第21話 肉林となった帝国民を助ける



 僕ら三人+スペさんは妖精郷アルフヘイムの奥へと進んでいってる。


「さっきのクモの経験値、四天王とかいってたね」


 てくてく歩きながら、僕はスペさんと雑談する。


『そうじゃの。ダズルを含め現在、3体を討伐した。ということは、残りは1体……じゃな』

「勇者殿のお手を煩わせるほどではございません! 勇者殿の一番弟子である、このディートリヒめが、必ず、絶対! 討伐して見せますっ!」


 いつの間にディートリヒさん、僕の弟子になったんだろうか……?

 不思議だ。


 まあでも、だ、だず……なんだっけ。

 四天王もたいしたことないよね。3体くらいつっかかってきたけど、全部らくしょーだったしさぁ。


(※↑四天王はそれぞれ超強いです、啓介が化け物なだけです)


『む!』


 そのとき、スペさんの明後日の方向を、見やる。


「どうしたの? スペさん」

『ケースケよ、勇者の気配じゃ』

「! それって……もしかして……廃棄勇者?」


 廃棄勇者とは……。

 僕のように、異世界から呼び出され、捨てられた勇者のことだ。


 スペさんのいたダンジョンには、何人もの廃棄勇者が居た。


「なんだか久しぶりだね」

『そうじゃの……しかし、この気配は……』


「どうしたの?」

『うーん……なんか妙な気配が……生きてるんだか、死んでるんだか……』


 スペさんがなんだか煮え切らないことを言う。

 まあでも。


「廃棄勇者さんの遺体があるかもなんだよね? じゃあ、回収してあげないと!」


 この世界に来て、家に帰ることができず、知らない場所で息絶える……。

 そんなの、可哀想だもんね。


 だから、僕はできるだけ、勇者の遺体を回収したいと思ってる。

 もう家に帰ることはできなくても、遺体を地球に帰してあげることは、できるかもだし。


 解呪待ってるミサカさんには、悪いけど、ちょっと寄り道させてもらおう。


「スペさん、勇者の遺体(仮)の場所まで、案内して!」

『合点承知じゃ』


 ということで、僕はスペさんに案内してもらうことに。

 森を進んでいくと、洞窟を発見。


「大きな洞窟ですね」


 ヘルメスさんが感心しながら言う。

 

『この洞窟の奥から、勇者の気配がした……』

「? なんで過去形?」


『なんじゃか……妙な気配でな……。あるようで、ないような……』


 いつもと違って、スペさんがハッキリ遺体だって断定しない。

 どうしちゃったんだろう?


 首をかしげながらも、僕は遺体のもとへと向かう……。


 ほどなくして。

 少し広いホールに出た。


「うわ……変な匂い……生臭いっていうかぁ~……」


 なんか腐った魚みたいな匂いが、あたりから充満する。

 肩に座ってるスペさんも、顔をしかめるほどだった。


 周りは薄暗くてよく見えない。


『あれじゃな……』


 スペさんが前を指す。

 僕はそこで……。


「うわ、これは……酷い。バラバラ死体だ……」


 人間っぽいもの、あるいは、人間だったものが、落ちてる。

 四肢がもがれ、胴体と別れてる。


 体には斜めに切った痕があった。



「ひどいや……! 誰か勇者さんを、こんな酷い目に!」

「む? 勇者殿……これ、人間ではなくないか?」


「え、人間じゃない……?」


 ディートリヒさんが懐から、小さな石を取り出す。

 ぴかっ!


 うわ、まぶしっ。なにこれっ。


・青光石

→ダンジョンで採取される、青く光る石。光が無いところで輝く。


 鑑定で調べたところ、ダンジョンで取れる石のようだ。

 青く照らされて、バラバラしたいがよく見えるようになった。


「たしかに……これ、人間っぽくないですね。カマキリ……でしょうか?」


 人間サイズのカマキリだ。

 たしかに、僕が倒してきた、チョウやクワガタ、クモの経験値(※←魔族です)と、同じような見た目をしている。


「鑑定っ」


蟷螂とうろうのマンティス

→魔族。魔蟲王四天王がひとり。


「魔蟲王四天王みたいだね」

「なっ!? どうして四天王が、バラバラ死体になっているのだっ!?」


 ディートリヒさんが驚く。

 ヘルメスさん……いや、ヒキニートさんがしゃがみこんで、経験値を見やる。


「これは……もしかして……【やつら】の仕業かも……」

「どうしたのヒキニートさん? 厨二病なの?」


 意味深な言葉を吐いて人の関心を引こうとするなんて。

 ニートのくせにその上厨二病だなんて、えらいこっちゃだ。


『それにしても……妙じゃ。たしかに勇者の気配はあったのじゃ……。でも、実際には魔蟲王四天王のひとりが、バラバラ死体になっておる』


「あ、たしかにぃ~。スペさんが感知した勇者さんの遺体、どこにいるんだろ?」


 魔族の遺体だけしかないのが、気になったなぁ。


「まあそれはそれとして経験値くびもらってきますね」


 ざくっ!

 収納!


『聖武具のレベルが上がりました』

『聖武具のレベルが上がりました』

『聖武具のレベルが上がりました』

能力アビリティ【蟷螂】を習得ラーニングしました』


 よし、レベルあーーっぷ!


『この凄惨な死体を見て、冷静にクビとってる君ほんと妖怪……』

「なぁに?」


『なんでもないっす!』


 さて、と。

 廃棄勇者を探してみようかなぁ……。


「ゆ、勇者」


 そのとき、ディートリヒさんが腰を抜かす。


「どうしたの?」

「あ、あれ……あれを! あの……木を!」

「木……? 洞窟のなかですよ、ここ……?」


 目をこらしてみる。

 僕らがいるホールには、何本もの木ようなものが、生えていた。

 でも……。


「! こ、これ……」

『なんと……おぞましい……』


 僕もスペさんも、言葉を失ってしまう。

 そこには、たしかに木があった。


 ……ただし。


「肉……人間の肉でできた……木、ですね」

『オロロロロロロロロ!!!!!!!』


 セーバーさんが吐いてしまうのも、無理はないよ。

 人間をぐっちゃぐちゃの粘土みたいにして、それをぺたぺたくっつけて、木を無理矢理作ってるんだ。


『昔、悪しき王が酒池肉林というものを、作ったことがあったの……まさか、この時代でまたやるうつけがおるとは……』


 スペさんの声が、怒りで震えていた。

 僕も……そんな酷いことをするやつは、普通に許せない。


 それに……。


「う、うう……」「た、す……け……」


 ディートリヒさんが肉林を見て、怯えた声を出す。


「あ、あぁああ……! お、おまえたち……!!!!!!!!!」


 ディートリヒさんが肉林の1本に近づく。


「どうしたんですか?」

「……私の、部下だ」

「!?」


 肉林の側に僕も駆け寄る。

 ぐちゃぐちゃになっててわかりにくいけど……。


 たしかに、ディートリヒさんと同じ、制服を着た人が、肉林にされていた……!


「なんと、むごいことを……う、ううう……」


 さすがの僕も、これにはドン引き……というか。

 これをやったやつに、腹立ってきた。


「オタクさんの、第二の故郷の人たちに、なんてことを……!」


 僕と違って、オタクさんは、マデューカス帝国を愛していた。

 その国で暮らしてる人たちを、こいつらはきっと拉致して、肉林にしたんだ……!


 許せない……


「許せ……私には、どうすることも……できない……いくら強くなっても! 私は……無力だ……」


 涙を流すディートリヒさん。

 まあ、こんなことしたやつはぶっ飛ばすとして。


「大丈夫です! 僕が……治します!」

「な、治す……? ど、どうやって……?」


 ディートリヒさんは忘れてるようだ。

 僕の……カバンの勇魔の力を!


「僕の持つ……救急ファーストエイドボックスを使うんです!」

「! そうか……あの力は、どんな傷でも治せる!」


 だから、このぐちゃぐちゃになった人たちを、元に戻せる……!


『難しいのじゃ』『そうねえ、【今のままじゃ】』


 ?

 今の声…なに?


『! この声……まさか!』

 

 スペさんが驚く。

 誰の声これ……?


『いままのままの救急ファーストエイドボックスじゃ、このたくさんのぐちゃぐちゃ死体を治せないわん♡』

「え、そうなんですか……?」


 てゆーか誰?


『だからあ~……お姉さんが今だけ♡ 特別サービスしてあ・げ・るっ♡』


 え、だれ……?

 瞬間、がばっ! とカバンの蓋が開く。

 そこから出てきたのは、いつもの……きわどい格好のエロ天使……。


「じゃ、ない……? 黒い翼……?」


 いつものお姉さんじゃ、ない。

 黒い翼の、眼鏡をかけた、えっちなお姉さんが出てきたのだ!


『【ルクスリア】! 貴様はどうして!』


 るくすりあ……?


『お姉さんが皆を治してあ・げ・るっ♡ ふぅう~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡』


 黒翼のえっちな天使? のお姉さんが、吐息を吹きかける。

 瞬間……。


「うわぁあ!」「な、なんだ……!?」「か、体がうごく! うごくぞおぉ!」


 肉林が、元に戻っていた。

 大量の帝国の民(推定)が、元の姿に!


「みんな! 無事か!?」

「「「皇女殿下さま!?」」」


 ディートリヒさんが、皆の無事を泣いて喜んでいた。

 うん、治って良かった……良かったけど……。


「あのぉ、エッチな天使の、お姉さん?」


 普段僕のカバンから出てきて、人を治してくれた、救急ファーストエイドボックスのお姉さんに……話しかけてみる。


 いつもなら僕の問いかけに、答えてくれない。

 でも……。


『なぁに坊や♡ お姉さんのスリーサイズでも知りたいの? なーんて♡ うふふ♡』

「いえ、あの……ありがとうございました」


『いえいえ♡ いいのよ、お姉さん【も】、そこのわんこ同様に、気に入っちゃったから♡』

『も?』


 それに、お姉さん、スペさんを知ってるみたいだ。


『お姉さん直ぐそこにいるから、早く助けてくれると、嬉しいなぁ~♡』

「? ?????」


 直ぐそこにいる……?

 どういうこと……?


『あらら、時間みたい。じゃ、またね♡ きっともうすぐ会えるよ♡』


 そういって、エッチなお姉さんが消えていった。

 誰なんだろ……あれ……?


 それにもうすぐ会えるって……。


「スペさん、あの人誰?」

『夜王じゃ』


「や、おー?」

『七大魔王がひとり。【色欲の魔王ルクスリア】……の分体じゃな』


「分体……じゃあ、魔王さん本体じゃないんだ」

『うむ……ケースケの持つ救急ファーストエイドボックスを媒介に、顕現したのじゃろう』


 なるほど……。

 エッチなお姉さんは、七大魔王のひとりだったんだ……。


 って、ん?


「お姉さんいきなりカバンから出てきたけど、どういうこと? いつの間に取り込んでたの僕?」

『いや、取り込んでない。さっきのはあくまで分体。本体は……あそこ。巨大蟲の、卵の中じゃ』



 なんてこった。

 僕が探していた巨大な魔蟲の卵のなかに、七大魔王がひとり、エッチなお姉さんが封印されてるだって!?(※色欲の魔王ルクスリアです)


「ルクスリアさんは、スペさんの友達……なんだよね?」

『まあな』


 ……卵の中にいるって、どういうことなんだろう。

 わからない。


 けど……スペさんの表情は暗い。

 多分ヤバい状況にあるんだろう。


「助けないと……だね!」

『ああ、そうじゃな……頼むケースケ。あのエロ魔王を助けてやっておくれよ』


 もとより、巨大蟲の卵は回収するつもりだったんだ。

 エロ魔王さんも、助けちゃうもんね!(※色欲の魔王です)

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