第42話 アシュレイ、入信



「師匠、お話が」


「アシュレイ、おはよう。随分と早いな」


 朝、俺の部屋にやってきたアシュレイはなんだか緊張した様子で部屋の椅子に座ると帽子を取ってテーブルの上に置いた。


「師匠。私、ここで住み込みの修行をお願いするって言ったけれど……」


「あぁ、そうだな。部屋はたくさんあるしかまわないよ。と言っても、俺は慈善活動やらで相手をできないことも多いが……クルネなら鍛錬の相手をしてくれるから」


「違うんです」


「ん?」


「私、マゴアダヴィド教に入信しようと思って」


 アシュレイは自分に酔ったような、まるでミュージカルのヒロインみたいにたちががると目を輝かせて話し出す。


「アイス伯爵を倒したのに救うあの慈悲深さ、圧倒的魔力と圧倒的戦闘IQ ……! 魔王すら手にかけてしまうであろうあなたに惹かれたのです。あなたこそ、大魔法使いとなる私、アシュレイの一番であるべきだと」


「あ、あぁ……」


 魔力、というのは「想像力」というのが強く関係しているとこの前読んだ本に書いてあった。たとえば、回復魔法使いに向いている人は優しかったり他人を思いやる気持ちが強いが多い。

 逆に攻撃魔法使いは戦闘狂であったり、野心家であることが多い。

 そういった個人の性格は想像力に深く結びつき、魔力を呼び起こす。他人を思いやり慈悲深い心を持つものは相手を癒したいと想像する。

 戦闘狂で野心を強くもっているものはより強いモンスターを倒すためにさまざまな魔法を想像する……。


 アシュレイは野心家で自信過剰、それは確かに大魔法使いの素質があるのかもしれない。


「まぁ、うちは来るもの拒まず去るもの追わずなんでお好きに」


「では、私も今この瞬間から信徒の1人ですわ! さ、師匠。じゃんじゃんやりますわよ! 慈善活動を!」


 オホホホホ! と高らかに笑いながら部屋を出ていったアシュレイ。こうして、主人公パーティーのメンバーがまた我が教団に入信したのだった。



***



「教祖様! おはようございます!」


 昨晩のマッサージでなぜか俺よりもつるつるになっているユフィーは、食堂に降りてきた俺を見て嬉しそうに飛び跳ねた。


「おはよう、なんか嬉しそうだな?」


「教祖様、これを」


「ん?」


 ユフィーから書簡を渡されて広げてみるとそこには「領地の権限について」と書かれていた。読んでみると、アイス伯爵が所有していた南の雪山一帯の領地を我がイーゴ家に受け渡したいとのことだった。


「アイス伯爵は、魔王に操られていたとはいえ聖女様を誘拐しそのお力を奪った罪を償うため、今朝早くに我が国に出頭したそうです。彼は地下牢に幽閉されていますが、領地については教祖様にお願いしたいと。保安局も彼を倒した教祖様であれば問題ないと」


「そうか……わかった。後で、アイス伯爵の屋敷に行ってこのことをあのメイドたちに伝えておくよ」


 雪山か、美味しいフルーツとかあったりすればいいんだけど。


「雪山ですか? ぜひ、ローミアもお連れくださいませ」


 朝食を運んできたローミアが目を輝かせる。その手にはとれたて野菜のサラダをテーブルに置くと


「私、雪を見たことがないんです」


 と俺に迫る。普段はおとなしくて静かなローミアにしては珍しいぐいぐい具合で困惑しているとシュカが


「ダメよ、風邪引くでしょ」


 と妹を宥めた。

 不思議に思って考えてみると、この場所には四季の感覚が薄い。ゲーム内でも「常夏の国」やアイス伯爵の「南の雪山」みたいに暑い場所や寒い場所は存在するけれど……。


「でも確かに、この辺は寒くなっても雪までは降りませんからね」


 ユフィーがそういうので俺もなんとなく合わせる。ゲーム内ではこの国にいる際に四季の描写は一切ないのだ。雪山に行った際に他のメンバーもそこまで反応は大きくなかったんで気が付かなかった。


「ローミアは十分元気になりましたよ! それに、少しくらいなら……ね? お姉ちゃんもいいでしょう?」


「じゃあ、少しならシュカも一緒にどうだ? 俺の魔法でローミアの周りは温かくもできるし。いいだろう?」


 シュカの了解を得るとローミアがあまりにも嬉しそうに笑うので俺まで嬉しくなった。


「そうだ、クルネ。アイス伯爵家には鎧系のモンスターがいたろ? 魔物の聖水で鍛錬相手になる仲間を迎えようか」


「ぜひ!」


 こうして、俺は敵にとどめを刺さなかったことで広大な領地を手に入れたのだった。


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