第13話 VS剣の勇者


 僕は舎弟と協力者を、得た!


 翌日。

 僕らを乗せた馬車は、妖精郷アルフヘイムの目前まできていた。


「うーん……」

『どうしたのじゃ、ケースケよ』


 僕のお膝の上に、スペさんが座っている。

 子犬姿は、小さな前足で、器用に漫画(デジマス)を読んでいた。


「いや、セーバーさんの言っていたことが気になって……」


 回想。


【ごめんね、啓介君。もうすぐ、君のところに、刺客が来ると思うんだ】

【しきゃく……?】


【うん。四大勇者のひとり、剣の勇者チャラオが来る】

【! チャラオさんが……! どうして?】


【どうにも、彼は君に恨みを抱いてるみたいでね。情報を求められたから、君が妖精郷アルフヘイムにいくことを教えちゃったんだ】

【まじんがぁ~……】


 回想終了。

 チャラオさん……どうして恨んでるんだろう?


 僕……何かやっちゃったかなぁ?

(※↑盗賊団団長と間違って、ボコボコにしただからです)


『生きてるだけで、恨みを買うものじゃ。特に、強き者はそういうトラブルに巻き込まれやすいのじゃ……』


 遠い目をするスペさん。

 忘れがちだけど、スペさんは高慢の魔王。


 もの凄い強い。

 だから……色んな苦労があったんだろう。


 嫌なこと思い出させちゃったかな。


「スペさん、元気出して」

『うむ。あーん……』


 え?

 スペさんが口を大きく開ける。

 これは……まさか菓子パンを要求?


 もぉ~。食いしん坊~。

 まあでもいいか。元気になるなら。


 取り寄せカバンから、菓子パンを取り出す。


「はいどうぞ」

『あーん。ケースケぇ~♡ あーん♡ 我今漫画読んでるから、あーん♡』


 もぉ~。

 しょうがないな。僕は袋を破って、パンをスペさんの口に運ぶ。


『漫画読みながら菓子パンを食う……。最高の贅沢じゃぁ~……♡』


 やっすい贅沢だなぁもぉ。

 と、そのときである。


『む? ケースケよ。超高速で、何かが接近してくるぞ』


 スペさんが魔力感知スキルを発動させた。

 何かって……なんだろう?


「敵かな?」

『うむ。まあでも、我の敵ではないがなっ』


 あ、じゃあ弱いかぁ。

(※↑魔王基準の弱い。学習しない男です)


『まずいの、敵がこの馬車にツッコんでくるコースなのじゃ!』

「な、なんだってぇ!?」


 ディートリヒさんが叫ぶ。

 あ、居たんだ……。


「ど、どうしましょう、カバンの勇者殿っ」

「ここは、あたしが魔法で……」


 ヘルメスさんが杖を取り出す。

 ちなみに、セーバーさんに憑依されてる間の記憶は無いらしい。


「ううん、大丈夫! 僕に任せてっ」


 敵の狙いは多分僕だ。

 さっきスペさん言ってたもん、強いやつには面倒ごとがついて回るって。


 どう考えても弱いこの二人が、誰かから恨まれるとは到底思えない。

(※↑ディートリヒは帝国軍最高司令官、ヘルメスは杖の勇者の眷属。どちらもこの世界基準で強い部類)


 僕を狙って、二人がケガしたら、嫌だもんね。

 僕は窓から身を乗り出して、馬車荷台の屋根の上に乗っかる。


『なんと、軽業師のような、華麗な動きじゃな』

「ミサカさんの体術だよ」


 僕の体には神眼の大勇者、ミサカ・アイさんの剣士としての記憶が宿っている。


 こう動きたい、とイメージするだけで、体が自動で、最適な動きをしてくれるのだ。

 だから、こんな素人でも普通に魔物と戦えるし、身軽に動けるのだ。ほんと、ミサカさんには感謝しかないよね。


『敵は真っ直ぐこっちにツッコんでくるのじゃ』


 スペさんが僕の頭の上に乗っかった状態で言う。

 尻尾で、前方を指す。


 目をこらすけど、まだ敵の姿は見えない。

 結構遠くに、まだいるみたいだ。


 スペさんが居て良かった。おかげで、不意打ちを防げる。


『して、どうする?』

「方向はこっちなんだよね? なら……【絶対切断】!」


 僕はスキル、絶対切断を発動。

 手のひらから、巨大な斬撃が発射される。


 空飛ぶ斬撃が、前方に向かって勢いよく射出!


 ガキィイイイイイイイイイイイイン!


「ぐあああああああああああああ!」


 斬撃と何かがぶつかり、そいつは上空に投げ出された。

 くるくるくる……。


 ぐしゃああ……! 


『敵は絶対切断を食らって、上空へ吹っ飛ばされ、そして落下したようじゃ』

「ほえー……結構固い敵かもね」


 絶対切断は、文字通り何でも、絶対に切断するスキルだ。

 でも、それを食らっても生きてるだからね。

(※↑結構どころか、ぶつかったのが勇者の剣じゃなかったら上半身と下半身が真っ二つになってました)


 馬車が止まる。

 さて、どうしよう。


 敵なら、仕留めておかないとね。

 僕は屋根の上から、ぴょんっ、と下りる。


 そして……倒れてる敵のもとへ近づくと……。


「はれ? 盗賊団の、団長じゃん」


 前にラトラさん(オタクさんのメイドさん)を襲った、デブの盗賊団団長が、そこに転がっていた。


 なーんだ。 

 敵って、前の弱い盗賊団団長じゃーん。(※↑剣の勇者チャラオです)


「ち……くしょ……今何された……」

「あ、どうも~」


「! て、てめえ……! チビぃ!」


 ま、チビだなんて。


「相手の身体的特徴をあげつらうのは、良くないと思いますよ。デブ団長」


「誰がデブだ誰がぁ……!」


 デブ団長が起き上がる。


「てめえ! あんときの! そうか……。やい、どうして生きてやがる!」

「はぁ? 何ですか、急に。失礼な人ですね」


(※↑剣の勇者は、啓介の顔を思い出しました。が、啓介は目の前のデブ団長が、チャラオと気づいてない状況です)


「まあいい。てめえは殺す! 女王からも、おまえを殺すように命令が下ってるからなぁ!」


 えー……。

 ワルージョ女王、盗賊団になんて、殺人の依頼してるの?


 うわ、激やばじゃん……。

 やっぱりあの人、悪い女だ。


「殺すって……え、どうやってですか?」

「それはもちろん! このおれの剣で!」

「あれ、でもポッキリ折れてますよね、それ」


 デブ騎士団長の手には、大剣が握られている。

 でも刀身が、途中でボキッと折れているのだ。


「はは! 馬鹿なこと言うな。この剣は聖武……うぅうええええええええええええええええええええ!? お、おれてるぅうううううううううううううううううううううう!?」


 気づくの、おそっ!


「ど、どうなってんだ!? いつの間に剣が折れた!?」


(※↑チャラオは剣に載って移動する、【空中飛行エア・ライド】というスキルで、啓介たちの元へ接近。そこへ、啓介の絶対切断の攻撃を受けた。結果、攻撃が勇者の剣にぶち当たって壊れた)


 よくわからないけど……。


「まともな剣を買うお金も無いんですね。可哀想に」

 

 折れた剣しか使えないなんてね。

 かぁっ、とデブ団長が顔を真っ赤にする。


「う、うるせえ! てめえなんぞ、この折れた剣で十分だぁ!」


 デブ団長が剣を両手で持って、こちらに走ってくる。


「しーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 え……。

 遅……(ドン引き)。


 え、マジで?

 なんでこんなゆっくり掛かってきてるの?

(※↑神眼の動体視力で、ゆっくりと見えてるだけで、亜音速で斬りかかってきてます)


 こんなのあくびをしてても避けられるよ。

 ひょいっ、と。


 僕は余裕を持って、ぴょんっ、とジャンプして避ける。


「でぇえええええええええええええええええええええええ!!!!!」


 ずさぁあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!

 ……デブ団長さん、なんか凄い勢いで、ヘッドスライディングしてた。


 え~……変な人ぉ。


「な、なんだ……今の動き! 早すぎて見えなかったぞ!」

「それって、ギャグです? あんなゆっくり動いて、ふざけてますよね?」


「!? き、貴様ぁ……! おれをコケにしやがってぇええ!」


 いや、コケにしてないんだけど……。

 どっちかっていうと、馬鹿にしてるのはそっちのような……。


 あんな、バカみたいにゆっくり動いて……。


「もう許さん! おれの最大奥義で、てめえを葬り去ってやる! うぉおおおおおおおおおおおお!」


 デブ騎士団長が折れた剣を両手で持って、天に掲げる。

 すると……。


 カッ……!

 ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


『むぅ、結構な魔力量じゃの』


 剣から、まばゆい光の柱が、空に向かって伸びる。

 空気がビリビリと鳴動する。


 黄金色の光を発する剣を、デブ騎士団長は両手で持ち、構えを取る。

 そして……。


「【陽光聖天ようこうせいてんしょ……】」

蠅王宝箱ベルゼビュート!」

「ふぁ?!」


 僕はカバンの蓋をぱかっ、と開ける。

 瞬間、カバンの蓋から、無数の黒い触手が伸びる。


 それはデブ騎士団長の剣から伸びてる、光の柱へ向かって行く。


 光の柱に、蠅王宝箱ベルゼビュートからでた触手が絡みつく。


 ぺた……ぺたぺた……ぺたぺたぺたぺた……!

 触手は黄金の柱に張り付き、ぎゅうぎゅう……と圧縮していく。


 まるでぞうきんを絞るかのように、ぎゅうぎゅうと。

 すると光の柱はドンドンしぼんでいった。


 やがて……触手が僕のカバンの中へと戻っていく。

 光の柱は……消えていた。


『蠅王が、敵の必殺技に込められた魔力を全部吸収したみたいじゃな』

 

 デブ騎士団長は、剣を掲げたまま、バカみたいにぽかーんと口を開けていた。


「え? え? えええ!? な、なんでえ!? おれの、最大の必殺技が……きえてるのぉお!?」

「なんか、食べちゃいました。僕のカバンが」


「はぁああああああああああああああああああ!?」


 何度も自分の剣と、そして僕のカバンとを見比べる。


「どどうなってんだよぉ!? カバンの聖武具なんて、ハズレ聖武具じゃなかったのかよぉ!」

「あー、それよくある偏見ですね。聖武具が弱そうだからって、イコール、使えないってわけじゃないですよぉう」


 僕がダンジョンで出会った、廃棄勇者達の持つ聖武具達は、全部使える能力を持っていた。

 でも、鍋とか、針とか、靴とか……一見すると弱そうってだけで、みんな捨てられてしまった。


 あの、悪い女王と、このデブは、一緒だ。


「見た目だけで判断するなんて。バカのすることですよ」

「ぢ、ぐ、しょぉおおおおおお! こうなったら……うぉおおおお!」


 折れた剣を振りかざし、ツッコんでくる。

 あーもう、ダルい!


「麻酔針!」


 針の勇者さんの派生スキル、麻酔針発動。

 カバンからピュッ……! と無数の針が飛び出す。


「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 針が全身につきささると、デブ騎士団長は……倒れた。

 ふぅ……解決!


 この前と同じで、全然強くなかったなぁこの人。

(※↑王国最強剣士【剣の鬼】にして、王国騎士団長)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る