一発で解決する。
でも生きてる相手にそれやっちゃうと、もったいないのだ。
なぜなら、モンスター(生物)の収納は、基本吸い込んで終わりだから。
魔物
けど、僕の魔物
なんでも、強い魔物ほど、
色々考えてる間も、牛さんは攻撃を仕掛けてきてる。
でもやっぱり動きがちょーゆっくりだ。だから、考える余裕が生まれる。
……うん。牛。
そうだな。
お肉がちょうど切れてたところだから、こいつを倒して、肉をゲットさせてもらおう。
「じゃあ、ほい。【絶対切断】」
僕は手を前に突き出して、鍋の勇者さんから
視界に入ってるものを、切断するというスキル。
……ん?
そう言えば、前回これ使ってから、結構僕レベル上がったな。
あ……? やば……。
ズッバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!
……状況を説明しよう。
牛さんの、頭だけを吹っ飛ばそうと、手を掲げてスキルをぶっ放した。
で、その結果、牛さんは上半身まるごと消しとんでいた。
……それどころで、すまなかった。
「あ、あわあ……あわわぁ……」
「嘘でしょ……? め、迷宮の壁に……でっかい深い傷が…………!?」
「し、信じらんねえ……迷宮の壁は、傷つけることも破壊することも、不可能なはずなのに!」
やっぱり初心者なんだなぁ。
「迷宮の天井は、結構簡単に破壊できますよ。ね、スペさん」
『うむ、我ならな』
「ほらねえ」
『いやだから、我ならできるぞ』
「できるってほら」
『我ならな!』
唖然、呆然としてる……冒険者三人組。
まじまじと見る。未来視で見た三人組だ。やっぱり。
さっきの牛さんに、殺されちゃうところだったのかな。
あんな弱いやつに殺されちゃうなんて、レベルの低い人たちなんだなぁ。
「「「君(あんた、おまえ)……なにもの!?」」」
何者って……?
「初めまして、僕は
『いや、ケースケ……自己紹介しろって言われたわけじゃないと思うぞ……?』
剣士さんとエルフさんがポカンとしていた。
ただ一人、ハーフフットさんだけは……
「ケースケ……? って、どっかで聞いたことあるような……確か、【OTK《オタク》商会】が捜索願いだしてたような……人違いか?」
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