第41話 帰宅とマッサージ


「うーん。耳が垂れてる方がケロちゃんで、耳がぴーんとしてる方がベロちゃん!」


 可愛らしいピンク色の首輪を付けられたミニケルベロスは嬉しそうに「クーン」とローミアの手に鼻を擦り付けた。

 確かに、たち耳の方はいつも舌を出してるし耳が垂れている方はちょっと目が離れていて蛙っぽいから覚えやすいかも。


「私、小さい頃からワンちゃんを飼ってみたかったんです! ダヴィド様、夢を叶えてくれてありがとうっ」


 ローミアはぎゅっと俺にハグをしてそれから、愛犬のために台所へと向かっていった。ミニケルベロスは雑食なのでクズ野菜や肉の切れ端なんかを食べてくれるのだ。無論、モンスターの死骸も食べてくれるので家の近くで討伐したモンスターも彼らが処理してくれる。


「番犬、頼んだぞ」


 わしゃわしゃと2つの頭をそれぞれ撫でてやるとケロとベロは尻尾をブンブンと振って喜んだ。俺も犬、飼いたかったから地味に嬉しい。


「届出おわりました! 無事、我が領地の仲間ですよ」


 ユフィーとクルネが城から戻ってくると俺に証明書を寄越す。まれに魔物の聖水を使わなくてもモンスターが懐くことがある。この辺でもスライムを愛玩用として飼っている人も珍しくないのだが、そのためには城への届け出が必要なのだ。


「ユフィー、クルネ。ありがとう」


「いえ、とんでもございません。クルネさんったら、お稽古相手になれるモンスターも探したいって」


「いいな。アイス伯爵の屋敷にもいた亡霊ヨロイの上位互換の騎士亡霊ヨロイなんかは知能が高くて良い練習相手になるだろう。出現する場所があったらいってみようか」


「ありがとうございます! ダヴィド様」


「ところで、聖女様とジョハンナの状態は?」


 ユフィーは笑顔をしゅんと消すと困ったように眉を下げた。


「ジョハンナさんは回復しています。聖女様は、目を覚ましてはいましたが聖なる力を失い落胆されておりました。今は聖女の部屋で1人、水晶と向き合いたいと」


「そうか、しばらくはそっとしておこうか」


「そうですね……」


 ゲーム内ではジョハンナについては言及されていなかったが、このイベントが起こった時同じようにアマリスはしばらく部屋にこもってしまう。

 この動きを見るとやはりゲーム内のイベントは進行することが可能らしい。


 けれど、主人公が不在でいろいろなイベントや伏線を回収していないのにどうしてこのイベントが起こったんだ?


 俺は必死に頭を捻ってある一つの仮説に辿り着いた。


——主人公のレベル依存


 主人公の双子がした動きはどちらも「力を吸収する」ものだった。となれば必然的にレベルも上がっているだろう。このゲームではある程度のレベルを踏まないとおベントが起こらない仕様になっているのでそれが原因である……のではないだろうか。


 ただ、基本的には全てのイベントをこなしていないと次のイベントは起こらないので俺の仮説には穴がある……な。



「教祖様、聖女様からクエストがない以上。私たちができることは慈善活動です。まずは教祖様がゆっくり体を休めることです。こちらへ」


 ユフィーはそういうと俺を俺の部屋へと連れていくのだった。



***


「さ、脱ぎましょうね〜」


「ユフィ?!」


「ハーブオイルマッサージです。装備品については大変ですからね。あ、あっちをむいて脱いで腰にタオルを巻いてくださいね。ユフィーも着替えるので」


 はい、とタオルを渡されて俺は期待に胸を膨らませつつ服を脱ぎ腰にタオルを巻いた。後ろではユフィーが着替えている音が聞こえ、妙にドキドキする。手は出していないが一緒に風呂に入ったこともあるし、なんならユフィーの逆バニー姿なんて見慣れているし……。


「似合いますか? 先ほどお城に行った時、ヴェルナ局長にお願いして使わなくなったものを分けてもらったんです」


 俺の目に映ったユフィーは、非常に過激な姿をしていた。蝋燭の柔らかい灯りだけだからか非常にムーディーで大人っぽくエロく見える。


「過激な……下着?」


「はい、教祖様の寄付と申し入れによって女性局員たちがみな過激なビキニアーマーになったのでこれはもう使わない……と。装備の質はよくないけれど、男性はみな好きな……でしょ?」


 ユフィーは体を捻ったり、後ろを向いたりして全体像を見せてくれる。妖しく俺を見つめながらそうされると、見慣れたユフィーでもかなり……エッ……。


 真っ赤なレースがユフィーの白い肌によく映えている。


「あ、あぁ……」


「それともうさぎちゃんのママがよかったですか?」


「いや、その」


「教祖様、それじゃあベッドにうつ伏せになってくださいね」


 俺のベッドには丁寧にタオルが敷かれていて、横になる。少し冷静になった俺は部屋に心地よいハーブの香りが満ちていることに気がついた。


「今夜は、頑張った教祖様のお体をユフィーが癒して差し上げるんですよ」


「っ」


 背中に温かい液体がとろりとかかる。人肌くらいのそれをユフィーが「ハーブオイルです」と囁いた。小さな手がオイルを伸ばすように俺の背中に広げ、優しく程よくマッサージをする。首、肩、肩甲骨に腰。ゆっくり、愛でるように彼女は手を動かした。


「見た目に傷はないけれど、少し傷んでいますね」


 回復魔法をかけながらなのか、すっと肩や首が軽くなっていく。魔力の流れが心地よく俺の体に流れ、眠ってしまいそうになる。ふくらはぎやふとももをユフィーのマッサージのおかげでだいぶ軽くなった。


「さ、次は仰向けになってくださいね〜」


 うつ伏せのまま夢うつつだった俺は、仰向けになるとせっかくの眠気を覚ましてしまうことになる。

 ユフィーはあろうことか俺の上に跨ると腰を下ろしてゆっくりと俺の首の方へと手を伸ばす。

 俺の視界のほとんどがユフィーになって……過激な下着とオイルに濡れて光る肌、妖しく動く手、腰に感じるユフィーの体温……。


「さ、教祖様。ここからが本番ですよ。って教祖様? 教祖さま〜!」


 高校中退という名の中卒引きこもり童貞の俺には刺激が強すぎたようだ。顔の中心が熱い、意識が遠くなった……。




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