第13話 ローミアのお願い
シュカに屋敷の中を案内した後、俺はローミアと一緒に台所に来ていた。ローミアはシュカとよく似ているが、垂れ目で物腰が柔らか。おっとり系の美人だ。
「ダヴィド様、こんなに広いお台所は初めて」
「そうか。全部好きに使っていいんだぞ」
「わぁ〜、すごいっ」
パントリーにはさまざまな食材がストックしてあるし、調理器具だってほとんど全種類があるんじゃないかというくらい揃っている。
俺用のワインセラーや氷魔法で温度を保っている冷蔵保管庫に冷凍保管庫。完全に食うには困らないだろう。
その上、呼べばすぐに行商が食材も売りにくるので買い出しも不要。
「ユフィーもお料理はできるから、体がつらかったりしたら頼ってね」
「ありがとう、ユフィーさん」
ユフィーは新しい仲間が増えて嬉しいのか、それとも回復魔法使いとして体の弱い子を面倒みるつもりでいるのか。
まだシュカとローミアについては正式に教団のメンバーになった訳ではないし、しっかり給料なんかも渡さないと。
「そうだ。教祖様。王宮から感謝状を渡したいって連絡があったんですけど、行かれます?」
「いいや、ユフィー。代わりに行ってくれるか?クルネに護衛してもらってさ」
「わかりました。教祖様は相変わらずシャイですねぇ」
「ユフィー、装備品はローブで行け」
「えぇ、バニーちゃんの方が私強いんですけど……」
その過激なバニースーツ(いわゆる逆バニー)で? ビキニアーマーが戦士の基本装備なので露出感覚に関してこの世界の人たちは割とイかれているが、俺のいないところでという独占欲と心配が勝つ。
「これ、着ていきな」
俺は自分が身につけていたローブマントを脱ぐとユフィーに着せてやる。彼女は嬉しそうに頬を赤く染めて俺を見上げる。
好感度が高いからこそ許されるイケメンムーブはユフィーに突き刺さったようで、彼女はトロトロと蕩けるような表情になった。
俺は無視してローブの前のボタンを留める。若干胸の部分がひっかかるがなんとか前をしめて、彼女の露出度はぐっと下がった。
「それじゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
ユフィーが台所を出ていくと、残された俺とローミアは顔を見合わせた。ローミアはほとんど露出のないメイド服なので落ち着く。目に優しい。
「あの、ダヴィド様。ローミアのお願いを聞いていただけますか?」
「あぁ、いいけど。どうした?」
「あの、お庭に」
「庭、わかった」
ローミアは俺を先導して台所を出ると、玄関前の大きな庭園……ではなく、小さな中庭だった。
中庭は花をメインに植える予定だが、まだ手付かずだった。というのも、俺もユフィーも花には詳しくなく、世話をするメイドが見つかってからにしようと保留にしていたのだ。
土だけが入った花壇や植木鉢、バラが絡まっていたら綺麗であろうアーチや、女神の像の噴水からは綺麗に水が流れている。
「あの、ここでお野菜を育てても良いでしょうか」
ローミアは恥ずかしそうにそういうとおねだりする子供みたいに人差し指を胸の前で擦り合わせる。
「花……じゃなくて?」
「お花も綺麗だけど……お野菜がいいんです」
「そっか……わかった」
「まだ私が小さかった頃、母が……生きていた頃に小さなバルコニーで育てたトマトを食べて、それが私の思い出なのです」
後ろの方で隠れているシュカに気が付きつつも俺は無視してローミアに聞く。
「なんの野菜がいい? タネを用意させよう」
「トマトと……それから香草と……そうだ。私の体調が良くなったら領地に畑を作ってもよいでしょうか……?」
ローミアの可愛いお願いに俺は正直メロメロだった。
というのも、前世は高校を中退してすぐに自宅警備員になっていた俺は「女」というものに飢えていて、クルネやユフィーが露出に抵抗がないことをいいことに過激な目の保養をしていた。
けれど、ローミアを見ていると一周回ってやっぱり露出が少ない方が良いのでは……?
という考えに至ったのだ。
ローミアの性格もあってか、彼女と一緒にいると癒される。
「ダヴィド様?」
「あぁ、すまんすまん。もちろん、体調が良くなれば領地の開拓を手伝ってもらおうかな」
ローミアは優しく微笑むと「頑張ります」と顔の近くで拳を作った。さながら、彼女はメインヒロイン。俺は思わず笑顔になる。
「あのね、お姉ちゃんはあぁ見えてすごく優しいのです。私のせいで、たくさん悪いこと嫌なことをさせてしまったから……ねぇダヴィド様。どうか、お姉ちゃんもよろしくお願いします。そのためなら、私もたくさんお料理もお手伝いも頑張ります」
シュカは妹に気づかれまいと色々と手を回していたようだが、ローミアは全部知っているようだった。
俺は、これからこの姉妹が幸せに暮らせる環境を作っていこうと心に決めるのだった。
「あら、ユフィーさんたちが帰ってきたみたいですね」
中庭から見える玄関の方が騒がしい、新しい信徒候補でも連れてきたのだろうか。ユフィーはなんというかかなり熱心だから、あり得るぞ。
「見てくるよ」
ローミアを中庭に残し、俺が玄関の方に向かうと観音開きの扉が全開になっている。不思議に思って外に出てみると、屋敷の門のそばに馬車が停まっていた。
その馬車は白馬を二頭、車体も白に銀色の装飾が施された非常に豪華なもので王家の紋章。
「あっ、教祖様がいらっしゃいましたよ!」
その馬車の近くでユフィーが嬉しそうに話す。すると、馬車の扉が開いて……
「聖女様、あちらが我がマゴアダヴィド教の教祖様であり、イーゴ家の跡取りでもあるダヴィド・イーゴ様です」
そこには、このゲームのメインヒロインである聖女アマリス・クラッチがいた。
——聖女様……?
「こんにちは、ダヴィドさん。私、この国の聖女、アマリス・クラッチと申しますわ」
そう言って彼女は俺に妖艶に微笑んだ。
***あとがき***
お読みいただきありがとうございます!
次章は聖女様編! お楽しみに〜!
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