第22話 幼女とドラゴン
「こんなに幼い子が幻のドラゴン?」
クルネが罪悪感たっぷりの表情で言うとグリコは不満そうに口を尖らせ腕を組んだ。
「幼いとはなんだいっ。僕は3000年生きるドラゴンだぞ」
小さくなると、言動も幼くなるらしい。しかも「ボクっ娘」である。クルネを可愛らしく睨みながらプンスカと怒ったように足を踏み鳴らす。
「3000年? すごいですね……是非お手合わせしたいぃ」
「クルネ、やめとけ」
クルネはぐぎぎと歯軋りをした。普段はクールな彼女だが戦闘のこととなるとこうして情熱が溢れ出るらしい。
「そういえば、我が忍びの国にも永遠の時を生きると言われている竜がいます。グリコさんのように幼い見た目ではありませんが……彼女は美しい女性の姿をして年に一度姿を表すのです」
シズカがそういうとグリコが首を傾げる。ドラゴン族はあまり横のつながりはないのかもしれない。
「じゃあ、世界中いろんなところにドラゴン族が、教祖様。ぜひ入信してもらいましょう」
「ははは、でも会えるならいろんなドラゴンに出会ってみたいな」
鱗を縫い合わせたような不思議なローブを身につけた彼女はテクテクと俺の方へとやってきた。
「お兄さん、ありがとう。すごくたくさん魔力もらったよ。お兄さんはへいき?」
「あ〜、俺は眠れば魔力戻るから」
「え? それってすごいね……あのさ、僕……お兄さんとしばらく一緒にいてもいい? 心臓の傷が治るまでは魔力が回復しなくって……時々こうして魔力をもらわないといけないんだ」
抱っことばかりに手を広げる。持ち上げてみると彼女はかなり軽く、そしてひんやりと冷たい。
「心臓の傷って……?」
ユフィーがグリコの頭を撫でると、グリコは悲しそうに
「僕の魔力を奪った人間に刺されちゃったんだ。ドラゴン族は心臓から魔力を生み出すでしょう? だからさ。本当だったらいろんな姿に変身できるんだけど……、今は小さい人間にしかなれないの」
「ひどい……なんでそんなことを。ねぇ、教祖様。グリコちゃんを我が教団で保護しましょう!」
ユフィーの言葉に俺も同意する。クルネ同じだった。
「グリコ、よければ俺たちと一緒に暮らさないか。その〜、ドラゴンの力が復活したら少し頼みたいことがあるんだけど……いいか?」
「うんっ、いいよ。頼みたいことって何? 僕は人間が大好きだけど……僕を傷つけた悪い人間もいたし……。ここの水晶の魔力を食べてなかったら死んでたところだったし……」
赤い頭の人間……か。
まさかな。
「あぁ、うちの領地の守り神になってほしいなあ〜なんて。守り神ってのは山の悪いモンスターを追い出したり、そうだな。荒野を緑いっぱいの土地にしたり……」
俺の言葉にユフィーが
「そうですよ! わが教団はたくさんの信徒を増やして領地を開拓するんです。素敵な村がたくさんできて、お野菜がいっぱい取れる畑、動物たちがのびのび暮らす牧場に美味しい山菜やきのこが取れる山々! お魚いっぱいの川も流れていて……」
と補足する。ユフィーの言うように俺はそういう豊かな土地作りを目指しているのだ。そして、あわよくばハーレムでウハウハな生活を……。
教団のこととなると狂信的に目を輝かせるユフィー、戦闘狂の美人騎士クルネ、元盗賊のメイドシュカ……
——あれ、まともなのはローミアくらい……?
「そして、教祖様の子孫をたくさん産み繁栄するのです!」
ユフィーの言葉にドン引きするかと思いきやグリコは「そうなの。まぁ悪いことにつかわないなら僕、いいよ!」と健やかな返事をした。
「じゃあ、水晶を取って帰りますか」
地底湖の真ん中まで伸びた人工の橋を渡り、ちょうど中央あたりに鎮座する女神像と祭壇。女神像は腰あたりまで水に浸かっている。
地底湖の底には大きな水晶鉱石が無数に沈んでいて、穏やかな光を放っていた。
その光のおかげで、松明がなくてもこのフロアは明るい。
「わぁ、綺麗」
水色に光る湖面が揺れ、鍾乳洞の天井がきらめく。
問題は誰が潜るか。である。
というのも、湖面まで伸びてきていた水晶鉱石はグリコが食ってしまったのか見当たらない。
あれを取るためには誰かがこの湖の中に潜らないとならないのだ。
「ここは私が。水中で土遁の術を」
シズカはそういうと、帯を解いて浴衣をはらりと地面に落とした。
上はサラシを巻いていて、窮屈そうな肉が胸元からのぞいている。そして、下の方は忍びらしい黒いスパッツのような、ピッタリした短パンだった。
俺は彼女をみないように背を向けて「頼んだ」と了承する。
じゃぶん、と彼女が水に潜り数十秒。ぼこぼこと水泡とともにシズカが浮き上がってきた。
「こちらを」
片手にもった水晶をユフィーに渡し、シズカは湖から上がるとぐっしょりと濡れた髪を絞った。
「教祖様、魔法で彼女を乾かしてあげたらいかがでしょう?」
クルネに言われて俺はシズカの前に立つと杖をふるう。シズカは乾かしやすいように両手を広げ俺を見上げる。濡れて少し透けたサラシと黒い濡髪の破壊力は凄まじい。
できるだけみないようにしつつ火の魔法の応用でほどよい熱風を巻き起こし彼女の体を乾かした。
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