第10話 シュカの正体


 ふわふわの大きなベットで眠っているはずの俺はたぬき眠りをしている。というのも俺は、あのルーカスが元盗賊であることに気がついていたからだ。


 主人公が物語終盤に貴族街を訪れると彼は貴族街の説明をしつつ「俺も貴族になりきっている盗賊なんだけど意外とバレないなぁ」なんて呟くのだ。

 そんな彼の屋敷の地下には宝物庫があって、終盤に手に入れる「万能の鍵」をもっているとレアなアイテムが手に入るのだ。


 ということは、あのシュカも盗賊団の一員の可能性が高く、あの2人が別れ際にした目配せは……。


——きたっ……。


 ぬるり、とベッドに入り込んでくる腕は俺の腹から胸へと上がり、肩を撫でる。おそらく、俺の指についた指輪を探しているのだろう。

 しかし、それを読んでいる俺は後ろ手にして背中に隠すようにしている。


「くっ……」


 シュカは暗闇の中、そっとベッドに上がる。ギシ、ギシ、と小さく音をたて彼女は俺の体を寝返りさせようと両手を伸ばす。

 その瞬間、俺は起き上がって彼女の細い腕を掴み、一気にベッドに押し倒した。彼女の両手首を掴んだまま、馬乗りになる。

 ばんざいの体制で腕手首を俺に抑えられ、ベッドでもがく姿はさながらそういうプレイのようだ。


「起きて……!」

「あぁ、流石に起きてるよ、シュカ」

「くっ……こうなれば……私を好きにしていいから命だけは助けて」


 彼女は抵抗をやめて体の力を抜くと一気に色気のある声を吐き出した。メイド姿とは違って、盗賊らしい露出度の多いヘソだしの黒いビスチェに、下はタイトなミニスカート。強気でちょっと吊りあがった猫目も非常に魅力的だ。

 俺を誘うように身を捩り、あろうことか足で俺の足をそっと撫でてくる。


「まずは、盗んだものを返してもらおうか」


 俺はシュカの両手首を片手で抑えながら、彼女のビスチェの胸元に挟まった、ユフィーの装飾品「ルビーのネックレス」を引っ張り出した。


「んっ……」

「お前、これだけ盗んでどこにいくつもりだったんだ?」

 

 今度はミニスカートの中に隠されていた札束を取り出す。その後、他に盗まれたものはないかと体をチェックするが不自然な膨らみはなかった。


「口だ」

「へっ?」

「口を大きく開けやがれ」

「あっ、ダメっ、はぐっ」


 彼女の頬の裏っ側からクルネの指輪を取り出しベッドの横へ放り投げた。


「全く、油断もスキもない」

「別に、ひとしきり盗んだら妹を買い戻してどこか別の街に逃げるつもりだっただけよ。あのルーカスってのも騙してただけ」

「ルーカスも?」

「えぇ、有名な盗賊だっていうから声をかけてみたけどあんなふうに貴族街で大袈裟な演技をしてスリをしてたの。こんなに強引に連れてこられたのは初めてだけど。まぁ、ルーカスのところに戻る義理もないし」

「そうか、じゃあ俺たちが上級貴族だと聞いてここまでついてきたってわけか」

「そう。ここであなたに最大限奉仕してあげるから指輪を一つ譲ってちょうだいよ。私の大事な妹が人攫いにあって売られてしまってね。明日までには買い戻さないとあの子は娼館に売られてしまうでしょうね」


 彼女は器用に口でビスチェの肩紐を解くと熱っぽい瞳で俺を見つめて舌なめずりをする。


「おーい、入ってきていいぞ」


 俺の反応に驚いたシュカを解放すると、ドアからなだれ込むようにユフィーとクルネが部屋に入ってきた。


「聞きましたよ! シュカさん」

「これは、私たち出番ですね。ダヴィド様、ユフィーさん」


 なんだかやる気満々のユフィーとクルネに起き上がったシュカは目をぱちくりさせた。脱ぎかけたビスチェを腕で抑え、胸がこぼれないようにしながら彼女は


「へっ」


 と腑抜けた声を出す。

 俺はベッドを降りると服の乱れを直し、指輪をはずずと全部シュカの方に放り投げた。


「お前の妹は俺たちが買い取ってやる。だから、メイドとしてうちに入信しろ。衣食住に装飾品付き。いい案だろ? どうせ、今まで苦労してきたんだろう。そうじゃなきゃ初対面の男に『好きにしろ』なんていえないからな」

 素直に喜べないシュカは眉間に皺を寄せる。

「そんなことして、あなたたちに何の徳があるっていうの?」

 俺はユフィーとクルネと顔を見合わせて微笑む。

「俺たちは、徳とか徳じゃないとかでは動かない。困ってる人間を女神様の名の下に助けるマゴアダヴィド教の人間なんだよ」


「さ、教祖様。シュカさんの妹さんを助けましょう!」

「とりあえず、100万ゴールドくらいかな?」

 俺はローブを羽織ると杖を手に取って準備を始める。ユフィーやクルネも同じく戦闘服に着替えて準備満タンだ。


「あっ、ユフィーさんのバニースーツ……すごいですね」

 クルネがユフィーの逆バニーをみて嫉妬するような声を出し自分の過激なビキニアーマーと何度も見比べる。

「でも、戦士型じゃない私はそっちをつけられないし……魔法真珠の飾りが可愛いじゃないですか」

「けど、ユフィーさんの方はうさ耳とか尻尾が可愛くてずるいです」

 クルネはいつもクールなくせに可愛いものが好きらしい。そういえば、クルネの部屋にはぬいぐるみがいっぱい置いてあったような。

「そうですか? でも、このうさちゃん型の魔法ステッキは可愛いです。へへへ」


 ほんわかしたユフィーとクルネの会話をベッドの上で呆然と聞いていたシュカは俺に言った。


「あの、これ……」


 彼女は下着の中から俺のブローチを取り出すとこちらに寄越した。まさか、そっちにも隠していたとは……!


「欲しいならやる。その散らばった指輪もだ」

「そ……そう」


 シュカは呆然としたまま俺を見つめた。奪い奪われを続けていただろう彼女にとって無償で与えられるというのは初めてだったのかもしれない。


「さて、お前の妹を探しにいくぞ」






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