第17話 クルネとジョハンナ



「やっちまった……」


 領地の屋敷に戻り、自分の部屋でベッドに倒れ込んだ俺はあまりに目立った行動をしてしまい後悔をしていた。アマリスがあんなふうにされてイラッとしてしまったとはいえ、目立ちすぎてしまった。

 その上、アマリスからの好感度も上がってしまったかもしれない。


「こうなったら、逆に主人公ムーブするか? それもあり寄りのありだな……」


 主人公は今何をしているんだ? 序盤のボスである俺がいなくなったことで彼または彼女の行動が少し変わったのかもしれない。ただ、アマリスにまだ会っていないとなると今の時系列は物語が始まる結構前だったのかもしれない。

 となれば引き続き死亡フラグは立てずにのんびり慈善活動を行う他ないだろう。


「あの、ダヴィド様。ちょっとよろしいでしょうか」


 ノックと共にドアの前からした声はクルネのものだった。


「どうぞ」

「失礼します」


 クルネは部屋へ入ってくると俺の前までやってくる。無表情に近いクールな彼女が何を考えているのか俺にはわからなかった。


「何か異常でもあったか?」

「いえ、屋敷の周りにモンスターはおりません。そうではなく、ダヴィド様とお話がありまして」

「あぁ、そうか。とにかく座ってくれ」


 俺は近くにある椅子に促したつもりが、何を勘違いしたのかクルネは俺の隣、つまりはベッドに腰掛けた。

 夜、ベッドの上で至近距離で見る「過激なビキニアーマー」の破壊力は凄まじい。まるで同人誌の中に入ったみたいだ。


「ジョハンナのことです」

「ジョハンナ、この前の保安局の?」

 

 俺は彼女のことを知っているがとぼけておく。


「彼女は私の妹弟子で……なんというかその」


 クルネは言いにくそうに少しモジモジしてから俺の方を見つめると


「彼女もこの教団に勧誘しようと思います!」


 と言い出した。クルネは元々、傭兵でこの教団には興味がないと思っていたが、熱心な信者であるユフィーと過ごすうち染まってしまったらしい。

 とはいえ、ジョハンナは主人公パーティーの一員。流石に接点は避けたいところだ。


「いや、彼女には仕事があるだろう?」

「そうですが……ジョハンナは頑張りすぎてしまう子だから、心の拠り所を作ってあげたくて」

 クルネがこの場所をそんなふうに思ってくれていることは嬉しいが……

「とはいえ、アマリス様も彼女が必要だと思うし今は難しいんじゃないか?」

「そう……ですよね」

「でも、クルネがそんなふうに教団について思っていてくれて俺は嬉しいよ」

「へっ?」

「だって、心の拠り所だってクルネも思ってないとそんなふうに考えないだろ。そうえば、クルネはどうして城の保安局をやめたんだ?」

 詳しいことはわからないが国に属する機関から傭兵にという転職はなかなかアグレッシブである。

「それは……その、保安局の内部の腐敗を見てしまって」

「腐敗……?」

「はい、保安局は貴族たちからの寄付金を受け取っていて貴族たちの物言いで取り締まる事件があったりなかったり……そこに正義はありませんでした。だから、やめたのです」


 そんな話、ゲームの中には無かった。

 だが、人が生きている以上そういったことは起こるんだろう。


「そうか、大変だったな」

「はい、それはもう……。美しい女性保安員はときに貴族の献上物になることもあるとか。幸い、私はなぜか呼ばれませんでしたが」


 クルネは真面目すぎておっさん貴族をぶっ殺しかねないからな……。


「ジョハンナの気持ちは聞いたのか?」

「いいえ」

「じゃあ、こちらが勝手な善意で動くのは良くないと思うがな。彼女はあの場所で出世したいと考えているかも? しれないし」

「確かに、ジョハンナは保安局が好きだと言っていたので……そうですね。私の考えすぎだったようです」


 なんとかクルネが納得してくれたことに胸を撫で下ろしつつも、俺は城周りの治安があまりよくなさそう(いわば本当に中世のような理不尽がありそう)な雰囲気に危機感を覚えた。


「でも、ありがとうクルネ」

「ダヴィド様」


 クルネは部屋を出ていった。彼女はユフィーと違ってあまり俺に対する好感度が高くないが、教団のことについて考えてくれてはいるらしい。


「保安局の腐敗……かぁ、のちのち面倒なことになりそうだからイーゴ家から寄付でもしておくか」


 俺は悪役貴族らしくしっかりと先手を打つのだった。




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