第15話 化け物ムシを圧倒する化け物



 妖精郷アルフヘイムへとやってきた僕たち。

 目の前に広がる巨大樹の森に、1歩、足を踏み入れた。


 蠅王宝箱ベルゼビュートのおかげで空気は澄んでいる。

 けど、おかしいのだ。


「獣の声が全然しないね」


 森って言うと、鳥とか獣が鳴いてるってイメージなのに。

 帝国皇女、ディートリヒさんが答える。


「ここは魔蟲のナワバリだからな」

「まちゅー……?」

「巨大樹に生息する、巨大昆虫だ。固い外殻、凶暴な性格を持ち、人や獣を喰らう」


 はえー……すっごい虫さんがいるみたいだっ。

 でっかい昆虫かぁ……。


 楽しみっ。わくわくっ。ムシ●ングとか好きだからなぁ僕!


 って、あれ?


「魔蟲のナワバリっていってましたけど、ここってジャガーさんのナワバリじゃないんですか?」

『パシリ竜が言っていたじゃろ、寝てる間に、魔蟲が増えすぎて、手に負えなくなったとな』


 パシリ竜……。

 ああ、ジャガーさんのことか。


 そういえば、そんなこと言っていたっけ。


「でもさ、虫が増えただけで、自分のナワバリ……捨てるかな? だって憤怒の魔王イーラさんから、もらったとこなんだよね?」

『巨大昆虫の卵があったからとかのたまっておったな。それにビビって逃げるとは……まったく、魔王の眷属のくせに、恥ずかしくないのかのぅ』


 やれやれ、最近の若い者は、みたいなニュアンスでスペさんが言う。

 巨大昆虫の卵かぁ……どんなのだろう? 気になるなぁ。


 それ、収納したら、レベル上がるかなっ。


「スペさん。卵の場所わかる?」

『おお、わかるぞ。デカい魔力を放っておるからな。アホでも気づくじゃろう』


 よし!


「じゃあ、その巨大昆虫の卵へ向かいましょう!」

「「お、おー……」」


 ディートリヒさんとヘルメスさんが、若干引いていた。

 あれ?


「どうしたんですか?」

「さ、さすが鞄の勇者殿……このプレッシャーを前にして、平然となさってるのだからな」


 ぷれっしゃー?


「なぁにそれ?」

『わからんのぅ』


 うーん、と僕らは首をかしげる。

(※二人は巨大昆虫の卵から発せられる、強大な魔力の波動に当てられてる。化け物二人は気づいていない、化け物なので)


「ま、れっつらごーですよ!」

「「お、おー……」」


 僕らはてくてくと、巨大樹の森を進んでいく。

 ミニマップと、スペさんレーダーがあるので、特に迷うこと無く進める。


 それにしても……。


「ほんとに生き物の気配がないですよね。って、あれ? じゃあ魔蟲って何食ってたんです?」


 魔蟲は虫とはいえ、生き物だ。

 何かを食って生活してるはず。


「魔蟲は魔素を食べて生活してるのです」


 と、ヘルメスさん。


「魔素?」

「はい。魔力の元となる、目に見えないガスのことです。魔素の濃度が高くなると、瘴気へと変性し、人体に……有害……」


 ヘルメスさんの顔色が、さぁ……と青くなる。

 どうしたんだろう?


 ……って、ん?


「あれ、瘴気ってもとは魔素なんだよね?」

『そうじゃの』


「てゆーことは、瘴気って、魔蟲たちのご飯ってことだ」


 魔蟲は魔素を食い物にしてるって言っていたしね。

 瘴気が高濃度魔素ってことは、彼らにとってこの森の空気そのものが食料だったわけだ。


「なるほど、だから魔蟲達は森の外に出なかったんだね。でる必要が無かったんだ。森の中にたっぷり餌があったからかぁ。ね、ディートリヒさん?」

「あ、あば……あばばばば……」


 ディートリヒさんが、ガタガタと震えてる。

 え? なに……?


『お、ケースケよ。敵がお出ましのようじゃぞ』

「まじ?」


 僕は上空を見やる……。

 そこには……。


「うわぁあああああああ!」


 巨大な、昆虫が空を飛んでいた。

 どことなく、ハチに近いフォルムをしてる。


「ああ……勇者様も悲鳴を……」

「さすがにこの巨大な虫を前にしたら、怯えて当然……」


「か、かっこぃーーーーーーー!」

「「ええええ……!!!!!」」


 現れた魔蟲は……蜂!

 黒くておっきいハチさんだ!


 わ、わ、か、かっこぉいい!


『むぅ、ケースケ。我もおっきくなれるが?』


 スペさんが何か言ってる!

 

「わ、わ、見てくださいよ! おっきくて、かっこいいですねえ! シャープなデザインが……って、どうしたの?」


 ディートリヒさんが震えながら、腰の銃を抜く。


「か、かか、カバンの勇者殿! お、おにげ……おにげ……ください! わ、私が時間を稼ぎます!」

「わたしも!」


 ディートリヒが銃をぶっ放し、ヘルメスさんが魔法をぶっ放す。


 銃弾と魔法が、ハチさんに押し寄せる!


 ドガン……!

 ズガガガンッ!


 ……が。


「無傷! くそっ! なんて固いんだ! ならば……これでも喰らえ!」


 ディートリヒさんがポシェットから、小さな卵のようなものを取り出す。


『なんだ、あれは? 食べ物かの?』

「いや、あれはもしかして……手榴弾!」


 オタクさんが、帝国に協力してるって聞いた。

 で、その帝国には銃が普及していた。


 現実の兵器を作り、オタクさんが提供してると仮定するなら、手榴弾があってもおかしくない。

 ああでも、あれで死んじゃったらもったいないなぁ。


「死ね……! 魔蟲よ! これがOTKおたく商会特製手榴弾だ!」


 ピンを抜いて、ディートリヒさんが投げる。

 ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


「やったか!?」

「あー、だめですよぅ、それ言っちゃ」


 フラグフラグ。


「BU……BUBUBU……」

「そ、そんな……銃弾も、魔法も、手榴弾も……効かないだなんて……無敵か……」


 へたり込んじゃうディートリヒさん。

 

「我が主に連絡を取ります! あのお方の魔法なら魔蟲を葬れるかと。杖の勇者様……あれ? 繋がらない、杖の勇者様!?」


(※ヒキニートはジャガーノートが届けたカップ麺を「うめっ、うめっ」と食べてて救難要請を聞いてないです)


「お仕舞いだ……」

「もうだめです……」


 え? なに怯えてるんだろう……?

 てゆーか。


「ハチさんってなんでずっと待っててくれてるんだろうね?」

『さぁのぅ?』


(※↑高慢の魔王、魔力ゼロという得体の知らない勇魔を前に、警戒してるからです)


 うーん……ま、いっか!


「スペさん、ちょっとハチさんとたわむれてきてもいいかなっ?」

『むぅううううううううう』


「え、なに拗ねてるの?」

『だって、ケースケは我より虫のほうがい好きだって! 我だって強くて大きくてかっこいいのに!』



 ぼんっ! とスペさんがフェンリル姿になる。

 いつ見ても、おっきくてかっこいい。


「BUBUUBU!?!?!?!?」

「あ! ハチさんが逃げちゃう!」


 なんで!?

(※↑高慢の魔王以下略)


「まってー!」


 僕は逃げるハチさんを追いかける。

 勇者の靴のスキル、縮地&空歩、発動……!


 僕は高速で走る。

 バビュンッ……!


 そしてマ●オみたいに、空気ブロックを踏んづけながら、ぴょんぴょんと飛んでいく。


 あ、直ぐに追いついた。

 意外と遅いなぁ、このハチ。

(※人間の目で追えないスピードで高速移動してます)


「BUBU!?」

「遊びましょう~」にっこり。


「BUIIIIIIIIIIIII!」


 ハチさんが僕を見て、嬉しい悲鳴をあげる。

(※↑ただの悲鳴です)


 わ! 遊んでくれるんだぁ!

 うれしい!


「BIIIIIIIIIIIII!」


 ハチさんが僕にツッコんでくるっ。

 ドガァンッ……!


 僕はそのまま背後にぶっ飛んでいった。

 どごぉおおおん!


「「勇者さまっ!」」


 ディートリヒさんたちのもとへ、戻ってきた僕。


「ああ、なんと強力なタックル!」

「あんな巨体が繰り出した、超高速のタックルを受けて……無事で済むはずが……」


「あはは! 元気なハチさんだなぁ」


「「えええええええええ!? 無傷ぅううううううう!」」


 え?

 何を驚いてるんだろう、二人とも。


 子犬にとびかかられて、ケガする人なんているわけないじゃないかぁ。

(※↑相手は5メートルのハチで、高速でタックルされてるので、普通ならミンチです)


「あ、ハチさんこっち来る!」


 僕と遊びたいのかなぁ?

(※↑群れを守るための、決死の特攻です)


「BUBIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII!」


 ハチさんが僕めがけて、その大きな針で攻撃してきた!

 がきぃいん!


「だめだよぉう、針で人を刺しちゃ」

「BUBU!?」


 僕の目の前には、鏡が出現してる。

 聖武具、勇者の鏡。


 そのスキル、反射スキルが発動してるのだ。


「あの強烈な一撃を防ぐなんて!」

「す、すごすぎます勇者様!」


 ディートリヒさんたちが観戦する一方、僕らはたわむれる。


 がきん!

 がきぃん!

 がききききぃん!


 ハチさんが何度もじゃれついてきて、かわいい~。


 でもなぁ。


「針は危ないからね。えい、絶対切断!」


 僕が手のひらを、ハチさんの針に向ける。

 ズバンッ……!!!!!!!!


 ぽきーん。


『「「折れたぁああああああああああああああああああ!?」」』


 ディートリヒさん、ヘルメスさんと……あと、あれ?

 誰だろう、今の声……?


 スペさん?


『なんじゃいケースケ、虫ばっかりあそんで。犬のほうがかわいいのに。プリティじゃろうに。ふーんだ』


 あれでもスペさんの声じゃないし……。


『ば、ば、化け物だ……! ま、魔蟲王にご、ご報告せねばぁ……!』


 くるっ。

 ハチさんが僕に背を向ける。


 ぶ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!


 あ、帰っちゃったぁ。

 まあ、おっきい虫さんと、十分たわむれたし。


「ばいば-い! また遊ぼうねえ!」

『ひぃいいいいいいいいいいいい!』


 ハチさんが去って行く。

 一度もこっちを振り替えなかった。多分、僕と遊べて満足したんだろうなぁ。

(※↑化け物に狙われて生きた心地がしなかったようです)


 さて……と。


「奥に行きますかぁ……って、どうしたの、二人とも」


 ディートリヒさんたちが、キラキラした目を向けながら、僕に言う。


「すごいです、勇者殿! あの恐ろしい魔蟲を、まるで子犬扱いするなんて!」

「本当にお強いのですね、勇者様! かっこいいですっ!」


 ええー……。

 普通に虫さんとたわむれただけで、なんでこんな尊敬されてるんだろう?


(※↑恐ろしい化け物から、自分たちを救ってくれたと思ってるからです)


 一方……。


「スペさん、いつまで拗ねてるの?」

『拗ねてないモン。つーんだ』


 スペさんフェンリル姿でまるくなって、そっぽ向いてる。

 僕が構ってあげなかったから、拗ねてるんだね。

(※↑人の気持ちは無理でも、化け物の気持ちは理解できるようです、化け物だから)


「スペさん。機嫌直して。ほら、あんまんあげるから」

『あんまん!? なにそれ! たべりゅーーーーーーーーー!』


 子犬姿になったスペさんが、僕の取り寄せたあんまんに、かぶりつく。

 しゃくしゃくしゃく。


『うまーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!』

「機嫌直った?」


『うん!!』

「それはよかった」


 さて……と。

 先に進みますかぁ。

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