第49話 悪魔との契約
「毒が回るまで時間があるから、少し話してやろう。私と悪魔について」
ファイアーは俺のそばに腰を下ろすと、動けない俺にニヤリと笑って見せると饒舌に語り出した。
「ある頃から、自分が悪夢を繰り返していることを知った。殺される夢だ。側近だったユフィーに裏切られ、気がつけば火刑になる。聖女たちのあのゴミをみるような目線と足先から炙られる苦しみ。何度も何度も繰り返しているような気がした。そんなある時、ここにいる次元の悪魔に出会った」
次元の悪魔……は紫色の塊で実態はない。ただ、おぞましい存在だとそれだけはわかった。そして、俺が動けないのもこの悪魔のせいだと理解した。
「この世界は同じループを繰り返す仮想世界だと。次元の悪魔と契約をし、この世界をそのループから切り離してもらったのだ」
「契約……だと?」
「あぁ、女神によって次元の世界に閉じ込められた彼を解放する代わりにだ」
「解放? もうされているじゃないか」
「解放とは自由に動き回れることではない。その魂に実態を与えることだ。その肉体はそこんじょそこらの血では足りない。そうだな、例えば魔王となった男と女神の血を引く聖女の子供……とかな」
「じゃあ、これはお前が魔王になるために全部……悪魔との契約でしたことだというのか?」
「あぁ、そうだ。実にスムーズだったよ。俺を殺すはずだったこのファイアーの魂は存在せず、簡単に入り込むことができた。その上、悪魔が読んだ転生者も優秀極まりない。あと数分で俺は完全な魔王になる。そして、聖女を……ずっとずっと欲しかったあの女を……マゴアダヴィド教の名を世界中に広めこの世界の王となるのだ!」
「それで……俺をファイアーは俺を殺さなかった」
「妹の方は殺そう殺そうとしていたがね。必死に止めたよ、何せ俺が本物のダヴィドだと知れたら彼女は毛嫌いをするだろうから」
「騙したのか……罪もない転生者を」
「騙した? 何をいうか。このファイアーのことが好きだと目の色を変えて協力いてくれたよ。ちょっと抱いてやればなんでもいうことを聞いた。人間とはいつだって簡単なものだ。性欲・食欲のどちらかで簡単に操れる。なぁ、君だってそうだろう?」
「俺は違う」
「そうかな? 教祖という立場の男を狙うものや食うに困っている人を君はたらし込んだ。そう、君の周りが女の子だけというのもその証拠さ」
「違う!」
「まぁいい。認めたくないんだね。あぁ、君が魔王ファイアーを倒したフリをして君が集めた女たちを全員に子供を産ませようか。君が築いたハーレムは本物である俺がいただく、ありがとう」
「くそ野郎……」
「なぁ次元の悪魔。お前の依代を産ませたらお前の天敵である聖女は殺してしまおうか。女神の血を悪魔の血で汚し2度と生まれないように殺すんだ」
次元の悪魔が笑ったように見えた。
その横で、ファイアーの顔色はどんどんと悪くなっていく。彼の命が消え掛けていくのと同時に俺の意識も薄くなる。
俺は死ぬのか……?
第1章で死ぬ悪役にしてやられて、死ぬのか?
「ああ、何千何万とした屈辱のループを……終わらせる時がきた!」
ファイアーが血を吐いた。
ぶしゃり、と俺にそれがかかる。
すまん、みんな。守ってやることができなかった。
俺の視界がだんだんと暗くなる。音も遠くなっていく。視界の向こう、微かに光が見えた。せせらぎの音と体を包む暖かい感触。
前世では「三途の川」なんて場所があると言われていた。死の間際、その川を渡ればあの世へ行く。俺は、死ぬんだろうか。
「次元の悪魔よ……さぁ、この転生者の魂を抜き我が体へ……返したまえ」
「俺はここに転生したんだ……死んでたまるか!」
最後の力を振り絞って叫んだ。と同時にファイアーが俺の隣に倒れてくる。
「ふっ、無駄だ。お前はこの世にいなかったものとなる。悪魔との契約で……すべてか終わるんだ」
「俺は……転生者だ。こんな運命信じてたまるものか!」
「無駄な足掻きよ……わかるだろう? 命の灯火が消えるのを、さぁ次元の悪魔よ。我が魂をこのものに転生したまえ」
ファイアーの声の後、次元の悪魔が口を開いた。
「それはできない。契約違反だ。ダヴィド・イーゴ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます