第12話 杖の勇者と暗黒竜をパシリにする



 ■庭ハコニワにて。 

 杖の勇者ヘルメス・セーバーが、侍女ヘルメスさんの肉体を介して、僕に接触してきた。


「僕に接触してきた理由が……地球のご飯が食べたいから? それって本当なんですか? セーバーさん?」


 杖の勇者さんは、露骨に『い、いやぁ……?』と目をそらす。


『は、はは……何をバカな。地球のご飯が恋しいから? そんなバカな理由で、このぼくが? 杖の勇者が? 動くわけないだろぉ?』


 ……なんて、嘘が下手なんだ!

 ちょっといたずら心が、むくむくしてきた。


「スペさん。美味しいもの食べたくない?」

『『美味しいものぉ!?』』


 スペさんと一緒に、セーバーさんも反応する。


「そう、とっても美味しいもの……」


 僕はカバンの中に手を突っ込む。

 そして、取り寄せカバンスキルを発動。

 取り出したるは……。


「じゃーん!」

『肉まんだぁああああああああああああああああ!』


 セーバーさんが、目をキラッキラさせながら叫ぶ。

 そう、地球のどこでも買える、けれど……ここじゃどこにも売ってない……。


 コンビニ商品!

 肉まん!


『おほー! うまそうじゃぁ~! パンかな? パンじゃろっ?』


 スペさんも僕の取り出した肉まんに、興味津々の様子。

 ぶぉんぶぉんと尻尾を振る。


『それは肉まん! パンなんかより美味しいからまじで!』


 セーバーさん、血走った目で叫ぶ。

 さっきまでの、仙人じみた余裕はどこへやらだ。


『ひ、一口! 一口ちょうだいよぉ!』

「えー……どうしよっかなぁ~」


 いたずら心がムクムクしてる状態の僕。

 にやり、と笑ってしまう。


「でもさっき、セーバーさん、地球のご飯のこと、バカにしてませんでした?」

『ふぐぅうううううう!』


 面白いなこの人……。

 僕はスペさんに、肉まんを渡す。


『ああ! 肉まん! おくれ! 一口……』

『うんまぁあああああああああああああああああい! なんじゃこりゃああああああ!』


 スペさんが一人で、二口で、肉まんを食べきってしまった。

 セーバーさんは絶望の表情……。おもしろっ。


『はふっはふっ、肉まん……うみゃい! 肉汁が、じゅわっ……てなって、このパン? とよくあうのじゃぁ~♡ うまぁ~♡』

『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!』


 セーバーさんが頭を抱えてゴロゴロと転がる。

 おもしろ……けど、ちょっと可哀想。


 ここで助け船をだしてあげる。


「セーバーさん。いや、ヘルメス・洗馬せばさん。認めちゃいましょ? 地球の、コンビニメシが食べたいって……」


 僕はカバンから、取り寄せる。

 

『それは……! ま、幕の内弁当ぉ!』


 コンビニで買える、幕の内弁当。

 セーバーさんは目ん玉飛び出るくらい、取り出した弁当を凝視する。


「弁当……僕の加温スキルで、ほっかほかにできちゃいますよ?」

『し、しかし……み、みとめるわけには……話の主導権を……誰かに譲るのは……プライドが……』


「緑茶もつけちゃいますよ?」

『認めますぅううううううううううううううう!』


 セーバーさんが僕の前で、土下座してきた。

 あんな、大物感だしていた人が……。


『ぼくは日本食が好きだ! 特に、コンビニで買えるような、ジャンクなやつが好きなんだ!』


「へえー……ジャンクな食べ物がすきなんだ」


『そう! ぼく地球に居た頃、毎日のようにコンビニに行ってポテチとか! コーラとか! マガジャンとか買ってたの!』


 マガジャンっていうのは、日本で一番有名な週刊少年漫画雑誌だ。

 今、デジマスのコミカライズが載っている。


『こっちに来て、コンビニ行けなくなったじゃん!? それがもぉ辛くて辛くてぇ!』

「だから、日本に帰る方法を探してるんだ」


『そうなんですぅううううう! 大物ぶってたけど、ぼくはそんな浅い理由で、地球に帰りたいだけの、ただのヒキニートなんですぅうう!』


 ヒキニートなんだ……。


『ケースケ。ヒキニートとはなんじゃ?』

「引きこもりで、働いてない人のこと」


『なんじゃ、我と一緒じゃん』


 たしかにスペさん、長い間封印されてて、引きこもってて働いてないけども……。

 なんか、本格的に可哀想な人になってきたな。


「はいじゃ、ご褒美。ほかほか幕の内弁当に、緑茶。あと……マガジャン最新号」

『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』


 セーバーさんが、雄叫び上げながら、僕の前で土下座した。


『ありがとう! 啓介くん! ほんっとありがとう! いただきまぁす!』


 セーバーさんがガツガツ! と幕の内弁当にがっつく。

 

『うめっ、うめっ』


 泣きながら、コンビニ弁当を食べ、そしてマガジャンを読んでる……。

 うん……。


『さっきまでの大物ムーブは見る影もないの……』

「しっ、だめだよスペさん。ホントのこと言っちゃ……」


 ややあって。


『で、これからどーするんじゃ? ヒキニート』

『ぼくのことヒキニートっていうなよ! たしかにホントのことだけどさ!』


 正座してるヒキニートさん、もとい、杖の勇者セーバーさん。


『とりあえず、ケースケ君を手下に加えるのは辞めるよ。君とは、良好な関係を築いていきたい』


「コンビニ飯のため?」


『うぐ……ああ、そうだよ! できれば今後も、コンビニ飯を定期的に、食べさせていただけますと幸いです……てへへ』


 ごますりするヒキニートさん……。

 か、かっこわるい……。初登場時は、あんなに大物感あったのに……。


 しかし、ふーん……。

 コンビニ飯、そんなに食べたいんだ……。


 さて、どうしよう。

 取り寄せてあげるのは、簡単だ。


『もちろん! 対価は払うよ! ぼくお金結構もってるからね!』

『ヒキニートのくせにかの?』


『うっさいわ! 犬!』


 ……お金かぁ。

 正直、お金は要らないんだよなぁ。自分でどうにかできるし……。


 あ、そっか。

 自分でどうにかできないものを、もらおう。


「いいよ、セーバーさん。コンビニ飯、届けてあげる」

『ほんとかいっ!』


「うん。でも……その代わりに、探して欲しいものがあるんだ」

『探す?』


「うん。久遠封縛くおんふうばくはこの、解呪方法」


 久遠封縛の匣。ミサカさんを閉じ込め、苦しめている……呪物。

 僕の目的は、ミサカさんをこの呪いから解き放つこと。


『久遠封縛の匣……か。とても珍しい呪物だね。解呪は……正直不可能だと思うよ』


『不可能じゃない。ケースケは久遠封縛の呪いを、レベル2まで解いてみせたのじゃ』

『は、はぁあああああああ!? 嘘だろぉい!?』


 僕はこれまでの経緯を、簡単に説明した。

 セーバーさんは『なるほど……』とうなずく。


『ぼくの手持ちの情報じゃ、久遠封縛の匣を解呪する方法はない。となると、君のカバンの力を用いるのが、唯一無二の解呪法だろうね』


「そっか……じゃあ、聖武具のレベルを上げるしかないんだね。でも……困ってるんだ。最近レベル全然あがらなくて」


 雑魚(※普通につよい)を倒しても、ぜんぜんレベル上がらなくなってきてるんだもん。


 だから、妖精郷アルフヘイムいくんだ。


『ケースケよ、ならば、よりつよい、行方のわからぬ連中の情報を、こやつに探らせるのはどうかの?』

「よりつよい……行方のわからない連中?」


『うむ。すなわち、他の【七大魔王】の居場所じゃ』


 そっか……スペさんは、つよい。

 で、七大魔王は、スペさん並みにつよい。


 なら……七大魔王の力を、このカバンに入れたら……!

 聖武具は進化するかも!


『七大魔王の居場所……かぁ……う~~~~~~~ん……』


 セーバーさん、渋ってる。

 

『正直……七大魔王の手がかりって、ほぼ無いんだよね。それに、ぼくの目的からずれるっていうか……』


「あ、そ。じゃあ……コンビニ飯は諦めるんだね」


『ああもぉお! わかった! わかりました! この卑しいヒキニートめが、あなたのために、七大魔王の情報を集めてしんぜましょう!』


 おお、やったぁ。

 正直こんなに交渉が上手く行くとは思ってなかったなぁ。


「やりとりは、ヘルメスさん通してやる感じ?」

『そうだね。彼女とぼくは意識をリンクさせられるし。今後もヘルメスちゃんを連れてくといいよ。でも……』


 でも?


『コンビニ飯……できれば、直接食べたいんだけどぉ』

「えー……。ヘルメスさんの口を通して、食べれば良いじゃん」


『ぼくの口で! 直接食べたいんだよ! わかるでしょ!?』


 うーん……わからない!

 でもなぁ、ここでノーって断ったら、せっかくのカモが逃げてしまうし。


「しょうがないなぁ。本体に届けてあげるよ。でも、僕も旅しないといけないから、こっちに取りに来てね」


『うーん……ぼくも軽々しく動ける状態じゃないんだ』


 ということは……。

 誰かが、コンビニ飯を、セーバーさんに届ける必要があるわけだ。


『我は嫌じゃ。愛するケースケのもとを離れたくないわ』


 スペさん……。

 できれば、よだれを垂らしながら言って欲しかったな……そのセリフ……


「じゃあ、誰が届けるの?」

『そこの暗黒竜でいいでしょ。ねえ、ジャガーノート? 聞こえてんだろ?』


 ん?

 

「セーバーさん。何言ってるの? 時間止めてて、僕とスペさん以外、動けないんじゃ……?」


『うん。そうなんだけどさ。スペルヴィアが動けてるのって、魔王の力があるからなんだよね。で、ジャガーノートは、憤怒の魔王の眷属。つまり……』


 あ、もしかして……。


「ジャガーさん、動けない振りしてたの……?」

『………………』


「ジャガーさん」


 すっ……と僕はカバンから、お皿にのった、しょうが焼きをとりだす。

 さっき作ったものを、カバンに入れておいたのだ。


『………………』だらだらだら。


 ヨダレが、半端ないくらい出てた。

 うん……。


「動けるでしょ」

『動かないと、ぼくの極大魔法で粉々にするけど?』


 僕らにオドされて……。


『うひぃいいいいいいいん! ご勘弁してくださいっすぅううううううう!!』

 

 ジャガーさん、僕らの前で高速ジャンピング土下座をカマしてきた。

 やっぱ動けたんだ……。


『じゃあ、君。今日からぼくらのパシリね。ケースケ君のとこから、ぼくんとこに、コンビニ飯を定期的に運ぶこと』


『くっ……! なぜ偉大なる憤怒の魔王の眷属である、このオレ……ジャガーノートがこんなガキの……』


煉獄業火ノヴァ・ストラ……

『さーーーーーーせんしたぁあああああああ!』


 ジャガーさん、地面に頭を突っ込む。


『このジャガーノート! 喜んで、杖の勇者様と、カバンの勇者さまの、パシリやらせていただきますっすぅうううううう!』


 こうして、僕にパシリ(※暗黒竜)と、情報提供者(※ヒキニート)が、できたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る