第5話 主要人物(推し)がやってきた件
「では、領地のお屋敷の設計図につきまして承りました。人員を最大限駆使し迅速に進めてまいります」
「あぁ、頼んだよ」
いつもお世話になっていたらしい建築業者に頼んで領地の屋敷を立て直してもらうことになった。ゲームの中では建築なんて要素はなかったし、そういう職業についている人が出てくることはなかったので心配していたが、しっかりと存在していたらしい。
「1週間ほどで完成か。ずいぶんと早いな」
どうやら、労働基準法なんかはないらしい。昼夜問わずに働かないとあの広い屋敷を立て直すなんて無理なのでは?
いや、魔法が存在する世界なので割と効率的なのかもしれない。地震とかもないのか? 考えても解決はしないので俺は一旦思考を停止させる。
「ご主人様」
「あのさ、クルネ。その呼び方やめない?」
「やめない? と言われましても……それではなんとお呼びすれば?」
傭兵と雇い主の関係でなんと呼べばいいか、なんて質問されるとなかなかに難しい。俺としてはもっとフランクな感じでもいいのだけど、クルネの感じを見てるとこの世界ではそうでもないらしい。
ゴリゴリの階級社会でスラム街なんかもあって、確かゲーム内でも貴族が平民を差別するような描写があった。
「普通に名前呼びで」
「ダヴィド様?」
「それでいい、あと部屋の中では普通にローブ着ろ。流石に気が散る」
「はい……」
クルネに俺用の白いローブを渡すと、彼女は少し恥ずかしそうにそれを羽織った。超セクシーな過激なビキニアーマーも1日で見慣れてしまい、チラリズム的なセクシーさの方が良いことに気がついた。
あと、クルネがあまり恥ずかしがらなくなったのも大きな点だ。
「ダヴィド様、私は何をすれば?」
「うーん、領地の屋敷が完成するまでやることは特にないよな」
「ですが、お給金は出るのですよね?」
「出るぞ、今は日払いだがまとめて払おうか。業務に関わることで欲しいものがあれば買うが……」
「いえ、そうではなく。なんというか、何もしてないのにお金をいただくのが……」
そういうとクルネはしおらしく目を伏せる。
そう言えば、前の世界にいた時に「人間は対価のない褒美を与えられ続けると気が狂う」という話を聞いたことがある。
今、俺がクルネに対してやっていることはそういうことなのかもしれない。真面目な彼女だから尚更気にしているらしい。
「と言われても、やることはないぞ。家のことは使用人たちがやっているし。万が一、強盗なんかが入って来れば戦ってもらうことになるくらいか?」
「ですが、門番さんがいましたでしょう?」
「あぁ、そうだな……。でも、できることはないんだよなぁ。とりあえず、俺の茶の相手でもするか?」
手を叩くと執事がクルネの分まで紅茶とクッキーを運んでくる。
「お茶の相手……ですか」
「他にあるか?」
「たとえば……ですけれど」
「はぁ……」
何を言い出すのかと思いきや、クルネは先ほど羽織ったばかりのローブをはらりと床に落とすと、立ち上がって俺の前にひざまづく。
「女の傭兵はその……そういうコトもできるようになるべきだと。ミスタークレイブさんがおっしゃってました。私は初めてですので……その練習をと。ダヴィド様さえ良ければその」
クルネは俺の手を強引に掴むと自分の胸へと押し当てる。
ずっしりしつつも柔らかで暖かい。それ以上に、彼女の表情がとてもセクシーだった。色々な感情が重なって少し震えていて、けれど快感に抗うようにぎゅっと眉間に皺を寄せている。
「触って……いただけますか?」
俺が指に力を入れようとした時だった。
——コンコン
「ひゃっ!」
突然のノックに驚いたクルネは飛び上がり、俺から離れた。
「ダヴィド様、ユフィー様がいらしております」
「失礼します」
ユフィーという少女は俺を見つけるとパッと咲いたような笑顔になった。桃色の長い髪には見覚えがある。
彼女は序盤のボスである俺こと「ダヴィド教祖」から助け出される主人公パーティーメンバーの1人、ユフィーだ。
ユフィーは回復魔法が得意な僧侶タイプで序盤はかなり重宝するキャラクターだ。後々にシスターなどが仲間になるため、あまり後半で使われることはないが……。
「ダヴィド様。お願いです。マゴアダヴィド教を解散などと言わないでくださいまし」
「いや、悪いが俺はこの後自分の家の領地の開拓をすることにしたんだ。申し訳ない。やっぱり、魔王なんかを信仰するなんておかしいと思うんだよな」
「信仰する先はどうだってよいじゃないですか。ユフィーや他の信者には拠り所が必要なのです」
ユフィーは俺の手をぐっと掴むとうるうるしたうさぎみたいな瞳で見つめた。ユフィーは性能としては弱いものの、キャラの人気は高いんだよな……。
3次元でみるとその美しさはかなり際立っている。
「そういわれてもなぁ……」
「これ、ダヴィド様がいなくなった後に教団宛に王宮から届いたんですよ!」
「は?」
俺は、あの教団を解散した日のことを思い出す。
——恵まれない子供にでも寄付しなさい
「恵まれない子どもたちへの多大なる寄付に感謝する。王国としてもこのような行いは改めて評価しなければならないと……」
ユフィーは王宮からの感謝状を読み上げると元気に言った。
「その開拓した領地とやらで魔王さん以外を信仰するマゴアダヴィド教を始めればいいじゃないですか。私と、2人で!」
圧倒的ヒロイン力を感じつつ、俺は教団そのものを無かったことにするよりも思いっきり善行する教団を運営してしまう方っが死亡フラグを解消できるのではないか? という考えに至った。
「まぁ、考えておくよ。今はまだ準備中だ。それに、教団のメンツも一新しようと思っていてね。俺と君、それから傭兵のクルネがまずの団員ってことで」
さすがに(ハーレムにしたい)とは言わずに濁すが……もしかすると、もしかするかもしれないぞ。
それにユフィーは序盤では活躍するものの、後半はほとんど活躍しないので主人公パーティーにいなくても問題ないだろう。
——何より、俺の推しだし。
「それじゃあ、またよろしくお願いしますねっ。私の教祖様っ」
嬉しそうに飛びついてきたユフィーを抱き止めて俺は頷いた。
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