第6話 新居完成


「おぉ! すごい広い!」


 領地の真ん中に位置する大きな屋敷に俺たちは到着した。2階建の大きなお屋敷はちょっとした宮殿くらい豪華だ。さすがは王道ファンタジーRPGの世界観。


「ダヴィド様、私は周辺のモンスターの調査と退治をしてきます」

「了解、死骸は一箇所に集めておいてくれ。俺が処理するから」

「ありがとうございます」


 クルネは久々の戦闘に目を輝かせながら剣を持つと屋敷周辺の草陰や岩裏などのモンスターを次々と討伐していく。

 

「クルネさんはお強いですねぇ。教祖様、私たちはいかがなさいましょう?」

 ユフィーは大きな屋敷を前に期待に満ちた表情で言った。

「うーん、まぁしばらくは3人で過ごすことになるだろうし、ちょいちょい暮らしやすいようにしていくかな。一応、教団として寄付を集めるのはもっと上手く回ってからで」

 ユフィーは「うーん」と不満そうに首を傾げる。

「ですが、王宮からの感謝状も出ているんですよ。もっと大々的に活動をしてもいいと思います!」

 元気・健気・可愛い。やっぱり生ユフィーはいい。死亡フラグの危険を冒してでも一緒いる価値がある。

「まぁ、そうだな。女神様に誓って弱きものに手を差し伸べなければ」

「さすがは教祖様。その意気です!」

「とはいえ、俺たちの生活をまずは安定させないと」

「あの、教祖様。いい案があるのですが、良いですか?」

「おぉ、なんだ?」


 ユフィーは俺の方に近寄ると背伸びをする。俺は彼女に合わせて少しかがむと、彼女は俺に耳打ちをする。


「この屋敷で働く人は全て信徒にするんです。街で困っている子を探して住む場所を与える。一石二鳥ってやつです! それでどんどん教団を大きくして世界中の困っている人を救いましょう!」

「なぜ耳打ち」

「なんとなくです」

 楽しそうな彼女を見て俺はふと思った。


——ユフィーはどうして俺の教団に入っていたんだろう?


 ゲームの中で彼女は「教団から助け出される女の子」という役回りである。ユフィーが仲間になる頃には教団のほとんどがモンスターになっていて、彼女は唯一の人間……。けれど、そうなる前は彼女も信者だったことを考えるとやはり理由があって俺についてきているんだろう。


 俺ことダヴィド・イーゴはゲームの中では序盤のボス。いわゆる噛ませ的な役割で、物語の中で掘り下げられることのないようなクズキャラだ。

 だから、情報が少なすぎる。


「ユフィーはどうしてそんなに教団に熱心なんだ?」

「それは、教祖様が私の命の恩人であり一生お側にいると誓ったからです」

 推しからの唐突なプロポーズ的発言にドキマギする俺。

「そ、そうか」

「あの日、モンスターに襲われていたユフィーを教祖様が助けてくれたからユフィーは今もここに立っていられるのです。だから、教祖様のためなら私、なんだって」

 裏設定なのかゲームシナリオ上の設定なのかはわからないが、ユフィーが教団にいたという理由づけがあるらしい。

 さすらば、この好感度の高さは納得がいく。


「でも、どうして魔王様じゃなくなったんですかね? 魔王様は素晴らしい人だって言ってたのに」

「あはは、それはだな……」

 なるほど、うまいこと騙していたわけってことか。

「女神様の方がいいんでしょうか?」

「あぁ、魔王ってのはモンスターを生み出すよくないやつだと気がついたからな。さて、話はその辺にして食事の準備でもさせるか。使用人を……」

「私がやります。教祖様は座っていてくださいな。ね? ユフィーは美味しいご飯を作るのも得意なんですよ!」

 正直、使用人を大量に雇ってコックやバリスタ、ソムリエなんかを雇いたいところだが……ここは推しの意見を聞くか。

 それに、ハーレムを作るなら先ほどユフィーの言っていた「この屋敷で働く人は全て信徒にするんです。街で困っている子を探して住む場所を与える」というのが結構合理的な気がする。


「ユフィー、明日俺は街へ戻ってメイドができるような信徒を探しに行こうと思うよ」


 RPGの世界。何かしらに困っている人はいるんじゃないか。という俺の予想であるが、主人公が動き出す前に手っ取り早くハーレムのメンバーを集めてしまいたい気持ちが強い。


「ダヴィド様、屋敷付近のモンスターはあらかた倒しました。死骸の焼却を!」


 モンスター退治から戻ってきたクルネは久々に天使のパレオを外した過激なビキニアーマー姿で俺に手を振った。彼女が動くたびに色々揺れるし、後ろがなんとも刺激的である。


「すげぇ倒したな」

「はい、買っていただいた武器が強くてつい倒してしまいました」

 褒めて欲しいのか彼女は俺をじっと見つめる。

「ありがとう、よくやった」

 そういうと彼女のクールな表情が少し綻び、照れ隠しなのか身を捩らせた。動くたびに色気がほとばしるので俺は気にしないようにしつつ、モンスターの死骸に向かって杖を一振り。


 たった一振り。呪文の詠唱もなしに。


 火柱が天高く上がると轟々と燃え上がる。自分でもあまりの魔力に驚いて一瞬で魔力の放出をやめた。


「ダヴィド様……? 最上級火炎魔法ゴッドファイアーを習得なさっているのですかっ!」


 戦闘狂気質があるのかクルネは興奮気味に俺に近寄って目を輝かせる。俺自身は全く魔力を使ってやろうなんて思ってないし、ちょっとした火の魔法を使ったつもりだったが……。


「そうみたいだ……」

「私にも教えてください、すごい……初めて見たわ」

「まぁ、この杖が良かったのもあるし」


「見ましたよ! 教祖様!」


 屋敷の方からかけてきたユフィーは何やら野心いっぱいの瞳を俺に向ける。


「さすがは教祖様。お強いです、かっこいいです。あぁ、やっぱりマゴアダヴィド教の教祖様は誰よりも素晴らしいわ。絶対に、慈善活動に使うべきです。困っている人を助けて、モンスターを倒して……」

「そうですよ。ダヴィド様。これからドラゴンを倒すのも夢じゃないかも……あぁ、私なんだか体が熱く」

 クルネは興奮して体を熱らせていたし、ユフィーは嬉しそうに俺に抱きついた。


 なんだか、のんびり領地開拓する予定が慌ただしくなりそうだぞ。


 けど、ハーレムだしいいか。


 俺は身体中に感じる女の子のいい匂いと柔らかさを堪能しながら、死亡フラグを無事へし折ってニヤニヤするのだった。




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