第23話 魔族を収納し、大勇者を限定解放



 僕は煉獄のインフェルノさんをやっつけた。

 戦闘なんて苦手なんだから、やらせないで欲しいですな。


「ほんとに……ほんっと~に、すごいね、ケースケ君っ」


 エルシィさんが立ち上がって言う。

 膝ガックガクだった。


 どしたんだろ?

 長旅で疲れたんだろうか?


「魔族を撃破しちゃうなんて、ほんとすごいよっ! まるで、勇者様みたいっ」

「え?」


 今更……?


「え? え? ってなに? ねえ」


 そういえば、僕が勇者だってこと、言ってなかったや。

 しまったしまった。


 と、そのときである。


『まだじゃ、ケースケ。まだ、終わってないぞ』


 スペさんが険しい表情で僕に言う。


「終わってないってどういうこと?」

魔族やつは、まだ生きておる!』


 頭痛さん、まだ生きてる……?


「そんな! ケースケ君が塵も残さず消しとばしたじゃない!」

『いや、アレを見るのじゃ!』


 スペさんが僕の肩に乗っかって、ぴっ、と尻尾で部屋の隅っこを指す。

 近づいてみると……。


「なにこれ? ツノ……?」


 エルシィさんが、杖をつきながら、こちらに近づいてきて言う。


「魔族の頭に生えてたツノねそれ……」


『そうじゃ。これは【魔核まかく】という』


「まかく?」

『うむ。魔族のツノであると同時に、コアでもある』


 うーん、どういうことだろう……?

 スペさんが続ける。


『そのツノの中には、魔族の意識が宿っておる。そしてそのツノが有る限り、魔族の肉体は再生するのじゃ』

「!? さ、再生って……生き返るってこと!?」


 エルシィさんが驚愕する。

 この人いつも驚いてるなぁ。


「大変じゃない! このままじゃ、魔族が生き返っちゃうわ! 早く魔核ツノを破壊しないと!」

 

 エルシィさんは僕から魔核を奪い、それを空中に放り投げる。


「【風刃ウィンド・エッジ】!」


 魔法で風の刃を作り、ツノを破壊使用と試みも……

 ガキィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!


「魔法が効かない!」

『無駄じゃ。その魔核は、決して破壊できぬのじゃ』


「はぁああ!? なにそれ! どういうこと!?」

『魔核はそれ自体が強力な呪物でな。決して壊れぬ、という魔族の始祖がかけた呪いが掛かっておる』


「そんな……」


 ……魔核は呪物。

 しかも、壊せない呪いが掛かってる……。

 

 魔核から魔族が再生する……って、あれ?


「それって……魔族って不老不死ってこと?」

『ケースケ。さすがじゃ。正解じゃよ』


 まじかぁ……。


「そっか、魔核が決して壊せないうえ、そこから魔族が再生するってことは、死なない、つまり、不死の存在なのね……」

『うむ、しかも、力が最も出せる時代の姿となって再生するのじゃ』


 若い時代の姿のまま再生する……永遠に。

 つまり魔族は不老不死……ってことだ。


 なんてこった。

 そんなの、チートだ、チーターやないか。


「って、あれ? エルシィさん、なんで魔族が不老不死って知らないの?」


 エルシィさんは結構物知りだ。

 エルフだから、長く生きてるはず。


 その彼女が、知らない。

 でも魔王スペさんが知ってる。

 おかしい。


「なんでって……そんなの、どの本にも書いてないもの……」

『それは妙じゃな。魔族が不老不死であることは、我ら七大魔王と、それを封じた大勇者は、知っておるはずじゃぞ?』


 ! ミサカさんも……知ってる。

 なら、人間間でも、情報共有されてても、おかしくない。


「なんでそんな超重要な情報が、人間の間で共有されてないのかしら……? 大勇者様は絶対に、他の人にも教えるはずなのに……」


 ……僕の脳裏に、一つの可能性が思い浮かんだ。

 廃棄勇者。そして、ミサカさんの、封印。


 まさか……。


『ケースケ。おぬしは、時折、頭がキレるな……』

「え、え? ど、どういうこと……? ケースケ君?」


 ……つまり。


「大勇者ミサカさんが得た情報を、握りつぶしたやつがいるんだ」

「情報を制限したってこと? 一体誰が……?」


 ……誰が、だって。

 魔王を封印した、救世主を、邪魔だからって封印した酷い奴らを、僕は知ってる。


「王族……」

「!? お、王族が……情報を操作したってこと!?」

「多分……」


 確証はないけど、でもこんな重要な情報を、ミサカさんはまず一番えらい国王に報告するはず。

 それが民間に広がってないってことは、そこで情報がストップしたってことだ。


「あり得ない話しでも、ないかもね……。そんなの嘘だ、って信じたくないから、とか。あるいは、余計な混乱を引き起こさないように、とかね」


 ……いずれにしても、王族のせいで、ミサカさんがもたらした情報が、共有されなかったんだ。

 ほんっっっっっっと、王族って、ロクデモナイ連中!


『して、ケースケよ。これからどうするのじゃ?』


 僕は落ちてる魔核を拾う。


「これが有る限り、魔族はまた再生するんでしょ?」

『うむ、長い年月かかるが、しかし……確実にな』


 魔族について詳しいスペさんが言うんだから、本当に何年かしたら復活するんだろう。


 それは困る。

 僕はミサカさんと約束した。


 呪いを解いて、二人で外でおにぎりを食べようって。


 ……いつ彼女が復活するかわからない。 けどそのとき、こんな変なやつが、世界にいて欲しくない。


 ミサカさんが昔を、辛かった時代を、思い出させるような、こいつらを。

 生かしてはおけない。


「僕がこいつを封印する」

「ふ、封印!!? ど、どどど、どうやって!」


「簡単なことだよ。魔核は呪物……アイテムなんだ。なら……」

「『あ』」


 僕は、魔核を手に持ちながら、言う。


「収納!」


 シュゴォオオオオオオオオオオオオオオオ!


 僕の聖武具、勇者の鞄のなかに、魔核が収納される。

 そう、僕はミサカさんを苦しめる最凶の呪物、【久遠封縛の匣】すら収納できた。


 同じ呪物であるなら、魔核だって取り込めるはず。


『【煉獄の魔核】を収納しますか?』


 ほら、できた!

 YES!


『条件を達成しました』

能力アビリティ【煉獄】を習得ラーニングしました』


 ん? 

 能力アビリティを……習得ラーニング……?


『どうしたのじゃ? ケースケ』

「なんか魔族の能力アビリティ習得ラーニングしたって」


『! なんと……そうか。勇者の遺体を取り込むと聖武具のスキルを得るように、魔族の魔核を取り込むと、能力アビリティを獲得できるようじゃな』


 なるほど……。

 でも、別に頭痛さんの能力アビリティほしくないんだよね。


 正直、加温スキルのほうが役に立つって言うか(食べ物暖めるとき便利)。

 触れると爆発する能力アビリティなんて、不便じゃん。


『条件を達成しました』

『聖武具のレベルが上がりました』


 おっ!

 カバンにモノを収納したから、聖武具のレベルがあがった!


『聖武具のレベルが上がりました』

『聖武具のレベルが上がりました』

『聖武具のレベルが上がりました』

 …………。


 きた!

 連続レベルアップ!


 ってことは、もしかして、もしかして……!


『久遠封縛の呪い(レベル2)を、取り出しますか?』


 いやったぁあああああああああああああああああ!


「ど、どうしたのケースケ君。急にテンション上がって……」


 エルシィは無視!

 それより、ミサカさんにかかってる呪いを、解除する方が先!


「【久遠封縛の呪い(レベル2)】を……取り出す!」


 その瞬間……。

 僕のカバンがパカッと開いて、中からしゅううう……と黒い湯気のようなものが出る。


 そして次の瞬間……。

 ピカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


「ぎゃー! まぶしぃいいいい!」

『これは、聖なる光……この魔力の波長……こ、これは!』


 やがて、光が消える……。


「え、あれ? なんも起きない?」


 特に変わったものは落ちてないし、変化も……見られない。

 あ、あれ?


 ミサカさんを封印してる呪縛を、1つ、取り除いたのに……。


【……すけ、くん】


 まさか失敗したのかな……。


【けーすけ、くんっ】

「え?」


 今……ミサカさんの声が聞こえた……ような。


「す、スペさん……聞こえた?」

『なにがじゃ?』


 エルシィさんも、なんのことやら、と首をかしげてる。

 でも、僕にはハッキリ聞こえたんだ。


「ミサカさん!」

【けーすけくんっ!】


 やっぱりだ!

 大勇者ミサカさんの、声が聞こえる!


「どこにいるんですかっ?」

【多分……けーすけくんの中にいる!】


「ぼ、僕の中ぁ!?」


 ど、どういうことだろう?


【多分だけど、けーすけくんの肉体に、私の意識が投影されてるんだと思う」

「と、とーえー?」


 特撮ファンクラブ?


【有り体に言うと……憑依、かな。呪いが1つ解けたことで、私の魂だけが呪物から抜け出し、けーすけくんの肉体に憑依してるの】


「なるほど、つまりレベルアップして、憑依合体を覚えたってことですね!」


【それはわからないけど……まあそんな感じだと思うっ!】


 なるほどっ。わかりやすい!

 僕とミサカさんと話してる横で……。


「ね、ねえフェンリル様……ケースケ君、壊れちゃったの……?」

『わ、わからん……じゃが、なんだか楽しそうじゃ。モヤモヤするのじゃ』


 ん?

 待てよ……。僕の体に、ミサカさんが憑依してる。


 僕の見てるものを、ミサカさんも見えてる……ってことは!


 僕は勇者の鞄を漁る。

 あのスキルを発動。


【どうしたの? けーすけくん。カバンなんて漁っちゃって……】

「ミサカさん、はいこれ!」


 僕がカバンから取り出したのは……。


【それって……おにぎり!】


 取り寄せカバンのスキルで、僕は、日本からコンビニおにぎりを取り出したのだ!


 ミサカさん、ずっと封印されてたでしょ。

 ずっと何も食べてなかったんだよね?


 封印解いたあとも、ご飯、食べれてなかった。(ミイラ状態だったから)


 急いで、袋を破く。

 そして……僕はおにぎりを、食べる。


 がぶっ!


【!?!?!?!?!?】


 僕は、もぐもぐとおにぎりを、食べた。

 久しぶりに食べる日本のおにぎりは、とてもなつかしく、そして……美味しかった。


【おいしい……】


 ボロボロ……と僕の目から涙がこぼれ落ちる。

 僕の……ではない。


 僕に憑依してる、ミサカさんの涙だ。


【おいしい……おにぎりだ……日本の……おにぎり……もう……ずっと、ずっと……食べてなかったから……】


 だから、食べれて嬉しいんだ。

 僕はもう一個取り出して、おにぎりを食べる。


 パリッ。

 もぐもぐ……。ごくん。


【うぐ……うぶ……うぅうううう! うぅうううううううう!】


 ミサカさんが泣いてる。

 でも、うれし涙だってことは、わかる。思いが伝わってくるんだ。


「おいしい?」

【うん……うん! すごく、すっっっごくおいしい! ああ……もう二度と、食べれないって思ってた……おにぎり、こんなに、美味しいなんて……】


 ……ミサカさんが泣きながら、この味を、感じてくれている。


【ありがとう……けーすけくんっ。呪いを解いてくれて、おにぎりを、食べさせてくれて……本当にありがとう!】


 僕は、ミサカさんが喜んでくれて、本当に……嬉しかったのだった。

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