7章 聖女誘拐

第37話 聖女、行方不明になる


「さ、お風呂はユフィーと入りましょうね」

「それは、私がっ」

「あ、シズカさんも一緒にはいりますか? 洗いっこしましょうね」

「あ、あ、洗いっこ……」


「あ〜くだらない。ローミア、グリコ行くわよ」


 シュカが呆れつつも、食器を片付けようとした時だった。玄関ロビーの方から大きな声と扉を叩く音が聞こえた。


「クルネ」


「はい、みなさん。奥へ下がって。シズカさんよろしく」


 クルネと俺は玄関ロビーへ向い、シズカとシュカは他のメンバーを守りつつ奥へと移動する。

 玄関ロビーに行くと声がはっきりと聞こえてくる。


「緊急事態です! ダヴィド・イーゴ殿!」


「誰だ!」


「保安局の者です!聖女様が、アマリス様が何者かに連れ去られました」


 扉を開けると、そこには焦った様子の保安局員が息を切らしていた。確か、彼女は聖女の間の警備の1人で、足からは血を流していた。


「クルネ、ユフィーを呼んでくれ」


「わかりました」


 俺は保安局員に肩を貸しつつロビーへ招き入れると一旦ソファーに座らせた。すぐにおくからユフィーたちがやってくると、彼女の怪我の手当てを始める。


「何があったんだ……えっと」


「申し遅れました。保安局で聖女の間の警備にあたっております、ジニーです。つい先ほど、聖女の部屋から悲鳴が上がり……見にいけば聖女様が何者かに連れ去られる瞬間でございました。ジョハンナ先輩が応戦したものの不思議な魔法で一撃……彼女は重体です。ジョハンナ先輩は倒れる前に『ダヴィド様に応援を要請せよ』と」


***


 聖女が誘拐された。

 というニュースは翌朝、国中に周知された。貴族街には屈強な傭兵たちが歩き回り、平民街はがらんと人気がなくなった。スラム街は悪行を働く人間が増え、悲鳴や鳴き声が響いている。

 ジョハンナは、強い重力魔法を受けたことで意識不明の重体、現在は城の医務室で治療を受けている。


「目撃情報によれば、聖女様を襲った犯人は魔王の軍団が身につけているローブを纏っていたとか」


 保安局の局長室、俺とユフィー・クルネ・シズカにヴェルナが状況を共有してくれていた。無論、俺たちは彼女から「アマリスを探す」というクエストを受けることになっている。


「魔王の軍団。ですか」


「えぇ、ここのところ世界中で魔王軍の動きが活発になっています。このエンドウォーター国周辺でも。奴らの根城はここより南にある山頂。しかし、断崖絶壁でたどり着けるかどうか……」


 俺はこのイベントに心当たりがある。

 というのも、ゲームの終盤で起きるイベントにそっくりなのだ。確か、この状況ですでに主人公たちは空を飛ぶ手段を手に入れており、空から山へと侵入するのだ。そして、聖女を誘拐した張本人である四天王・アイス伯爵を倒すのだ。


 ちなみに、アイス伯爵は氷属性なので火属性攻撃が特攻である。


 魔王軍四天王戦の初戦である彼はいわばかませ犬。その上、このイベントで聖女が主人公パーティーの仲間入りをするのだが……。


「何か、飛行船かなにか空を飛べるものがあれば……」


 ユフィーは頭を抱えたが、俺には2つの解決方法が思い浮かんでいる。一つは、普通に飛行船を購入すること。もう一つは


「グリコに運んでもらうのはありだぞ。飛行船を買うのも可能だが、運転士を雇ったり、天候にも左右されるだろう。けれど、ドラゴン化したグリコなら俺たちをすぐにでも運ぶことが可能だ」


 ちなみに、ゲーム内では「天候」という概念がないし、飛行船を手に入れると乗るだけで世界中を飛び回れるが、実際はそうじゃない。この世界にはしっかり雨も降るし風も吹く、その上俺は車ですら運転ができないのだ。飛行船なんて絶対に操縦はできない。


 それを加味すると、手っ取り早いのはグリコを使うことだ。


「確かに、グリコちゃんであればひとっ飛び……一度場所について終えば移動魔法の登録が可能ですしね」


「あぁ、一刻も早く聖女様を救いに行かないとまずい。帰ったら準備をしよう」


 順序がめちゃくちゃになってるとはいえ、ゲーム内の知識は俺の頭に入っている。南の山の頂上にあるアイス伯爵の屋敷、というダンジョン。無論、宝箱の位置もボスの居場所も把握済みだ。


 その上、アイス伯爵の屋敷には「魔物の聖水」というアイテムがありそれを手に入れるとモンスターを仲間にすることができる。かなり貴重なアイテムで俺としてはすごく欲しい。それをゲットすることも視野に入れて……、いやまずはアマリス救出が最善か。


「ダヴィド様、お気をつけて」


 ヴェルナよりクエストを受けた俺たちは、アマリス救出に向けて動き出した。


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