第25話 クエスト×人助け=領民確保?
「聖女様……こんにちは」
俺の挨拶に彼女は近寄ってくるとチークキスで返事をする。そのまま、耳元で「こんにちは」と言われたもんだからたまらない。
「あの、もういいですか?」
「ダメ、ダヴィドさんからのチークキスがまだよ」
首に腕を回され、ほとんどキスするみたいな距離で彼女が見つめてくる。俺の視界には聖女様の顔と、それから胸元。
挨拶のチークキスなんて生ぬるいくらいに体はくっついているし、距離感が完全にバグっている。
——こんな煩悩の塊みたいな聖女様でいいのか……?
ゲームの中ではほとんどのNPC的な感じでしか出てこないし、終盤に仲間になるものの会話システムも極少数。
ゲームの中に入ってみると、なんというかちゃんと人間だ。
「ダヴィド様、早く……」
とおねだりをされて俺は仕方なく、そしてぎこちないチークキスを返した。アマリスは少し名残惜しそうに俺の体から離れると、
「実は、あなたたちにお願いしたいクエストがあってここにきたのよ。ねぇ、ジョハンナ」
と言った。
アマリスの後方に停めてある馬車の方からジョハンナがやってくると彼女は申し訳なさそうに眉を下げる。
「申し訳ありません。私事で……」
「とにかく、中にどうぞ」
***
「実は、私の妹が嫁いで行った先でよくないことが起こっていて」
「よくないこと?」
ローミアの淹れたハーブティーと甘いクッキーの香りが漂っている。しかし、ジョハンナの表情を見るにかなり深刻そうで食べる気には慣れなかった。
「はい。私の妹カーナの住む村は小さな農村なのですが……最近、強い魔物が頻繁に出るようで畑仕事ができず貧困に苦しんでいる……と。逃げようにも移動しようにも村の外に出れば魔物におそわれてしまうとか……ですからその」
アマリスが口籠ったジョハンナの代わりに要約する。
「ロヨータ村の人々を助けてほしいの。クエスト内容はこれよ。ロヨータ村のお引越し大作戦。ロヨータ村の人々をここまでの道のりで守ること」
農民は俺が一番最初に考えた領民属性だ。というのも、やっぱりこの世界観で「領民」っていうと作物を育てたりするイメージがある。よく知らないけれど、食べ物がたくさんあって困ることはないだろう。
その上、ロヨータ村は本編には出てこない村。何度もやり込んだ俺が知らないのだから、おそらく俺の死亡フラグではないだろう。
——ということは、このクエストは受けても大丈夫か。
「わかりました。クエストお受けします。メンバーは俺とクルネ、ユフィーとシズカさんで」
「あら、シズカはもう?」
「今日の午後に荷物と一緒にやってくるそうです。俺も忍の国の料理は好きなので楽しみです」
「まぁ、私も勉強しなくちゃね」
「ははは……」
「それはそうと、今回のクエストはクルネさんの代わりにジョハンナを連れて行ってほしいの。その代わり、クルネさんを私の護衛にさせてね。いいかしら?」
クルネはしょんぼりしつつも、ジョハンナの状態をみて頷いた。一方で俺は、主人公のパーティーメンバーであり、俺を処刑台に送るキャラと一緒に行動するのが嫌でクエストを受けてしまったことを心から後悔するのだった。
「ジョハンナ、地図を」
「はい、アマリス様」
テーブルに広げられた地図。俺にとっては結構見慣れたものだった。ほとんどがゲーム内でみる地図と同じだが、やはりリアルなのでもっと細かく書き込まれいた。
やはり、人間が生きているんだ。
だから、ゲームでは行かなかった街、触れられなかった場所にも何かが存在していて、生きていて暮らしている。
俺は地図をみてそれを深く実感した。
「ロヨータ村はここから馬車で1日。経路としては東の川を渡る前の小さな宿村で1泊して向かうのがベストです。この宿村が起点になります。ロヨータ村からこの宿村までの護衛となるかと」
そうだ。大概のRPGゲームがそうであるが川を挟むと魔物の強さがぐんと上がるのだ。
このFGGというゲームも同じで、東西にそれぞれ川が流れていてそこを越えると一段階魔物の強さがアップする。
ただ、初期装備でも突破できるレベルなので俺たちであれば問題ないだろう。
「わかりました。ユフィー、馬車の手配を」
「はい、教祖様」
こうして、俺は領民獲得のためクエストを受けるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます