第11話 オークション無双
「妹のローミアは体が弱くおとなしい子でした。幼い頃に父と母を失った私たちは2人だけで生き延びてきました」
闇オークションへの行き道に、シュカは姉妹の出生と自身が盗賊になった理由を語ってくれた。幼い頃から盗みで生活を立てていた2人。
スラム街ではよくあることだったらしいが、ローミアはその美しさから人攫いに目をつけられてしまったらしい。
「そうか……それでお前はルーカスの家に?」
「えぇ、彼が強盗だと知ったのは私が忍び込んでからだけど。ろくに金もないようだったしね。何より、あの子を買い戻さなくちゃならなくて気が気でなかったのよ」
「教祖様が助けてくれるんです。もう大丈夫ですからね」
馬車の中、不安そうなシュカ。ユフィーはひたすら彼女をなだめ、クルネは俺の隣でソワソワしていた。
「クルネ、頼みがあるんだが」
俺はこっそり彼女に耳打ちをする。
「ですが、私は元傭兵。おそばにいなくて良いのですか?」
「あぁ、お前が元傭兵だから頼んでいるんだ。繋がりはあるだろう?」
「はい、まぁ。昔の傭兵仲間にはそちらに顔が効くものもいましたから」
「じゃあ、頼んだよ」
***
闇オークションの会場は平民街の路地裏にひっそりと立っている地下会場だった。俺はフードを被り、ユフィーとシュカを付き添い人として申請する。
「それでは、13番があなたのお名前になりますので。入札の際はその札を掲げてください」
13番という不吉な数字をもらいつつも会場に足を踏み入れると、暗がりに紫色の照明がたかれ、前のステージは明るくとても見えやすい。ステージ端の司会席には怪しい笑顔をした背の高い男が立っていた。
「周りは娼館のやり手婆や奴隷商人のようですね」
ユフィーのいうように周りには明らかに娼館のやり手婆や奴隷商人らしき悪い顔をした大人が10人ほどいた。この場所は平民街の中でもスラム街に近いところなのでこういった闇オークションの中でも貴族向けではない場所なのかもしれない。
——となれば俺の独壇場だな。
「さて、レディースエンジェントルメン。ここは素晴らしいオークションへようこそ。今宵も素晴らしい女の子たちがやって参りますよ」
煌びやかな音楽と共に、①と書かれたプレートをつけた女の子がステージ脇から現れた。白いシンプルなノースリーブミニワンピースに素足。首輪を付けられていて、犬のように鎖を繋がれ歩かされる。
「彼女は平民出身の15歳。人間で魔法の才能もあります。では、5000ゴールドから即決10万ゴールドで。開始!」
カンと司会の男が木槌で音を鳴らす。
その瞬間、俺は札を上げた。
「4番の方」
「5500ゴールド」
「それ以上の方〜」
「1万ゴールド」
「おや、いくつか札が下がりましたねぇ。13番の方どうぞ」
「10万ゴールド。すぐにこちらへ」
会場がどよめく。
司会は嬉しそうに手を叩くとステージにいた女の子をこちらへと寄越した。それと交換で10万ゴールドを即金で手渡す。
「ユフィー、彼女を外の馬車へ」
「はい、教祖様。君、おいでこっちよ」
ブルブル震える女の子を連れてソフィーが一度外へ出ると、シュカがたまらず耳打ちをする。
「ちょっと、あの子はローミアじゃないわ」
「わかってる。けど、買う。それだけだ」
「ではお次! 人間の17歳。メイド経験あり。1万ゴールドから即決15万ゴールド」
木槌が鳴らされた瞬間、俺はすぐに札を上げ、即決価格を口にする。少女はすぐにソフィーによって安全な馬車へと運ばれ、次も次も俺が即決価格で落札していく。あまりの即決に周りの客は文句を垂れているが、主催の方は味をしめたのか即決価格が徐々に上がっていく。
もう5人ほど即決購入したところで、シュカが「あの子よ」と興奮気味に言った。
「お次はかなりの上玉! 人間の16歳。珍しいオッドアイの持ち主」
連れてこられたローミアは今までの少女たちとは格段に違った美しさを持っていた。体が弱いせいか儚さを持ったような美人だ。
そして、司会の男はにやにやと悪い笑顔を浮かべている。おそらく、この辺で俺からさらに巻き上げるための仕込みでも雇ったのだろう。
「5万ゴールドから、即決はなんと100万ゴールド!」
そう言った瞬間、他の客たちが怒り出した。
「おい! 高すぎるだろ! その子にそれだけの価値があるんだろうな?」
「たかだか平民の子供がどうしてそんなに? 舐めるんじゃないよ!」
「おやおや、これだけ美しい初物の少女に価値がないとでも? 金がないものの戯言は我々には通用しませんぞ。さ、開始!」
俺は迷わず札をあげる。
「即決価格、100万ゴールドだ」
「ちょっと待った、こちらも100万ゴールドだそう」
やはり、俺の目論見通り店のサクラが同値を張ってきやがった。
「それでは、お二人でさらにオークションをしていただきましょう。開始は100万ゴールド、即決価格は……500万ゴールド!」
会場が一気にざわつくとサクラの男が「110万ゴールド」と札を上げた。こちらではシュカが慌てた様子で俺の腕を握る。
「即決、500万ゴールドだ。そうだ、もうこれ以上馬鹿な争いはしたくないのでね。1000万ゴールドだそうじゃないか。それで、もう決定してくれるかね?」
俺の言葉に司会者は首を大きく振ると、ローミアをこちらへ寄越した。シュカはローミアを抱きしめ泣き出すとユフィーがこちらを向いて頷いた。
「では、13番の旦那。お支払いを。」
「支払い?」
「えぇ、人攫いの闇オークションに払う金なんてないね」
「貴様!」
裏からガタイのいい男たちがやってきて斧や剣を担ぎこちらへ滲みよってくる。それと同時に客が逃げだそうと会場の出口へと向かうが……
「保安局だ! 全員動くな!」
と国営保安局がクルネと一緒になだれ込んできて、四方八方に拘束魔法を発射する。俺はシュカとローミアにそれが当たらないように防除魔法を展開しつつ2人を庇うように立ち回る。全員が拘束されると、クルネがこちらへ駆け寄ってきて
「もう大丈夫です」
と俺に伝えた。最高の作戦成功に喜んだ俺だったが、クルネの後ろで俺に感謝を伝えた保安局の人物を見て非常に嫌な予感を感じた。
「この度は、違法オークションの摘発にご協力いただきありがとうございます。私、保安局・局長補佐のジョハンナ・ランザと申しますわ。ダヴィド・イーゴ様、及びマゴアダヴィド教に最大限の感謝を」
そう、彼女はジョハンナ・ランザ。王国の騎士で最終盤に主人公パーティーに加わるシークレットキャラクターなのだ。一定の条件を満たすと王様から預けられるキャラで非常に性能も良く容姿も良い。そして、俺が処刑されるときに俺を逮捕するのも彼女だったはず、それが主人公とジョハンナの出会い。
まさか、クルネが知り合いだと言ったのがゲームの主要人物だったなんて。
——大丈夫、関わらなければいいのだから
「さて、シュカ、ローミア。帰ろうか」
こうして、屋敷にメイドが2人仲間入りしたのだった。
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