5章 初めての領民!
第24話 荒野、緑で溢れる
「おはようございます。ダヴィド様」
俺が朝目覚めて食堂まで降りてくると、中庭の方から真っ赤なトマトがたくさん入ったバスケットを持ったローミアがいた。
——あれ、タネはついこの前植えたはずでは?
「おはよ〜、お兄ちゃん」
ローミアの足元には元気いっぱいなドラゴン族(幼女の姿)グリコがいた。
「ローミア、それ……」
「ああ、すごいんですよ。グリコちゃんが、えいってやると植物がぐんぐん育つんです!」
「僕、緑のゴッドドラゴンだもん」
腰に手を当てて「えっへん」とポーズをとった彼女。まさか、そんな力まであるとは。これはいっきに領地開拓が進んでいくかもしれないぞ・
「グリコ、ありがとう。すごいな、そんな力があるのか?」
「うん、植物を育てるなんて僕にとっては簡単なことだよ。僕は緑を司るドラゴンの頂点なんだし。もっと魔力があればお兄さんのりょうち? も緑いっぱいにできるよ!」
「魔力ってのは? 俺の魔法でどうにかなる?」
「うん、ゴッドファイアー5回あればできると思う。けど、草原・林・森どれがいいの? 森だとちょっとまだ難しいかも」
「いいや、草原でいいよ。どうせ畑にしたり領民の家を建てたりするんだしさ」
「わかった。僕がんばるね」
グリコの頭をぽんと撫でると彼女は嬉しそうに目を細めた。ローミアはそのまま台所へと向かう。
「おはようございます。教祖様、グリコちゃん」
「おはよう、ユフィー。あれ、クルネは?」
「クルネさんなら朝の走り込みかと。そろそろ呼びに行かないとですね」
真面目なクルネは毎朝の鍛錬を欠かさない。正直、俺がすごく強いので彼女に傭兵をしてもらう必要はないんだけどな。けれど、クルネのアイデンティティのために役を譲っておこう。
中学や高校の時はバブられたり、揉めたりしてたけどなんだかこの世界ではうまくいくな。前の世界でももっと頑張っていれば……いや、考えるのはやめよう。
「さ、座って。用意しちゃうから」
シュカがグリコを抱き上げるとテーブルの方へと連れていく。俺も一緒についていく。シュカは手際よく全員分のお茶を入れ、カトラリーや皿を並べていく。
台所の方からはトマトをローストする良い香りがして、ぐぐっと腹が動いた。
「おはようございます、みなさん」
「おはよう、クルネ」
クルネはひと汗掻いた後で、爽やかな表情。「手伝えることはありませんか」と台所へ入っていった。
「お兄ちゃん、ここって何をするところ?」
「うーん、俺たちは困った人を助けながらのんびり暮らしてるんだ。そうだなぁ、朝起きてみんなでご飯を食べて、クエストに行ったり……? グリコはしばらくローミアお姉ちゃんと一緒にいればいいよ」
グリコは先に出てきた美味しいパンを齧りながら頷いた。横でシュカがバターを塗ろうとスタンバイをしている。台所の方ではクルネとローミアの楽しそうな声が響き、ユフィーもそこに加わる。
「おいしいねぇ、たのしいね〜。ぼく、嬉しいや」
「もう、口についてるわよ。子供を連れてくるのならしつけくらいしてよね」
シュカはそう言いつつも手は優しくグリコの口元をぬぐってやり、お姉さん属性を存分に発揮している。
「できましたよ〜。今日は新鮮トマトのチーズ焼きです。ふふふ、熱いから気をつけてくださいね」
輪切りにしたトマトと厚切りベーコンの上にチーズがとろりと蕩け、焦げた部分からいい香りが漂っている。焼きたてのパンに乗っけて食べればちょっとしたピザである。ローミアの料理は高級ではないからこそ俺の舌にもよくあっている。
強いていえばポテチとかジャンクフードとかが恋しいくらいで。
***
見渡す限り広がる荒野は、イーゴ家が……というか俺がほとんど管理をしていなかったせいで植物一つ生えていない。
俺と、それから大きな緑色のドラゴン。
「じゃあ、よろしく〜」
「はいはい」
俺は特大のゴッドファイアーを3発。グリコにぶち込んだ。グリコの鱗が魔法を吸い取るとピカッと強い光を放った。
あまりの眩さに俺たちの目がくらんで……地面が大きく揺れた。砂煙がたち、グリコの姿が一瞬だけ見えなくなると、彼女は……
とても美しい女性に変身していた。
新緑のうろこでできたローブをまとい、神々しいほどに美しく凛とした若い女性だった。エメラルド色の瞳は俺を見て、ゆっくりと瞬きをする。
「我、緑のゴッドドラゴンなり。大地よ、我が願いに応えよ」
グリコが手を広げ、天に掲げると大きな地鳴りが起こった。
「わっ、教祖様」
バランスを崩したユフィーを支えつつ、俺は目撃する。
荒野の乾燥しきった土がみるみるうちに潤い、小さな芽がたくさん生まれる。大きな石は粉々に砕け散り、やがて土が見えなくなるくらい緑の草原になってしまった。
ものの数十秒の出来事だった。
「お兄ちゃん〜、グリコつかれたぁ」
グリコの方を見ると、彼女はすっかり元の幼女に戻っていて、でろんと横たわった。ユフィーはそのまま眠ってしまったグリコを抱き上げると、嬉しそうにこちらに振り返り
「教祖様、これで教徒……じゃなかった領民さんをたくさん出迎えられますね!」
「あぁ、そうだな。でも、領民を集めるって言ってもどうするか……」
領地運営なんて、ただの高校中退ニートだった俺にできるのか……? という不安に駆られつつも、うちにはユフィーやクルネと言った仲間もいるので心強い。とは言っても、城下町の近くで「こちらに住みませんか」なんていう安易な募集を貼ったところで本当に集まるのだろうか。
「それなら、いい案があるのだけど」
鈴を鳴らすような声に振り返ると、そこにはこちらに向かって手を振る聖女アマリスが立っていた。
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