第20話 西の洞窟へ


「それでは、聖女の祝福を授けます」


 アマリスが祈りを捧げ始めると俺たちは片膝をついて頭を垂れた。目を閉じると体の中に聖なる力が湧いて出てくるような気がする。


 これが聖女の祝福……?


 キラキラと音を鳴らして降り注ぐ何かは確実に俺の魔力に力を与え、心を安らかにする。昨日、ささくれていた爪も治っていた。


「さぁ、皆さん。頑張ってくださいね」



***


 城から西へ向かったところにある洞窟。

 俺がFGGの画面上で見た感じでは小さくて地下2階までしかない簡単な洞窟だった。ゲーム上では聖なる泉が地下2階にあるただのオブジェ。1階にある宝箱の中身の装備が欲しければいく。くらいの場所だ。


 とはいえ、俺たちは馬車で入り口までいくのでかなり優雅な冒険となっていた。


「へぇ、シズカさんは忍としての任務は初めてなのですか」


 クルネは忍に興味津々で先ほどからシズカを質問攻めにしていた。その横でユフィーがシズカを勧誘すべく虎視眈々と狙っている。


 そうそう、忍のジョブは「水遁」「火遁」と言った風に魔法属性の攻撃でありながらも魔法封印に引っかからない特技だったり、隠れ身という特技でモンスターとのエンカウント率を下げたりもできて便利なんだっけ。


 シズカはゲームの中でもあまり人気のないキャラで二次創作なんかも少ないが……、実際に見てみると可愛い。西洋人モデルのクルネやユフィーよりもひとまわり華奢で小さく、慎ましい雰囲気と黒髪に白い肌。美人というよりも可愛い系で……


「あの、ダヴィド様。何か?」


「あぁ、すまない。忍はこちらでは珍しくてね、つい」


「そうですか、あまり見られるのは……恥ずかしいです」


 と彼女が言った時、嗎と共に馬車が大きく揺れた。向かい側にいたシズカが体制を崩して俺の方に飛んでくる。


「うわっ」

「わぁっ」

「きゃっ」


 飛び込んできたシズカが怪我をしないように抱きしめながら下敷きになる。細くて、柔らかい。

 そんなこと考える間も無く、ドジンと俺の顔の上にクルネの胸元が着地する。


「ふぐぐ……?」


「あぁ、ダヴィド様すみません。ユフィーさん立ち上がってくださいっ」


「いてて、あたた」


 一番上になっていたユフィーが立ち上がると、順にクルネ、シズカと俺の上から退いた。


「どうしたんでしょう?」


「見てくる」


 馬車をでて様子を見にいくと、御者は吹っ飛ばされて結構遠くに転がっていて、2頭の馬たちは荒ぶっていた。前足と後ろ足を交互に蹴り上げてまるで何かに怯えているように嘶いていた。


「どうどう……」


 俺は馬の首をさすりながら2頭ともおちつくまで声をかけ続ける。そのままスキを見て「解読魔法」をかけてみると……。


『こわいよ、こわいよ』

『いやだよ、これ以上いけないよ』


 馬たちの声が心に聞こえてくるのだ。これも補助魔法の一つでゲーム内ではモンスターの次の行動を読むために使用するが……、こんなにもうまくいくとは。


「怖がってる。悪いが俺たちを置いて引き返してくれ」


「ダヴィド様、申し訳ありません」


「いやいい、怪我は?」


 御者の男は「ありません」と土埃を払ってそう言った。


「では、少し戻ったところで待っていてほしい。先に料金を」


 少し色をつけて料金渡し、仲間達を馬車から下ろす。数十メートル先には洞窟と思わしき入り口がポッカリと開いていた。

 どうして馬たちが恐れていたのかそこを見ればすぐにわかった。何やら恐ろしいオーラのようなものが洞窟の入り口から噴き出しているのだ。

 よく見れば本来ならうじゃうじゃいるはずのモンスターたちはどこにも姿を見せず、蟻1匹いなかった。


「なんだかとてつもない気配を感じますね。ダヴィド様」


 クルネが武者震いしながら顔をこわばらせる。ユフィーの方は杖を両手で握りブルブルと震えていた。

 シズカは……、なんだかブツブツと呟いている。怖いのだろうか?


「シズカ? 平気か?」

「わ、私……殿方に抱擁されたのは初めてっ……で、その初めてはその取っておくようにといわれた……ダヴィド様はお優しいし」


——ダメだこりゃ


「シズカ、聞いているか?」


「はっ、すみません。あっ、ダヴィド様。そのお伺いしたいことが」


「なんだ? こんな時に」


「いえ、なんでもございません。さ、さぁ! 行きましょう!」


 どうやら、馬車の中で彼女を庇ったことで変なスイッチを踏んでしまったらしい。アマリスをはじめ、徐々にゲームの中の主要人物からの矢印が結構立ってきた。


 主人公はどこで何してやがるんだ。


「ドラゴンは魔法攻撃が効かない。クルネ、俺たちはお前が頼りだ。いいな」


 クルネが大きく頷いた。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る