第12話 杖の勇者と暗黒竜をパシリにする
杖の勇者ヘルメス・セーバーが、
「僕に接触してきた理由が……地球のご飯が食べたいから? それって本当なんですか? セーバーさん?」
杖の勇者さんは、露骨に『い、いやぁ……?』と目をそらす。
『は、はは……何をバカな。地球のご飯が恋しいから? そんなバカな理由で、このぼくが? 杖の勇者が? 動くわけないだろぉ?』
……なんて、嘘が下手なんだ!
ちょっといたずら心が、むくむくしてきた。
「スペさん。美味しいもの食べたくない?」
『『美味しいものぉ!?』』
スペさんと一緒に、セーバーさんも反応する。
「そう、とっても美味しいもの……」
僕はカバンの中に手を突っ込む。
そして、取り寄せカバンスキルを発動。
取り出したるは……。
「じゃーん!」
『肉まんだぁああああああああああああああああ!』
セーバーさんが、目をキラッキラさせながら叫ぶ。
そう、地球のどこでも買える、けれど……ここじゃどこにも売ってない……。
コンビニ商品!
肉まん!
『おほー! うまそうじゃぁ~! パンかな? パンじゃろっ?』
スペさんも僕の取り出した肉まんに、興味津々の様子。
ぶぉんぶぉんと尻尾を振る。
『それは肉まん! パンなんかより美味しいからまじで!』
セーバーさん、血走った目で叫ぶ。
さっきまでの、仙人じみた余裕はどこへやらだ。
『ひ、一口! 一口ちょうだいよぉ!』
「えー……どうしよっかなぁ~」
いたずら心がムクムクしてる状態の僕。
にやり、と笑ってしまう。
「でもさっき、セーバーさん、地球のご飯のこと、バカにしてませんでした?」
『ふぐぅうううううう!』
面白いなこの人……。
僕はスペさんに、肉まんを渡す。
『ああ! 肉まん! おくれ! 一口……』
『うんまぁあああああああああああああああああい! なんじゃこりゃああああああ!』
スペさんが一人で、二口で、肉まんを食べきってしまった。
セーバーさんは絶望の表情……。おもしろっ。
『はふっはふっ、肉まん……うみゃい! 肉汁が、じゅわっ……てなって、このパン? とよくあうのじゃぁ~♡ うまぁ~♡』
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!』
セーバーさんが頭を抱えてゴロゴロと転がる。
おもしろ……けど、ちょっと可哀想。
ここで助け船をだしてあげる。
「セーバーさん。いや、ヘルメス・
僕はカバンから、取り寄せる。
『それは……! ま、幕の内弁当ぉ!』
コンビニで買える、幕の内弁当。
セーバーさんは目ん玉飛び出るくらい、取り出した弁当を凝視する。
「弁当……僕の加温スキルで、ほっかほかにできちゃいますよ?」
『し、しかし……み、みとめるわけには……話の主導権を……誰かに譲るのは……プライドが……』
「緑茶もつけちゃいますよ?」
『認めますぅううううううううううううううう!』
セーバーさんが僕の前で、土下座してきた。
あんな、大物感だしていた人が……。
『ぼくは日本食が好きだ! 特に、コンビニで買えるような、ジャンクなやつが好きなんだ!』
「へえー……ジャンクな食べ物がすきなんだ」
『そう! ぼく地球に居た頃、毎日のようにコンビニに行ってポテチとか! コーラとか! マガジャンとか買ってたの!』
マガジャンっていうのは、日本で一番有名な週刊少年漫画雑誌だ。
今、デジマスのコミカライズが載っている。
『こっちに来て、コンビニ行けなくなったじゃん!? それがもぉ辛くて辛くてぇ!』
「だから、日本に帰る方法を探してるんだ」
『そうなんですぅううううう! 大物ぶってたけど、ぼくはそんな浅い理由で、地球に帰りたいだけの、ただのヒキニートなんですぅうう!』
ヒキニートなんだ……。
『ケースケ。ヒキニートとはなんじゃ?』
「引きこもりで、働いてない人のこと」
『なんじゃ、我と一緒じゃん』
たしかにスペさん、長い間封印されてて、引きこもってて働いてないけども……。
なんか、本格的に可哀想な人になってきたな。
「はいじゃ、ご褒美。ほかほか幕の内弁当に、緑茶。あと……マガジャン最新号」
『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
セーバーさんが、雄叫び上げながら、僕の前で土下座した。
『ありがとう! 啓介くん! ほんっとありがとう! いただきまぁす!』
セーバーさんがガツガツ! と幕の内弁当にがっつく。
『うめっ、うめっ』
泣きながら、コンビニ弁当を食べ、そしてマガジャンを読んでる……。
うん……。
『さっきまでの大物ムーブは見る影もないの……』
「しっ、だめだよスペさん。ホントのこと言っちゃ……」
ややあって。
『で、これからどーするんじゃ? ヒキニート』
『ぼくのことヒキニートっていうなよ! たしかにホントのことだけどさ!』
正座してるヒキニートさん、もとい、杖の勇者セーバーさん。
『とりあえず、ケースケ君を手下に加えるのは辞めるよ。君とは、良好な関係を築いていきたい』
「コンビニ飯のため?」
『うぐ……ああ、そうだよ! できれば今後も、コンビニ飯を定期的に、食べさせていただけますと幸いです……てへへ』
ごますりするヒキニートさん……。
か、かっこわるい……。初登場時は、あんなに大物感あったのに……。
しかし、ふーん……。
コンビニ飯、そんなに食べたいんだ……。
さて、どうしよう。
取り寄せてあげるのは、簡単だ。
『もちろん! 対価は払うよ! ぼくお金結構もってるからね!』
『ヒキニートのくせにかの?』
『うっさいわ! 犬!』
……お金かぁ。
正直、お金は要らないんだよなぁ。自分でどうにかできるし……。
あ、そっか。
自分でどうにかできないものを、もらおう。
「いいよ、セーバーさん。コンビニ飯、届けてあげる」
『ほんとかいっ!』
「うん。でも……その代わりに、探して欲しいものがあるんだ」
『探す?』
「うん。
久遠封縛の匣。ミサカさんを閉じ込め、苦しめている……呪物。
僕の目的は、ミサカさんをこの呪いから解き放つこと。
『久遠封縛の匣……か。とても珍しい呪物だね。解呪は……正直不可能だと思うよ』
『不可能じゃない。ケースケは久遠封縛の呪いを、レベル2まで解いてみせたのじゃ』
『は、はぁあああああああ!? 嘘だろぉい!?』
僕はこれまでの経緯を、簡単に説明した。
セーバーさんは『なるほど……』とうなずく。
『ぼくの手持ちの情報じゃ、久遠封縛の匣を解呪する方法はない。となると、君のカバンの力を用いるのが、唯一無二の解呪法だろうね』
「そっか……じゃあ、聖武具のレベルを上げるしかないんだね。でも……困ってるんだ。最近レベル全然あがらなくて」
雑魚(※普通につよい)を倒しても、ぜんぜんレベル上がらなくなってきてるんだもん。
だから、
『ケースケよ、ならば、よりつよい、行方のわからぬ連中の情報を、こやつに探らせるのはどうかの?』
「よりつよい……行方のわからない連中?」
『うむ。すなわち、他の【七大魔王】の居場所じゃ』
そっか……スペさんは、つよい。
で、七大魔王は、スペさん並みにつよい。
なら……七大魔王の力を、このカバンに入れたら……!
聖武具は進化するかも!
『七大魔王の居場所……かぁ……う~~~~~~~ん……』
セーバーさん、渋ってる。
『正直……七大魔王の手がかりって、ほぼ無いんだよね。それに、ぼくの目的からずれるっていうか……』
「あ、そ。じゃあ……コンビニ飯は諦めるんだね」
『ああもぉお! わかった! わかりました! この卑しいヒキニートめが、あなたのために、七大魔王の情報を集めてしんぜましょう!』
おお、やったぁ。
正直こんなに交渉が上手く行くとは思ってなかったなぁ。
「やりとりは、ヘルメスさん通してやる感じ?」
『そうだね。彼女とぼくは意識をリンクさせられるし。今後もヘルメスちゃんを連れてくといいよ。でも……』
でも?
『コンビニ飯……できれば、直接食べたいんだけどぉ』
「えー……。ヘルメスさんの口を通して、食べれば良いじゃん」
『ぼくの口で! 直接食べたいんだよ! わかるでしょ!?』
うーん……わからない!
でもなぁ、ここでノーって断ったら、せっかくのカモが逃げてしまうし。
「しょうがないなぁ。本体に届けてあげるよ。でも、僕も旅しないといけないから、こっちに取りに来てね」
『うーん……ぼくも軽々しく動ける状態じゃないんだ』
ということは……。
誰かが、コンビニ飯を、セーバーさんに届ける必要があるわけだ。
『我は嫌じゃ。愛するケースケのもとを離れたくないわ』
スペさん……。
できれば、よだれを垂らしながら言って欲しかったな……そのセリフ……
「じゃあ、誰が届けるの?」
『そこの暗黒竜でいいでしょ。ねえ、ジャガーノート? 聞こえてんだろ?』
ん?
「セーバーさん。何言ってるの? 時間止めてて、僕とスペさん以外、動けないんじゃ……?」
『うん。そうなんだけどさ。スペルヴィアが動けてるのって、魔王の力があるからなんだよね。で、ジャガーノートは、憤怒の魔王の眷属。つまり……』
あ、もしかして……。
「ジャガーさん、動けない振りしてたの……?」
『………………』
「ジャガーさん」
すっ……と僕はカバンから、お皿にのった、しょうが焼きをとりだす。
さっき作ったものを、カバンに入れておいたのだ。
『………………』だらだらだら。
ヨダレが、半端ないくらい出てた。
うん……。
「動けるでしょ」
『動かないと、ぼくの極大魔法で粉々にするけど?』
僕らにオドされて……。
『うひぃいいいいいいいん! ご勘弁してくださいっすぅううううううう!!』
ジャガーさん、僕らの前で高速ジャンピング土下座をカマしてきた。
やっぱ動けたんだ……。
『じゃあ、君。今日からぼくらのパシリね。ケースケ君のとこから、ぼくんとこに、コンビニ飯を定期的に運ぶこと』
『くっ……! なぜ偉大なる憤怒の魔王の眷属である、このオレ……ジャガーノートがこんなガキの……』
『
『さーーーーーーせんしたぁあああああああ!』
ジャガーさん、地面に頭を突っ込む。
『このジャガーノート! 喜んで、杖の勇者様と、カバンの勇者さまの、パシリやらせていただきますっすぅうううううう!』
こうして、僕にパシリ(※暗黒竜)と、情報提供者(※ヒキニート)が、できたのだった。
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