第16話 経験値さん(※魔族)倒して経験値をゲット



 僕は森にあるという、魔蟲の卵を回収に向かっていた。


 途中、ちょうかっけー、クソデカい虫に遭遇!

 で、虫とたわむれた。虫さんもたのしそうだったなぁ。

(※↑主観です)


 で、だ。

 僕ら三人はてくてくと森の中を進んでいく。

 

「あ、あのぉ……鞄の勇者殿? 道はこっちであってるのですか?」


 ディートリヒさんが困惑気味に言う。


「え、なんでですか?」

「いや……あまりに勇者殿が迷わず、こんな悪路を進んでおりますから……」


 悪路?

 うーん、たしかに足下は腐葉土でぐちゃぐちゃだけど。

(※↑巨大樹の森は光がほとんど届かず、薄暗い場所。しかし啓介は神眼のおかげで、暗い場所でも普通に見えます)


「大丈夫ですよ。僕にはミニマップもありますし、スペさんがいますので」


 スキル、ミニマップ。

 周辺の詳しい地図が目の前に表示されてる。


 そのうえ、魔力感知能力のあるスペさんがいるのだ。

 魔蟲の卵の居場所は、スペさんがおしえてくれる。


『ふふん、ケースケの相棒はやはり我ひとり! 虫なんぞより我のほうがいいじゃろっ?』


「うーん……おっきな虫のほうがかっこいいかなぁ」


『そんな! 我もでっかくなれる! でっかい狼は嫌いか!?』


「嫌いじゃないよ、嫌いじゃないけどあんまくっつかないで歩きにくい」


 スペさんどうやら、自分が僕にとっての一番じゃないと、我慢ならないらしい。

 小さい子みたい。こんなでっかい姿してるのにね。 

 なんだか可愛い。


 そうやって卵の元へ最短距離で進んでいく僕ら。

 道中、魔物に襲われるかなぁ……って思ったんだけど。


「魔物も、魔蟲も見掛けないですね」


 ヘルメスさんがあたりを見渡しながら言う。

 たしかに、ハチさん以外で、魔蟲に出会わないなぁ。もっといっぱい虫さんとたわむれたいのにっ。


『虫もバカじゃないのじゃろうよ』


 子犬姿に戻ったスペさんが、僕の頭の上に乗っかりながら言う。


「と、言うと」

『虫にも自己防衛本能があるのじゃ。それゆえ、デカい魔力を持ってる者に力寄らないのじゃろうて』


 な、なんてこった……。


「それってつまり、虫さんはみんなスペさんにビビってる……ってこと!?」

『ふふ。まぁな。我ほら、フェンリルだしぃ~?』


 たしかにそっかぁ~……。

 スペさんは強いもんね。

 虫さんはスペさんにびびってるわけだ。

(※↑勇者と魔王の力を併せ持ちながら、魔力ゼロという気持ち悪い啓介にみんなびびってるだけです)


 うーん……スペさんが居たら、虫さんには会えないのか。

 かといって、虫さんとたわむれたいからスペさん外で待ってて~、なんて言えないし。


 虫さんと遊べないのは残念だけどなぁ……。

 はーあ。どこかに虫さんいないかなぁ。


 と、そのときである。


「お待ちなさい、人間共よ」


 ふわり……と、僕らの前に、誰かが降り立ってきた。


「チョウチョウ……? 魔蟲!?」

『いや、この魔力の波長。あれは……魔族じゃな』


 蝶の翅を生やした、魔族が現れた。

 一見すると人間に見える。


 けど、背中から生えてるのは、チョウチョウの翅。

 頭からは触角が生えている。


「ここは魔蟲王の神聖なる領域。人間が立ち入って良い場所ではありません」


 と、チョウチョウ魔族さんが言う。

 

「くっ……! なんてプレッシャーだ!」

「これが……魔族……!」


 ディートリヒさんたちがなんだかその場に膝を突いてる。

 歩きっぱなしで疲れてるのかな?

(※魔族の魔力量に萎縮してるだけです)


「あのぉ」

「む? なんです少年」


「あ、はい。佐久平さくだいら啓介です。好きなVTuberはワインの兄貴さんです」

「???????」


 魔族が困惑してる。


「あなた……わたくしを見て、なんとも思わないのですか?」


 なんともって……。


『ふーん。どうせでっかい昆虫まじかっけー、とか言うんじゃろ? 我知ってるもん。つーん』


 拗ねてるなぁ、スペさん。

 あの魔族をどう思うかって……?


「レベルアップのための経験値」

「は?」


「名乗ったので、よぉしいくぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 僕は勇魔のカバンから、聖武具の短剣を取り出し、魔族に突っ込む。


 目の前にいる魔族は……。


「ふ、ふんっ。蛮族め。いいでしょう、戦うというのでしたら、この【幻惑のダズル】がお相手いたしましょう」


 魔族がなんか名乗ってる。

 僕は魔族のまえまでやってきた。


 そのまま……。


 僕は素通りする。


「「「な!? 素通りだと?!」」」


 ディートリヒさん、ついでに魔族が困惑する中……。

 僕は空歩を使って空中ジャンプ。


 そして、近くの木の枝へと飛ぶ。


「ゆ、勇者殿どこへ!? 敵はこちらに……」


 ん?

 何言ってるだろう、ディートリヒさん。

「魔族はこの木の枝に座ってますよぉ!」

「「「なにぃいいいいい!?」」」


 と、驚く三人。

 何驚いてるのかさっぱりだけど、相手は魔族!


「聖剣技・裂空れっくう!」


 僕はミサカさんの剣技、聖剣技を発動。

 裂空れっくうは縦回転しながら、相手に斬りかかる技だ。


「ぎゃぁあああああああああ!」


 攻撃が魔族の腕を切り飛ばす。

 ちっ……!


「倒せなかったか!」

「ど、どうなってるんですか!? 何もないところから、魔族が出てきました!?」


 何も無いところ……?

 いや、普通にこの魔族、木の枝に座って悠々と話してたけど。


「そんなバカな!? 私の能力アビリティ、【幻惑】が通じない……!? い、いやそんなはずはありません!」


 バサッ……! と魔族(※名前忘れたし、興味も無い。経験値なので)が羽を広げる。


 鱗粉が宙を漂う。


「!? 今度はダズルが、分身したぞ!?」


 ディートリヒさんが叫ぶ。

 え、分身……?


「あはは! どうです! 我が能力アビリティ、幻惑! 相手にまぼろしを……」


「みっつけたぁ……! 経験値ぃいいいいいいいい!」

「なにぃいいいいいいいい!?」


 僕は短剣で、魔族けいけんちに斬りかかる!

 やつの片方の翅を切り飛ばしてやった!


「ちっ! 翅じゃだめなんだ。なあ……クビおいてけよぅ……」

「ひ、ひぃいい! な、なんなのですかこいつはぁ……!?」


 魔族の……えっと……名前……経験値さんが怯えてる。


「す、すごい……100もいる分身のなかから、正確に本体だけを、見抜いていらっしゃる!」

「いったい、どうやってるのですか……?」


 ディートリヒさんも、ヘルメスさんも、何を言ってるだろう。


「敵なんて……そこの1体しか居ないじゃないですか?」

「「「!?」」」


 三人が驚く一方、いつの間にか地上に居た、スペさんが腕を組みながら言う。


『なるほどな、今のケースケには神眼がある。あの目は全てを見通す超眼力が備わっている。幻惑でいかに相手の目をだまくらかそうとしても、無駄じゃ』


「なっ!? そんなバカな! この幻惑のダズルの幻惑は、古竜の目すらだますのだぞ!?」


『ふ……甘いな。ダズルとやら。おまえが相手にしてるのは……世界でただひとり、勇と魔の力を持つ……化け物じゃぞ?』


 経験値さんがスペさんとの会話に気をとられてる隙に……。


「せやぁああああああ!」

「しまった! 後ろを取られた……! ぐあああああああああ!」


 僕の短剣が、経験値さんのクビを切り飛ばした。


「くそ……! 犬が注意を引いている間に、攻撃をする! なんという見事な連携……!」


『ふ……我はケースケの相棒じゃからな』


 スペさんナイスぅ!

 クビと胴体が別れた魔族の経験値さんは、ぐぬぬぬと悔しそうに歯がみする。


「し、しかしまだ! これで終わりではありませんよ! 魔蟲王四天王のなかで、私は最弱! 残り三人の……」


蠅王宝箱ベルゼビュート!」


 瞬間、カバンから無数の触手が伸びる。

 経験値さんの頭、そして胴体に絡みつく。


「うわぁああああああああああああああああああああ!」


 経験値さんはカバンの中に吸い込まれていく。

 首を斬ったら死体にカウントされたらしい。


 蠅王宝箱ベルゼビュートは生物意外なんでも飲み込む!

 魔族の死体を……収納!


 触手は僕のカバンの中に、経験値を運ぶ。

 そして、完全に収納。


『聖武具のレベルが上がりました』

能力アビリティ、幻惑を習得ラーニングしました』


 よし! 

 ひさしぶりのレベルアップきたぁ!


 すちゃっ、と僕は着地。

 

「ミサカさん聞こえますか? ミサカさん? ……だめかぁ」

『まだ呪いを解くには、聖武具のレベルを上げないといけないみたいじゃのう』


「そうだねえ……。ま、でも今まで全然レベル上がらなかったからね。1歩前進ってことで!」


 やっぱり魔族を倒すと、いい経験値になるなぁ。


「どうしたの、二人とも?」


 ディートリヒさん、そしてヘルメスさんも、なんか黙っている。


「か、鞄の勇者殿が、魔族と戦う姿……初めて見ましたがその……」

「その?」


「こわ……」

「こわ?」

「いえなんでもありません! 見事な戦いっぷりでした!」


 と、拍手するディートリヒさん。

 一方、ヘルメスさんが首をかしげる。


「それにしても、ダズルは倒すのですね。魔蟲は倒さなかったのに」

『そう言えばそうじゃの。どちらも大きな虫という点では、同じじゃ。だから、ケースケは倒さないかとおもったのじゃ』


 あはは、何言ってるんだろうか、二人とも。


「人間サイズの虫なんて、キモいじゃないですか」

「「………………」」


「それに、魔蟲のほうがかっこいいですよ。さっきの虫の魔族……名前……えっと……経験値さんはほら、虫の一部分だけしかなかったし。全然かっこよくなかったですし」


 だから、経験値さんは普通にぶっ殺した。

 だって経験値になるからね、魔族だし。


『うーむ……あわれ幻惑のダズル……。名前すら覚えてもらえんとは……』

『完全にゲーム感覚で魔族殺しててこわ……敵対しなくてよかったぁ~……』


 いつの間にか中身が入れ替わっていた、ヒキニートさんが、なんかビビってるのだった。

 

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