第4話 ◯◯な装備品(2)
「できました」
試着室の高価な赤いビロードのカーテンがガラリと開くと、そこには過激なビキニアーマーを身につけたクルネが恥ずかしそうに立っていた。
彼女は顔から鎖骨あたりまで真っ赤にして、腕を組んでこぼれそうな胸を隠し、長くてムチッとした脚は内股でモジモジさせている。
「魔法の素材でできているから、戦いの最中にズレたりはしないらしいぞ」
「うぅ……」
クルネは恥ずかしがりながらも、恥ずかしがっている自分に抵抗して腕をそっと胸から下ろした。
圧巻の極小ビキニアーマーを披露したところで彼女は小さな声で「欲しいです」と俺におねだりをする。
「装備した感じどうだ?」
「それが……まるで何もつけていないみたいに軽いのに魔力が溢れ出てくるように感じます」
肩紐の部分と腰の紐部分についている不思議な光を放っている真珠を指差して彼女は「これの力のようです」と言った。
「欲しいなら買うが」
「恥ずかしいけど……強くなれるのなら欲しいです。でも……その後ろが」
彼女は恥ずかしそうに自分の尻の方をみて顔をさらに赤らめた。何せこの過激なビキニアーマーはもちろんTである。
流石にマントがあるとは言え、街中を歩くのにTは俺も抵抗があるので
「では、天使のパレオを1枚追加で買おう。魔物を魅了する力は下がるが、街中ではこれをつけるといい」
白いレースのパレオを腰に巻いてやっと内股モゾモゾをやめたクルネは背筋を伸ばした。
胸派な俺はこういうところで恩を売っておきつつも、ブーツや兜(今回はティアラ)、手袋や装飾品もたんまりと購入した。
「そういえば、ご主人様は何を?」
いい加減極小ビキニアーマー(上)に慣れてきたのか彼女が、武器のショーケースを覗いていた俺に近寄ってくる。
圧巻の胸に驚きつつも俺は自分の適正武器について考えてみる。
序盤のボスであるダヴィド・イーゴは魔法型のボスで、主人公の魔法跳ね返し特殊アイテムで完封される仕様だった。
となれば、俺の得意は魔法系か。
「では、杖を」
「ご主人様は杖を?」
「まぁ、魔法で戦う方が得意だからかな。となると、早めにヒーラーが必要か……」
「ですね。ヒーラーはなかなか見つからないですし。とはいってもしばらくの間はこれだけの装備品があれば無傷で領地まで迎えるかと」
「そうだな……じゃあ一旦屋敷に戻ろうか」
見れば見るほど過激なビキニアーマーが刺激的すぎるので少し後悔しつつも、金を払って店を出る。
序盤で超強力装備。領地はこの大陸なのでモンスターのレベルもそこまで高くないので、つつがなく領地開拓を進行できるだろう。
「他に欲しいものは?」
「いえ、装備さえあれば他には」
帰り道、すこしだけクルネと距離が近くなったように思う。多分、相当金を使ってるから好感度が上がっているに違いない。
迎えの馬車に乗って扉が閉まる。向かい合わせに座って、目に入るのは極小ビキニアーマーの谷。ちょうど観覧車の中で向かい合っているくらいの距離でなんだかドキドキする。
「まぁ、領地の屋敷についてから、欲しいものは行商に運んで来させれば良いし。開拓が進んでうまく回り出したら、強固な壁と傭兵を雇えば……」
実際、領民を増やして運用がうまく回っていけば可能だ。とはいえ、それはずいぶん先の話になるだろう。
序盤は自分の死亡フラグを立てないためにもあまり多くの人と関わるのはやめたいからだ。
「傭兵は私だけで十分では……?」
そういったクルネの表情はどこか独占欲のようなものが浮かんでいるように見えた。クールな表情はほろっと崩れ、少しだけその瞳の力に熱がこもっているような気がする。
——これは……クーデレ⁈
「まぁ、うちの領地は広いからな。開拓がかなり進んでからの話だよ。なんだ、まだ1日も立っていないがそんなに気に入ったか?」
少し俺が揶揄うと、彼女はムッとしてそっぽを向いた。
「この仕事は身入りが良いので、ただそれだけです。傭兵はお金さえ頂ければなんだってします。特に私情はありません」
「じゃあ、もっと身入りがよくなったら夜も……?」
かぁぁっと顔と耳を赤くして、胸を隠すように組むと
「それはっ……」
と言葉に詰まった。
「なんだってしてくれるんだろう?」
「んなっ……」
真面目な彼女が「わかりました」と変な覚悟を決める前に、俺は
「冗談さ、とにかく戦い方に期待をしている」
と笑って見せた。
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