第3話 ◯◯な装備品(1)


「では、本日よりよろしくお願いいたします」

「まぁ、硬くならずに。適当に座っていてくれ」


 クルネは言葉通り部屋の椅子に座ると緊張した様子で俺をチラッと見つめた。


「まだ、今執事に君の部屋を用意させているから安心しろ」

「えっ」

 なぜか驚くクルネ。

「なぜ驚く?」

「いえ、てっきり傭兵以外のことに私を雇ったのかと」

「そうしたいならそうするけど」

「えっ……えっ、それは」


 墓穴を自分で掘っておいて、真っ赤になるクルネに萌えつつもまずは信頼できるパートナーを作るのが目的なのであくまでも真摯に対応をすることにしよう。


「さて、俺のひとまずの目的は放置している領地を開拓することだ。まぁその後領民は集めようかと」

「領民がいないのですか」

「まぁ、そうだな。ほとんどが山と荒地だが、うちの屋敷が建ってるからそれをしばらくは拠点にするつもりだ」

「それで、傭兵を。確かに荒地と山を開拓するのであればモンスターも出ますしお役に立てるかと」


 クルネは真剣な表情でそういうと、地図をみつつ「広い領地ですね」とつぶやいた。我が家の領地は広大な分、山が多かったりほとんどが荒地だったりする。この辺の領地に関してはゲーム内であまり言及がなかったせいか、設定がされていないのか謎である。

 ちなみに俺も「貴族」という設定だけでいわゆる伯爵・男爵みたいな爵位も付いていない。あまり物語には関係ない部分だから詳細はないのかもしれない。


「さて、出かけるか」

「えっ、もう出発するのですか?」

「いいや、君の装備品を買いに行く」


 クルネの今の装備は、際どいビキニアーマーを身につけている。確か、初期の女キャラの装備「ふつうのビキニアーマー」である。


「これは、この街で買える最高装備ですが……」


 FGGプレイヤーの俺は知っている。クルネのいう通り、戦士系の女子キャラ装備をこの街で買うのであれば彼女が身につけているものが一番防御力が高い。

 しかし、それは「序盤」の場合だけの話。

 スラム街出身の主人公は、この街では平民街までしか入ることが許されずより高級で強い武器防具が売っている貴族街の店には立ち寄れないのだ。

 物語の終盤になると主人公の名声が高まって入店できるようになるが……今の俺の身分では入れるはず。


「貴族街の装備店には?」


 クルネは驚いて口を抑えると次第に頬が緩んでいく。どうやら必死に隠そうとしているが嬉しいらしい。

 それもそのはず、ゲームの中では「最高級店」と表示されていたしこの街の戦士系の人たちにとっては憧れの店なのだ。


「さ、いくぞ」



***


 貴族街の路地裏にひっそりと佇んでいる装備店の前には門番が立っていて初期の主人公は入ることがでない。

 だが、俺は別だ。ダヴィド・イーゴは貴族街の中でも顔が効くらしく当然のごとく入ることができた。


「おぉ! すごい」


 クルネは店の中に入ると目を輝かせて剣やら防具やらを眺めている。ついさっきまではクールを装っていたくせに素直な奴だ。

 けれど、クルネに装備して欲しいのはゴツゴツした分厚い鎧でも、ドラゴンの皮をなめして作ったローブでもない。


 この店には最強の女戦士用の装備があるんだ!

 その値段、10万ゴールド。ゲームの中ではお遊び要素的な感覚で2周目の人がお遊びで楽しむためのものだ。


「ちょっといいかな」

「いらっしゃい」

「例のアレを頼む」

「合言葉は?」

 

 俺はあまりにもゲーム通りの言動に非常にドキドキしながら合言葉「ブルームーン」と答える。

 これはゲームの終盤でとある本棚に置いてある日記を読むとヒントが書いてあるが……俺は知っているのだ。


 執事風老紳士な店員は「かしこまりました」というとカウンターの奥に入って行って、少しすると戻ってきた。


「こちら『過激なビキニアーマー』でございます」


 過激なビキニアーマーはその名の通りかなり過激なデザインのビキニアーマーである。現代でいうとマイクロビキニがそれに近いだろう。


「これを……着るのですか」

「あぁ、この過激なビキニアーマーは10万ゴールド。それに特殊な能力のある装備でね。説明を」

 店員の老紳士は柔らかい表情のまま

「この過激なビキニアーマーはエルフの故郷で仕立て上げられた1級品。身につけるものの魅力を上げ、モンスターが高確率で魅了状態になります。つまり、大きなスキが生まれるのです」

 クルネはつまみ上げるようにして圧倒的に布面積の少ないビキニアーマーを持ち上げた。

「羽みたいに軽い……」

「えぇ、エルフが作った代物ですので魔法を駆使した防御力も備えておりますよ。この肩と腰の紐についている魔法真珠はありとあらゆる魔法に耐性がありこの辺りの魔物の攻撃は無力化できるでしょう」

「試着してみたらどうだ? うちの傭兵には良い物を使ってほしくてね。クルネ、君も最高級の防具に興味があるだろう?」

「ですが、こんなに小さいのは」

 クルネは恥ずかしそうに自分の胸を押さえた。今装備している「普通のビキニアーマー」でもかなり露出度が高い。

「良い装備だと思うが……弱い装備でいいのか?」

 本音を言えば、この過激なビキニアーマーを着ているキャラを3次元で見たい。という欲望が8割である。

「くっ……! わ、わかりました」

 クルネは極小のビキニアーマーを俺の前で着ることに抵抗がありつつも「自分は実力派でありそれを高める防具」という誘惑に勝てずに手に取った。

「では、こちらの試着室へどうぞ。お色は白と黒がございますが……」

 クルネはマントと兜を外すと白いほうを手に取って試着室へと入って行った。




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