第33話 畑作りとグリコの成長
「よし、こんなもんか」
毎朝恒例、グリコへの魔力チャージを終えて屋敷に戻った俺は久々のノータスクデーに何をしようかと迷っていた。
転生をしてからというものの結構毎日が慌ただしかったし、こうして落ち着けるまで結構時間がかかった。
「そういや、グリコ。ちょっと身長大きくなったか?」
「ん、お兄ちゃんが毎日魔力をくれるから少しずつ傷も癒えているんだ。だから元の姿にもどりつつあるっていうか」
そういえば、身長だけでなく滑舌も子供っぽいものからハキハキしてきたような感じもある。元の姿はきっとあの美人な姿……楽しみである。
「そうか。よかったな」
「うんっ、ありがとう」
ワシワシとグリコの頭を撫でていると、ローミアが
「あっ、グリコちゃん。ここにいたのね。今日はグイーンなしで大丈夫よ」
「グイーン?」
ローミアは俺を見るとぽっと顔を赤くすると「グイーン」はグリコが植物を成長させてくれることだと説明をした。なんでも瞬時に植物がぐんぐん成長するのでそんな擬音をつけているらしい。
「今日はなしって何かあったのか?」
「いえ、今日は畑作業を中心にしようと思っていまして」
「畑?」
「はい、先日ロヨータ村の皆さんがいらしていた時に、屋敷のすぐそばに畑を作っていただいたんです。畑を3つほど耕していただいて……。その上、お野菜の種まで分けていただいたんです。今日は種まきの作業をしようかなって」
そういえば、そんなことをユフィーが言っていたような……。
「ローミア、体調は大丈夫なのか?」
「はい、このお屋敷に来てからすごく体調が良くて……栄養のある食べ物と澄んだ空気、それからユフィーさんが調合してくださる薬草湯が良くしてくださっているのだと思います」
ローミアはそういえば少し頬がふっくらとして、肌の色も健康的になっている。もしも、この世界でも俺が生きていた世界と健康の概念が同じならあとは運動と太陽の光を浴びることだ。
「そうか、よかった」
「はい、よいしょっと」
ローミアは床に置いていた木箱を持ち上げると「グリコちゃんも畑に行く?」と優しく声をかけた。
「うんっ、お手伝いする〜」
グリコは俺のそばから離れるとローミアの方へと駆け寄って行き、くるくると彼女の周りをまわった。ローミアは相変わらず天使のように清らかで見ているだけで癒されるな。
「俺も手伝おうかな。今日は予定がないし、ローミアだけじゃ大変だろう?』
「良いのですか? ふふふ、ダヴィド様と一緒に畑仕事ができるなんて嬉しい。ちょっと待っててくださいね、お姉ちゃん! ダヴィド様用のエプロンとブーツはあったかしら?」
ローミアの声に2階からシュカがすっ飛んでくる。シュカは彼女が持っている木箱を取り上げると俺に押し付けた。結構重くて、シャカシャカと音がすることから中に大量の野菜の種が入っていることがわかった。
「ちょっと待ってて。すぐに持ってくるから。あとローミア、畑仕事はいいけど無理はしちゃだめ。私と約束して」
「わかってるって。お姉ちゃん、ダヴィド様に押し付けちゃ悪いわ」
「あぁ、いいよ。力仕事は俺が。シュカ、頼んだ」
しばらくしてシュカが俺用の農業エプロンとブーツを持ってくると、俺はさっと身につけてローミアのあとを追った。屋敷の裏口から出て少し歩いたところ、ついこの前までは草原だった場所に立派な3つの畑ができていた。
村人が置いていってくれた農作業用の道具は屋敷の倉庫にしまってあり、準備もバッチリだ。
農業なんて幼稚園の芋掘りくらいしかやったことないけど、こうして可愛い子とやるならすごく楽しめそうだ。
「お待たせしました。えっと、やっぱり主食のじゃが芋は多めに使いたいですね。そっちの畑はじゃがいも用で……あっちは季節のお野菜にしようかな」
「じゃがいもってこれが種なのか?」
木箱が変に重い原因はじゃがいもだった。というのも、芽が生えて食えそうにないじゃがいもが何十個も入っている。そりゃ重いわけだぜ。
「じゃがいもは他のお野菜と違って『種芋』を植えるんです。ふふふ、知らなかったですか?」
得意げなローミアがめちゃくちゃ可愛いのは置いておいて、俺は普段から食べているものがどうやって作られているのか知らなかった。
「あぁ、知らなかったよ」
「トマトには支柱を立ててあげる必要があったり、水やりが苦手なお野菜もあるんですって。私も本で読んだだけですけど……楽しみです。さ、ダヴィド様、頑張りますよ〜!」
農業は単純作業の繰り返しだ。種芋を穴に放り込んで土をかける。手元に無くなれば木箱のところまで取りに行く。田舎のおじいちゃんおばあちゃんが腰が曲がっている理由がよくわかる。
——これは腰がイカれてしまう……!
なんとかじゃがいも畑を作り終わった頃、俺は汗だくで足を広げて座り込んでいた。ひさびさすぎる肉体労働、ただでさえ魔法使い型の俺は体力がないのだ。明日の筋肉痛が怖い。
「教祖様〜、お昼ができましたよって……すごい! やっと完成したんですねっ」
呼びに来たユフィーが完成した畑を見てパチパチと手を叩いた。ローミアも汗を拭いつつ「はいっ」と返事をする。
「じゃあ、グリコちゃん、グイーンしてくれる? そうだなぁ、今日は収穫までは難しいからちょっとでいいよ」
「はーい、いっくよ〜!」
グリコは可愛らしくガッツポーズをするとぎゅっと目を瞑る。そして一気に手をグーのまま天に掲げる。
「ぐいーん!」
すると、グリコの体からキラキラと光の粒が噴き出して当たり一体に広がった。それは畑全体に降り注ぎ、みるみるうちに可愛らしい芽が顔を出したのだった。
「うぃ〜、グリコつかれたぁ」
魔力を使ったのかヘロヘロのグリコはユフィーに抱っこされるとぐるるるとお腹を鳴らす。
「ちょうど良かったです。シズカさんがお昼を作ってくれましたよ! なんでも忍の国では有名な【おにぎり】だそうです! 皆さん、行きますよ〜!」
それは最高だ。
俺はさっきまでの疲れはどこへやら嬉々として食堂へ向かうのだった。
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