第9話 メイド候補発見!


 貴族街から平民街に戻る最中、貴族の中でも下級貴族と思われる屋敷の前で何やら揉めている人たちがいた。


「役立たずめ! 出ていけ!」


 屋敷の門外に放り出されたメイドらしき女性と、偉そうにしている貴族風の男。メイドらしき女性は泣いている。

 まるでゲームのイベントのごとく彼らが動かないので俺は仕方なく話しかけてみることにした。


「おい、何をしてる?」

「なんだ、貴様」

 下級貴族風の男は安い黄色の金髪をかきあげて俺を睨みつける。

「俺は、ダヴィド・イーゴだが?」

 下級貴族風の男はその名前をきいて一気に青ざめると小便を漏らしそうな細い声で

「申し訳ございません、イーゴ家の方だとはわからず舐めた口を。お目汚し失礼いたしました」

 と深々と頭を下げた。欧米風の人間にこうも深々と頭を下げられると違和感を感じるがこのゲームは日本産、彼らも日本人的な考えに組まれているのかもしれない。

「君、名前は」

「僕は、ルーカス・コゴルドアと申します。我がコゴルドア家はイーゴ家とは関わりなどもてないほどの下級貴族、お許しください」


 そういえば、主人公が貴族街に入れるようになる時に、入り口にいたモブはこのルーカスくんじゃなかったか?

 たしか「貴族街は奥に行けば行くほど上級なんだ」と説明してくれる態度の悪い……あと、何か重要なことを言っていたような。


「時にルーカス。貴族ともあろうものが、女に手をあげるのはスマートかね?」

 

 俺は転がっていたメイドさんに手を貸した時に見えた青あざを指差した。


「私が失敗をしてしまい……」


 メイドの子は涙を堪えながらもルーカスを庇うように発言をする。クルネやユフィーとは違って、地味なブルネットヘアに茶色の瞳。完全にモブだろう。

 けれど、なかなかの美人だしスタイルもいい。なにより、暴力を振るわれても主人を庇う心意気はさすがはメイド、奉仕するホスピタリティの高さが窺える。

 その上、黒に白レースというベーシックなミニスカートメイド服は露出こそ少ないものの非常に魅力的だ。


「イーゴ様、申し訳ございません。今後はこのようなことがないよう」

「ルーカス、今このメイドに『出ていけ』と言ったな。それは雇用をやめるということか?」

「えっ、あ、ハイ」

「では、お嬢さん。お名前は?」

 メイドは俺の手を離すと、スカートを広げて挨拶をする。

「シュカと申します。下級平民の出身ですのでラストネームはございません。ルーカス様にお命を拾われて以来、ずっと尽くしてきました。ここを解雇になれば野垂れ死ぬか娼館に行くしか……」

 俺はシュカというメイドに違和感を覚えながらも、隣にいたユフィーに目配せをする。

 ユフィーは、過激なバニースーツの上からいつものローブを羽織っていてやけに緊張しているが、信徒候補を見つけるや否や目を輝かせた。


「私が怪我を治して差し上げます。シュカさん」

「あ、ありがとう」

「今ちょうど、メイドを探していてね。うちに来るといい。ルーカス、それでいいな」

「は、はい! ぜひ、ぜひ〜!」


 ルーカスが屋敷へと入っていく時、チラリとシュカと目配せをしたのを俺は見逃さなかった。

 そして、あのルーカスがゲーム内で発言していたことを俺は思い出した。



***


「クルネさーん!」


 待ち合わせ場所の平民街で俺たち3人とクルネはやっと落ち合うことができた。ゲーム上の3Dで地図は覚えているはずだったのに、意外と自分が降り立ってみるとわからないものだ。


「あっ、みなさん。ちゃんとクエスト募集掲示板に貼って参りましたよ。きっと明日からジャンジャンお困りごとが集まるかと」


 クルネは嬉しそうに微笑むと「早く戦いたい」と言った。ユフィーはそれに苦笑いしつつシュカを彼女に紹介する。


「シュカと申します。よろしくお願いします」

「クルネです。傭兵……じゃなかった。元傭兵で今は信徒の1人としてダヴィド様の護衛をしています。よろしく」

 2人が握手をした時、クルネがピクっと眉を動かし「あなた……」と何か言いかけたが、シュカがそれを遮るように

「あの、お屋敷はどちらに?」

 と俺に聞く。

「あぁ、まだ料理人が見つかってないからどこかで食べてから帰ろうかと。みんなもそれでいいかな?」


 全員賛成で俺たちは貴族街へと戻り、高級レストランへと入店した。イーゴ家はかなり上級貴族らしく店員たちも俺をみるなり緊張した様子で一番奥のVIPルームに席を作り、震えた様子でメニュー表を渡してきた。

 白いクロスの高級な丸テーブル、グラスとカトラリーはどれも銀の高級品だ。


 ぶどう酒にステーキ、美味しそうなサラダにスープ。コース料理ではなく一気に出してもらって俺たちは乾杯をした。

 パンをちぎってオニオンチーズスープにつけて食べたり、大きなステーキを切って口に入れればじゅわっと肉汁が広がる。

「シュカさんも食べてくださいね、わが教団は皆平等。ねっ、教祖様」

 ユフィーはシュカの皿にステーキを切り分けて置き、そのうえグラスにたっぷりのぶどう酒を注いだ。

「あぁ、新しい仲間に乾杯」


「ところで、教祖様。ユフィーは料理人の他にもう1人欲しい人材がいるんです」

 ほろよいになったユフィーは赤くなった頬を抑えつつ、俺に視線を向ける。

「ほぉ、他にどんなメンバーが?」

「仕立て師です。やっぱり、おしゃれとかしたいでしょう? 我々の役目として教祖様を喜ばせることも一つありますし。可愛くて色っぽいお洋服を仕立ててくれる子がいたら素敵じゃありませんか」

「まぁ、そのうちな」

「教祖様もそのお指の指輪にふわさしい豪勢なローブを作りましょう?」

 俺の指に輝くいくつかの指輪にはゴテゴテと宝石が嵌められていて、いかにも「悪役貴族」と言った感じだ。

「まぁ、料理人が先かな」


 うまい酒に美味い飯。

 そういえば、このゲーム。3度目のリメイクでは完全3Dになって「飯テロゲー」な一面も見せていたっけ。俺が好きなのは初代ドットだけど、こればかりはリメイクに感謝。






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