3章 聖女様は入信したい!

第14話 聖女様


***


「悪魔の使徒ダヴィド・イーゴよ。あなたはこの聖なる炎に捌かれ、その身に憑いた罪を償いなさい」


 十字架に磔にされた俺は、前夜の戦いにより腫れ上がった目で群がる民衆を見た。そこには、太陽のような赤い髪をした女主人公ファイアー、その隣で震えているユフィー、相棒キャラの魔法使いアシュレイがいた。そして、近くには保安局の騎士ジョハンナが剣を持って立っている。


 聖女アマリスは青く燃えたぎる火を俺の足元に放った。足の裏からジリジリと熱くなり、俺が喉の奥から声を上げる。

 火に包まれて、熱くて痛くて、それでも死ねない。叫び、苦しむ。


「死にたくない、助けてくれ」


 もうこれで何回目だ?

 俺が死ぬのは


***


「ダヴィド様?」


 目の前でアマリスが首を傾げた。


「あぁ、お初にお目にかかります。聖女様」


 俺はやけにリアルな記憶から目覚めると目の前にいる聖女様をじっくりと拝んだ。聖女アマリスはまるで女神様を具現化したような存在だ。

 わかりやすいメインヒロイン様は金色の髪にサファイアの瞳。服装はギリシャ神話の女神様のような白い布を巻きつけただけ……みたいな格好だ。


「ユフィーに聞きました。あなたは女神様を信仰する素晴らしい団体を立ち上げ、この度は闇オークションから多くの少女たちを救ったとか。ねぇ、ジョハンナ」


 馬車の中から遅れて出てきたのは保安局のジョハンナだ。彼女もゲームの主人公パーティーメンバーになる人だ。


「とんでもございません。私たちは女神様の名の下に慈善活動を行なっているだけでございます。普段はこうして、イーゴ家の領地を開拓しひっそりと……」


「教祖様、こんなところでも難ですから中でお茶でも」


 ユフィーがそう言ってアマリスたちを招き入れると、クルネがジョハンナに声をかける。


「ジョハンナ、この前はありがとう」

「クルネ先輩こそ、傭兵になったと聞いた時は驚きましたがまさかこんな素敵なところにいるなんて」

 俺はクルネを雇う時、「モブっぽいし」と思っていたがとんでもなかった。彼女は主人公パーティーのメンバーの先輩にあたる人物だったらしい。


「教祖様、早く早く」


 ユフィーに急かされて玄関から屋敷に入り、応接間へと移動する。中庭から出てきたローミアが聖女をみて目を輝かせ、メイドとなったシュカが慌ててお茶やら菓子やらの準備をする。


 応接間のソファーに座ったアマリスは一口お茶を飲むと、俺を見つめた。

 さすがは聖女、メインヒロイン。美しさももちろんだが、やはりオーラが違う。


「聖女様が直々に我が領地に訪れてくださるとは……」

「いえ、とんでもありませんわ。何せ、マゴアダヴィド教についての噂はこの数日で城中に広まっておりますわ。素晴らしい団体だと……。いわば今回はお礼も兼ねてお近づきになりたいな、と」


 アマリスはそういうと俺とユフィーに向かって微笑んだ。

 この聖女様とは良い関係を保ちつつも、主人公との設定を無くしたいのであまり関わりたくないというのが本当のところだ。


「お褒めのお言葉嬉しい限りです」

「そこで、提案なのだけれど」

「はい」



「私もマゴアダヴィド教に入信したいのだけれど」


 彼女は満面の笑みでそういうと少し照れたようにお茶を飲んでごまかした。だがしかし、俺はこれを拒否しないとならない。


 この聖女アマリスは物語の終盤になるまで主人公を導く存在なのだ。王城の中の聖女の部屋に主人公は次の行き先を聞くというイベントがあるのだ。

 つまり、もしも彼女がマゴアダヴィド教に入信してここに移住してくるようなことになったら……主人公との鉢合わせは不可避になる。


「アマリス様、それはいくらなんでも……あなたはこの国の聖女。かたや我々は民間の小さな教団に過ぎません」

「あら……聖女には自由はないというのね」

 シクシクと嘘泣きのポーズをして見せると、アマリスは悲しそうに眉を下げる。いつもは信者探しに熱心なユフィーもこればっかりは躊躇しているのか、気まずそうに目をそらした。

「そうではございません、聖女様には聖女様を信じる国民たちが多くおります。そんな聖女様が……一つの団体に肩入れするのは問題かと」

 我ながら良い言い訳を口にすると、アマリスは「そうね」と諦めたように言った。


「申し訳ありません。お気持ちだけ……」

「いいえ、お気持ちだけではダメですわ。入信できないとしてもマゴアダヴィド教のお手伝いをさせていただけませんか?」

「それは……ですが……」

 煮え切らない態度の俺にアマリスが被せるように

「事前活動をするもの同士、仲良くしましょうね」

 

 美人にきゅっと手を握られて微笑まれる。その上、その相手は作品のメインヒロインだ。

 俺は首を縦に振るほかなかった。






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