第46話 聖女仲間になる



「教祖様、おはようございます」


 ユフィーの声に目を覚ますと、俺は体にブランケットがかけられていることに気がついた。誰かがかけてくれていたらしい。


「おはよう」


「さ、噴水広場の炊き出しに行きましょう。ローミアさんたちがお食事を。さっ、早く、早く」


「お、おおう」


 なんだか嬉しそうにユフィーに連れられて城を出て町の噴水広場に向かう。するとそこにはトッカンの炊き出し所が完成していて、ロヨータ村のみんなやシュカ、ローミアがせっせと食事を振る舞っていた。


その近く、これまたトッカンの治療所には多くの患者が並び治療を受けている。そこには流水や氷を生成したり、薬草を塗ってあげる雪女のメイド2人がいた。その端っこではジョハンナの妹カーナとグリコがせっせと薬草を育てている。


「あら、遅かったですわね。メイドちゃんたちのおかげで町中の消火は終わって……やっぱり、上級モンスターの魔力はすごいですわ」


 アシュレイは恨めしそうにメイドたちを見つつ、腰に手を当ててため息をついた。


「そう……だな。少し状況も落ち着いたようだな」


「えぇ、そうね。怪我人や死人は多いけれど市民たちは落ち着いていますわ。それもこれも……」


 アシュレイの視線の先を見て俺は驚いた。

 怪我人たちが長い列をなしている治療所の先に、優しい慈愛の微笑みを携えた彼女が座っていたのだ。


「聖女様……聖女様」

「大丈夫、さぁ炊き出しで食事をお受け取りくださいね。薬草はこまめに塗ってください。女神様のご慈悲を……」

「ありがとうございます。聖女様」


 アマリスは列をなしている市民一人一人の手を握り、励まし、祈っていた。昨夜まで混乱や恐怖、悲しみや憎しみに溢れていたのに、それを彼女が少しずつ収めていく。


「聖女様、力はなくてもできることがしたいと言って昨晩からずっとあそこに。やっぱり聖女様はすごいです。わたしたちではできなかったこと……市民たちを安心させることあんなにすんなりやってしまわれるのですから」


 ユフィーは俺にスープとパンを寄越し隣に腰を下ろした。


「すんなり……ではないかもな」


「えっ?」


「いや、なんでもない」


 その時、アマリスと目があった。彼女は俺を見つめて優しく瞬きをするとすぐに次の患者の手を握った。あぁ、あの人はなんて綺麗なんだ。


***



「皆さん、ありがとうございました。皆さんのおかげで少しずつですが国は回復しています」


「グリコも?」


「えぇ、グリコちゃんのおかげです」


「フンスッ」


 ヴェルナに褒められて誇らしげなグリコは胸を張った。俺たちが間を繋いだ時間に保安局が各所に協力を依頼し提携国からの応援がやっと到着したのだ。豊富な物資と食糧、それから人材。町の復興にまで手をつけられるようになった。


「マゴアダヴィド教の皆様に最大の感謝を」


 ヴェルナの隣にいたアマリスが俺の方に寄ってきて俺の手を握った。


「ダヴィドさん。貴方に叱咤されてやっと目を覚ませました。聖なる力がなくても、魔力がなくても私は聖女として……お役目を果たすことができたのです。市民を安心させ、行くべき方向を示すこと。私は……私は」


 泣き出してしまったアマリスはなんとかいい終えるとそっと俺の手を離す。その瞳は少しだけ力が宿り、自信を取り戻していた。


「さて、俺たちは魔王ファイアーと漆黒のドラゴンを倒すために孤島へ向かいます」


「勝算は?」


「あり……ます」


 もしも、ゲームと同じであれば。俺は魔王と漆黒のドラゴンの倒し方を熟知しているのだ。漆黒のドラゴンを倒して聖女の力を取り戻し、アマリスの力を得た仲間たちの攻撃は魔王に特攻。正直、ドラゴンだけが最難関なのだが……、俺たちにはグリコがいる。


 グリコは裏ボスの1匹で無論、メインストーリーの漆黒ドラゴンよりも強い。その上、グリコは俺の魔力を毎日吸収している上に一度死にかけているのでゲーム内でいうレベルも高いものになっているはずだ。


「私も、同行させてください。力はないけれどそれでもお役に立ちたいのです」


 アマリスはゲーム内と同じセリフを言った。俺はイベント踏めたことを安心していると……


「ダヴィドさん。もしも魔王を倒して私の力が戻ったら……私をマゴアダヴィド教に入信させてください」


 そう言ってアマリスは可憐に微笑むと俺の頬にチークキスをした。


「ええ、わかりました」


 こうして、聖女アマリスは俺たちのパーティーに同行することとなったのだ。


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