第17話 魔族を倒す決意をする勇者様



 経験値(※←魔族です)さんを倒した!

 経験値を得て、強くなったぞ! やったー!


 でもまだミサカさんの呪いを解くまでには至ってないんだよねぇ。


「もっと経験値をかせがないとっ!」


 げん……げんわ……げん……経験値さんを討伐後。

 妖精郷アルフヘイムの中にて。


「勇者殿……先ほどのは、もしや魔族だったのではないでしょうか……?」


 ディートリヒさんが恐る恐る尋ねてきた。


「え、はい。そうですよ?」


 え、だからどうしたんだろう?


「魔族ぅ!? そ、そんな……! あり得ない!」


 はえ?

 なんで驚いてるの……?


『ケースケよ。魔族は大昔、滅ぼされたって言ったじゃろう?』

「あ、そういやそうだったねー」


 すっかり忘れてたや。

 どうでもいいしね。


「どうして魔族が……?」

「あ、なんか復活してるみたいですよ。前に僕も、ダンジョンで見掛けましたし、他の魔族」


「なっ……!?」


 またも驚くディートリヒさん。

 やっぱり魔族復活って、驚くことなんだね。

 一方で……。


「…………」


 ヘルメスさんは、だんまりを決め込んでいた。


『む? おいヒキニート。何を黙っておる』


 ヘルメスさんの目の色には変化がない。

 でも、ヒキニートさんは、ヘルメスさんを通して、僕らの話を聞いてる。


 リアクションがないってことは……。


「ヒッキーさん、知ってたんですね」

『いやだれ!?』


「ヒキニートさん、略してヒッキーさん」

『ぼくのヒキニート呼びが定着してるんですが!?』


「事実じゃないですか」『事実じゃろうて』

『ぬぐぐぐぐぐぅうううう!』


 まあまあ、と僕はなだめる。

 呆然としてるディートリヒさんを他所に、ヒッキーさん(※←杖の勇者ヘルメス・洗馬せばさんです)が言う。


『ぼくも魔族復活については、承知していたよ』

「なんで、黙ってたんです?」


『まあ、ぼくの目的に何も関係ないかっらね』


 ヒッキーさんは元の世界に帰ることを、目的としている。

 それはつまり……。


「この世界のこと、どうでもいいって思ってるんですね」

『あったりまえじゃん。別にここ、ぼくの生まれ故郷でもなんでもないし。無理矢理連れてこられて、こっちは迷惑してるんだし』


 うーんこの……。


「クッキーさん」

『クッキーさん!? だれ!?』


「クズで引きこもりの略です」

『君案外辛辣だよね!?』


「知ってるのに情報を共有しないのは、どうかなあって思いますよ」

『そ、それは……い、いや君だってそうじゃん! 知ってたじゃん! 魔族!』


 ふふふ……。


「甘いですよ。僕はちゃんと……オタクさんに魔族復活については話しました!」

『……でもディートリヒは知らなかったみたいだけど?』


 あ、たしかに。

 オタクさん→皇帝→皇女(※ディートリヒさん)と、伝言ゲームしててもおかしくないのに……。


『情報を制限しとるんじゃろ、皇帝が』


 と、頭の上のスペさんが言う。


「どういうこと?」

『魔族復活なんて、とんでもない事実じゃ。それを公表したら、世間がパニックになることは容易に想像できる』


 なるほど。

 オタクさん→皇帝、で情報が制限されてるってことか。


『オタクはケースケから、魔族のことを聞いて、即皇帝に情報を共有しておった。また、魔族についての情報収集をするため、私設部隊を動かしておったぞ』

「『そうなんだっ!』」


 クッキー……(原型がないのでもどすか)、ヒキニートさん同様、僕も驚く。

 そこまでやってたなんて……。


「さすがオタクさんです。ヒキニートさんも見習って」

『正直、弓の勇者のほうが異常だと思うけどねえ』


 む!


「オタクさんを馬鹿にするなぁ……! 蠅王宝箱ベルゼビュートしちゃうよっ!」

『やめてってわかったってごめんって! ったく……君の情緒どうなってるのさ……いつもぽやんとしてる、蚊と思ったら魔族に対して妖怪クビ置いてけしてるし』


「オタクさんはいい人だからです。あと、魔族に対して、テンション上がったのは……」


 ……。

 …………。

 ………………上がったのは。


 その……。

 ミサカさんの呪いを解きたいがためで、あって。

 それ以上の他意は、ないわけで……うん。


『なんじゃケースケぇ~?』


 スペさんがニヤニヤと笑いながら、僕の頭から下りて、肩に乗ってる。

 なんだろう、ちょっと……意地悪さんな目をしてるぞ。


『どうして魔族を、あんなに躍起になって倒そうとしたんじゃぁ~?』

「ちょ、やめてよぉ~スペさん……深掘りしないでよぉう」


『もしやおぬし~……大勇者ミサカ・アイのことが……きゃー♡』

「ちょっ、ち、ちがうしぃ! ミサカさんのことなんて、別に僕は……なんとも……」


『ぬほほほ~♡ なんじゃ惚れたのか? ん? お姉さんに言うて言うてみ?』


 くっ!

 スペさんが……僕をめちゃくちゃからかってくる!


『……ともあれ、ぼくはこれからも、傍観者的立ち位置でいるよ。君にはあくまで情報を提供するけど、魔族とやり合うつもりはないから』


 といって、ヒキニートさんの意識が消える(※杖の勇者ヘルメス・洗馬せばです)。


「すみません、勇者様」


 ヘルメスさんが頭を下げてくる。

 え、なんでだろう……?


「魔族復活については……知ってました。でも……」


 ああ、何もしなかったこと、黙っていたことに、罪悪感を覚えてるんだろう。


「謝らないでください。あなたはヒキニートさんの使い魔なんでしょ?」

『あのヒキニートが黙っておれと指示をしたのじゃろう。使い魔は主人にさからえぬからな』


「ヒキニートさん酷い」

『ヒキニートじゃからな』

『うわぁああああああああああん! そんなに連呼するなバカぁああああああああああ!』


 あ、聞いてたんだ。


 ややあって。


「勇者殿……! やはり凄いな!」


 歩いてると、ディートリヒさんがキラキラした目を向けてくる。


「勇者殿の旅の目的がこれで判明したな!」

「え、ミサカさんのこと……」


「復活した魔のものたちを、人知れず倒す……流浪の旅をなさってるのだなっ!」


 はえー。カスリもしてない。


「一人で旅してる理由もわかったぞっ! 魔族は強力だ。戦いに巻き込んでしまわぬよう、ひとりで……! きゃぁあああ♡ なんてカッコいい! なんと美しい自己犠牲の精神ぅう!」


 ……なんか勝手に勘違いされてる~。


 僕はただ、経験値を稼いでミサカさんを解放したいだけなんだけどなぁ。


「えと……ディートリヒさん。このことは……内密にで」


 おおっぴらに言うと、皇帝とオタクさんに迷惑かかるだろうからね。

 だから、黙ってて。


「くっ……! このディートリヒ、感動しました!」


 ええー……なぁんでぇ?

(※↑なおもひとりで、果てしない魔族との闘争に、果敢に立ち向かっていく鞄の勇者マジかっけー! と思ってるようです)


 ま、いっか。

 これからずっと着いてきます! とか言い出さないだけマシ。

 

「ところで、スペさんや。どうして魔族はこんなとこにいたんだろ?」

『思うに、魔蟲の卵とやらを守護しておったのかもな』


「どうして?」

『パシリ竜が逃げ出す程度には、魔蟲の卵とやらは脅威みたいじゃからの。それを使って、悪さでもするつもりだったのではないかの?』


 パシリさん(※←暗黒竜ジャガーノートです)、がたしかにそう言っていた。

 悪いことするなんて、悪い人だなぁ。


 それにしても、魔蟲の卵は脅威……か。

 脅威ってことは、凄い強い、あるいは、ヤバいってことだよね。

 っていうことは、収納すれば……聖武具のレベル、結構あがるかも!


「卵の元へ急ぎましょう」

「きゃあああああああああああああああああああああああ♡」


 え、え、なに……?

 ディートリヒさん、また悲鳴上げてる……。


 え、こわぁ……。

(※↑人類の脅威となる魔蟲の卵を、一刻も早く倒さないと、と決意に燃える勇者、というふうにディートリヒには見えてるようです)


『ケースケ、恐らく魔族はまだいると思うぞ』

「なにぃ! ほんとかいスペさんっ!」


『うむ。幻惑のやつも言っておったが、あと3体は、この森に魔族がいるみたいじゃな』


「うぉおおおおお! やるぞぉおおおおおおおおおおお!」


 倒して経験値ゲットだ!


「きゃあああああ! 素敵ぃいいいいいいいいいいいいい!」


 ディートリヒさんがまた悲鳴を上げてて、普通にドン引きしたけど、まあほっとこう!

(※↑ケースケが燃える瞳で、魔族を倒す決意をしたように見えたみたいです)


 はあああ!

 早く魔族出てこないかなぁ!


「待てぇい!」


 そのとき、頭上から何かが振ってきた。

 ずずぅううううううううううううううううううううううん!



 ……目の前には、黒いボディの、2メートルくらいの男が立っている。

 頭上から、仁王立ちスタイルで落ちてきたみたい。


 黒光りしており、頭からは2本の触覚。

 翅を生やし、そして筋骨隆々。


 この蟲っぽい、けど人間っぽいフォルム……。

 見覚えがあるぞ!


「経験値さんのお仲間ですねっ!」

「違う……!」


 あれ、違うんだ。


「我は魔蟲王四天王がひとり! 【断頭台のギロチン】様だぁ……!」


 断頭台の……ギロチン?


「やっぱり経験値さんの仲間じゃないですかっ!」

「だから誰だ、経験値とは!?」


 げん……げんわ……幻惑の……ええい、経験値さんだっ。


『ケースケよ。こやつは……魔族じゃ』

「魔族……!!!!!!!!」


 うぉおおおおおおおおおおおお!

 経験値きたぁ……!


『幻惑のダズルを倒したくらいで、調子に乗るなよ小僧。やつは魔蟲王四天王のなかでも最弱。人間に負けるなんて、四天王の恥……! だが我は……』


「そんなのいいですからよぅ……」


 僕はカバンから、勇者の短剣を取り出す。


「御託はいいですから、掛かってきてくださいよぅ。そのクビ、置いてってくださいよぉう。ねえ、クビ置いてってよぅ!」


『いやだから、情緒どうなっての君……?』


 ヒキニートが何か言っていたけど無視!

 僕は……断頭台のギロチンと、戦うことになったのだった!


 

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