第40話 VSアイス伯爵
「クルネ、シズカは下がって聖女様を守ってくれ。お前もだ」
不満げな2人とは違ってミニケルベロスはワンッワンッと返事をした。そして、俺はアシュレイに「いけるか?」と聞いた。
「えぇ、もちろん」
勝ち気なアシュレイは自信たっぷりに頷いた。俺たちはゆっくりとアイス伯爵の方を振り返る。
アイス伯爵は真っ白なタキシード姿に白髪、とても整った容姿のおじさんキャラだ。四天王の中では最弱という言葉がぴったりであるが。
「我輩の屋敷に侵入するとは、恐れ入ったぞ! 氷漬けになってしまえ!」
そういうとアイス伯爵は奥義・ゴッドアイスの詠唱を始める。彼は天に両手を掲げると徐々に大きな氷の塊が生成され、彼の周りには吹雪が巻き起こる。
「師匠! まずいですわ! 私、まだ中級呪文しか」
「まずくない、アシュレイはみんなに氷の破片が飛ばないように、適当な火魔法で防御してくれ。ゴッドアイスは俺がどうにかするから」
「わかりましたわ!」
アシュレイは一歩下がり、ミドル・ファイアーを唱えた。俺の背中があったかくなり、悴んでいた手もしっかりと動くようになった。
「はっはっはっ、貴様らがノロノロしている間に完成したぞ! 氷漬けになってしまえ! ゴッド・アイス!」
アイス伯爵は、自慢げに大きな氷をこちらに放った。
しかし、俺は長ったらしい詠唱もせずに杖を掲げ
「ゴッド・ファイアー!」
と唱えると大きな火柱が巻き起こり、アイス伯爵が時間をかけて作った大きな氷を一瞬にして溶かし、そのまま彼を飲み込んだ。
「ぐあぁぁぁぁぁ!」
漫画のようにプシューと黒焦げになって倒れたアイス伯爵。ゲーム通りであれば……
「アイス伯爵!」
屋敷の方からメイドらしき2人の女性が出てくると、俺の前に跪いて手を組んで祈るようなポーズをとって懇願する。
「どなたか存じ上げませんが、アイス伯爵は魔王に操られていただけ。どうか、どうか命だけはお助けください。あなたに倒されたことできっと正気に戻るでしょう。普段は気の優しいただの伯爵様なのです。あぁ、どうか、どうかお願いいたします」
しかし、ゲーム内で主人公はアイス伯爵にとどめを刺す。なぜなら、懇願してきている彼女たちもモンスター族「雪女」であるからだ。というのも、本来ここに来るまでに四天王には結構なヘイトが溜まっていて、主人公ファイアーの信条としては絶対に許せない……といったシナリオになっている。
だが、俺たちは慈善団体。
反省している悪役を殺すことが果たして「正しい」のだろうか?
「わかった。命を奪うことまではしないでおこう。その代わり、アイス伯爵が目を様したら伝えてくれ。魔王がどのように貴殿を支配したのか。マゴアダヴィド教の教祖である私に伝えに来るように。と」
「ありがとうございます、ありがとうございます。アイス伯爵は私たち双子の命の恩人なのです。貴方様のご厚意は一生忘れません。必ず、必ずお礼をさせてください」
「あぁ、早く戻りなさい」
メイドの雪女たちは涙を流し俺に感謝すると黒焦げになったアイス伯爵を屋敷の中へと運んでいった。
ゲームとは違ったシナリオになっているのだ。こうして恩を売っておいても良いかもしれない。
「聖女様、ご無事で?」
「えぇ。ですが、聖女の力を吸い取られてしまいました」
アマリスは丁寧に経緯を説明してくれたが、大体ゲームの中でのシーンと同じだった。アイス伯爵の屋敷にやってきた魔王の側近が魔法石の中に聖女の力を吸い取ってしまったそうだ。
「でも、無事でよかったです。怪我は?」
「ありませんわ。先ほどのメイドたちが言っていたようにアイス伯爵は根っからの悪い人というよりただ命令を遂行しているだけのようでした。ダヴィドさんが彼にとどめを刺さなくてよかった。もしも、悪気がなかったのなら……」
アマリスはそういいかけて疲れからか意識を失ってしまった。俺は彼女を抱き止めると、みんなに言った。
「さて、帰ろうか。みんな俺に捕まって」
全員が俺に触れたのを確認してから俺は移動魔法で一気に屋敷まで戻るのだった。
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