最終章 悪役教祖と主人公
第48話 魔王と対峙
魔王城の中のモンスターを俺たちは赤子の手をひねるように倒していった。馬鹿でかい牙と爪を持ったサーベルドライオンも、大きな棍棒と一撃必殺が恐ろしいデストロールンも、聖女の力のバフでほとんどワンパンだった。
「いよいよ、ですね」
クルネが武者震いする。アシュレイもシズカもユフィーも同じく手を震わせじっと目の前の大きな扉を見つめた。
「グリコ、いざとなったら脱出の準備を」
「わかってるよ、僕すぐに変身できるようにしておく」
「じゃあ、いくぞ」
魔王の間への扉を開けると、そこには大きな空間が待ち構えていた。ちょうど中央には玉座があり、そこには1人の少年が座っていた。
「待っていたぞ、聖女アマリス」
その声はまだ若く、幼い。真っ赤な髪に中性的な顔立ちそれに似合わないゴツゴツした趣味の悪い黒と紫のコート。金色のアクセサリーをジャラジャラと身につけ、髑髏をかたどった杖からは紫色のオーラが出ている。
「魔王ファイアー! 貴方を許しません!」
アマリスの声にファイアーはクスッと笑うと
「ダヴィド様、早く攻撃を! うっ?」
クルネに言われて、俺は気がついた。クルネはガタガタと震える。おかしい、なんだこれは。
——体が動かない?
「さて、君たちには用はなくてね。さようなら」
そういうと体の動かない俺たちに……俺以外にファイアーは移動呪文をかけた。悲鳴を上げながら仲間たちは散り散りになっていく。
「貴様!」
「転生の話は……他者に聞かれてはならない。これが、俺と悪魔との契約なんだよ。2代目ダヴィドくん」
ファイアーはにんまりと口角を上げると俺に歩み寄って、俺の腕を掴み乱暴に捻った。
「がっ……」
嫌な音がして利き腕が多分折れた。ひどい痛みと違和感で転げ回る。
「あぁ、やっとこの時が来たんだ。ずっとずっと、君が最大まで力を蓄えてここにくるのを待っていたんだ。君の動きは実に早く効率的で最高だったよ。ハハハ」
「お前……妹はどうした」
「妹? あぁ、馬鹿な転生者のあの子かい? 俺が『さっさと魔王を倒してゆっくりすごそう』と言葉巧みに洗脳してやった。悪魔はすごいね、本当にこの世界を知る転生者を寄越したんだから。俺が知るはずもないドラゴンの居場所や魔王ネルノスの弱点、とかな。だから用済みになったので殺したよ」
「外道め……」
「外道? あの女にも何度も殺されたんだ。何度も、何度も、何度も、何度もだ!」
ファイアーは突然、憎しみに満ちた表情になってガンガンと杖で床を叩いた。
「お前……いったいなんの目的で……」
「察しが悪いな。俺は、お前だよ。ダヴィド・イーゴ。いいや、俺こそが本物のダヴィド・イーゴ。お前は、俺が悪魔と契約をして別の世界から呼び寄せたそこそこ優秀な転生者だ」
俺がこの世界に転生してきた時、おかしいと思ったんだ。
赤ん坊に生まれたわけでも、前世の俺のまま転移したわけじゃなかった。既に生きているキャラの中に突然意志が目覚めたんだから。
では、さっきまでのダヴィドはどこに? その疑問がずっとずっと解けないままだった。
本物のダヴィド・イーゴが悪魔と契約をして主人公の体に入り込んだ。そして、俺ともう1人の転生者を召喚し一方を主人公の妹に、もう一方をダヴィド・イーゴの体に。
本物のダヴィドはファイアーの中に入り込み、俺ともう1人の転生者を利用して本物のダヴィド・イーゴが世界征服という野望を成し遂げるために着々と準備を進めていたのだ。
「くそっ……」
「マゴアダヴィド教を布教してくれてありがとう。もう1人のダヴィド」
「俺を……どうする気だ」
ファイアー……ではなくファイアーの殻を被った本物のダヴィド・イーゴがにんまりと口角を上げた。
「決まっているだろう。俺が慣れ親しんだ体に戻るんだ。そのためにはまず、この体に遅漏性の毒物を摂取し、勇者を亡き者にする」
ファイアーはポケットから取り出した小瓶を開け、中に入った何かを飲み干した。
「やめ……ろ」
「そして、この体の死と同時にお前の体の中に入るんだ。いや、元の体に戻るとでも言おうか」
ファイアーが杖を振ると倒れている俺の下に禍々しい魔法陣が出現する。
「おい、悪魔よ! 勇者を亡き者にしたぞ! 出てこい」
そう彼が叫ぶと、彼の後ろに歪んだ空間が出現しおぞましい何かが姿を現した。
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