第51話 俺の行方
目を覚ました。
天井は見慣れた……俺の、イーゴ家の屋敷だった。
「教祖様!」
ユフィーの声、仲間たちがわらわらと集まってきて俺の手や頬に触れて生還を喜んだ。
「俺、死んだんじゃ」
「あれは、悪魔の戯言だったんですよ。悪魔が死んだ後、私たちの前に女神様が現れ貴方を……転生してきた救世主である貴方を救ってくださったのです」
女神や悪魔、そんな存在はゲーム内では出てこない。けれど、あの悪魔が言っていた「ループからの救済」が本当であったとしたら、ゲームの世界から切り離されたこの世界が女神というなの神に干渉されている……いや、俺の脳みそでは難しくて考えきれない。
「そう……か」
「教祖様、もう魔王も悪魔もいないんです。教祖様が……みんなを救ってくれたんです」
「それは聖女が……」
目の前にいるアマリスは「いいえ、貴方が私を救ってくれたから」と優しく言って俺の手の甲にキスをした。
「さ、謙遜大好きな教祖様。お忙しいですよ。これからは、世界の救世主様として表彰式と、それから宴に世界各国への訪問。マゴアダヴィド教はやることがいっぱいなんですから!」
クルネが誇らしげに胸を張った。そこにはキラキラした大きな勲章が輝いている。
「クルネ、それは……?」
「保安局に復帰したんです。ダヴィド様が眠っている間に……そのジョハンナに口説かれて。貴方がいる保安局ならもう一度、頑張ってみたいと。魔王のいなくなった今はもっぱら悪者や悪い貴族の取り締まりですけどね」
「そうか。頑張れよ。いててて、俺どのくらい眠ってたんだ?」
ユフィーは指をいくつか折ってそれから宙を見上げ、答えた。
「2週間」
「そんなに?」
「ほんと、心配したんですからね。本当に、本当に教祖様のバカ」
泣き出したユフィーを抱きしめてそれから背中をさする。話を聞けば、目覚めない俺のために彼女はマゴアダヴィド教の代理教祖として色々駆け回ってくれていたらしい。世界のために、信徒のために。
「みんなは?」
「シズカさんは忍の国との国交で大忙し。シュカさんとローミアさんは炊き出しの延長線で平民街にお店を出すことになって……、グリコちゃんは表の農場で日向ぼっこ。グリコちゃん、この国の守り神になる契約をしたんですよ。それからアシュレイさんは教祖様に変わって保安局の魔術師団長代理で城にいるはず」
「そっか。俺も早く頑張らないとな」
「そうですよ〜! マゴアダヴィド教のますますの繁栄のためにたくさん頑張ってもらわないと!」
ユフィーはニヤリと笑うと、ベッドの脇に座っていたアマリスに忍び寄り服に手をかけた。
「きゃっ、ユフィーさん何を?」
「何をって決まっているじゃないですか。マゴアダヴィド教の繁栄を! 聖女様も入信したからには産んでもらいますよ! 教祖様の赤ちゃんを!」
「っ、ちょっとユフィーさん、こういうのは段階を踏んで」
「そうだぞ、なにを……」
服を奪われて、俺のベッドのシーツにくるまるアマリス、ユフィーは自身もベッドに上がって俺を妖しく見つめた。
「2週間も寝てたんです。今日から、メンバー全員としていただくまで寝かせませんから」
俺とアマリスはベッドに押し倒された。アマリスの恥じらったような赤い顔が目の前にきて、視線がぶつかる。
「貴女は……それでいいんですか?」
アマリスは少し黙ってからこう答えた。
「ずっとずっと、そうなりたいと思ってましたから。私を入信させてくれますね? ダイヴィド様」
「わかった」
***
こうして、FGGというゲームの中に入ってしまった俺は、序盤で死ぬ悪役にも関わらず何故か世界の救世主となったのだ。
そして、諸悪の根源を倒した今俺に残されたのは「好き勝手に生きる最高のご褒美」だ。
今まで死亡フラグだと思ってやってこなかったことを全部やってやろうと思う。
まぁ、その、ほどほどに。
おわり
悪役教祖に転生した俺、バッドエンドを回避して領地開拓していたら続々と主要キャラが入信してくる 小狐ミナト@ダンキャン〜10月発売! @kirisaki-onnmu
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