第27話 ジョハンナも防具がほしい!
「え〜、グリコはお留守番なの?」
「そうだ。シュカとローミアを頼む」
「はーい」
可愛らしい幼女にかけるべき言葉ではないかもしれないが、実際グリコが本気を出せばこの2人を連れて逃げるくらいはできるだろう。何から逃げるかはわからんが。
「あの、ダヴィドさん。これを」
ローミアは小さな巾着袋を俺に差し出すと恥ずかしそうに目を伏せる。手に取ってみると爽やかなシトラスの香りがした。
「ありがとう、これは?」
「お守り……です。シトラスとコロコロハーブっていう安眠に効果のある香草を乾燥させていれていて……。ほら、もしも旅先でよく眠れなかったら魔力が回復せずに大変なっちゃうかな。なんて」
天使。
ローミア、可愛い……。この子はゲームには登場しない人物だが、出会えてよかった。さすがに天使すぎる。
「ありがとう、ローミア」
「ちょっと、あんまり妹を変な目で見ないでよ? それに、案を出したのは私なんだから」
このツンデレ姉もまた良いのだ。シュカはこうやって直接話すとツンケンしているし、俺に唯一タメ口で話してくる人間だがそれもすごく心地が良い。彼女は見えなところで努力するタイプ、屋敷がピカピカなのは彼女のおかげだ。
「はいはい、シュカ。俺たちに何かあれば頼んだぞ」
シュカの表情が少し強張る。けれど、すぐに彼女は不敵な笑みを浮かべた。
「別に、そうしたらこのお屋敷は美味しくいただくだけよ。せいぜい頑張りなさい」
「いってくる」
***
今回も聖女の部屋にやってきた俺たちは、アマリスから聖女の祝福を受けた。聖なる力っていうのはすごい。魔力が少し増すような、清らかになっていくような感じがしてくる。
「そうだ、貴方たちの出発と同時に領地に行くつかの住居を立てる手配をしておきました。ロヨータ村の村人たちの移住にあたって仮の住居をね」
「ありがとうございます。お支払いは」
と俺が言うとアマリスはぐっと俺に近寄って耳元に唇を寄せると
「いいのよ、私がシたいんだもの」
と意味深なセリフと共にもう一度チークキスをした。
「あぁ、ありがとうございます」
「ダヴィドさん、みなさん。お気をつけて」
アマリスがそういうとクルネが少しだけ悔しそうに「お気をつけて」と続いた。彼女はジョハンナと交代で今回はお留守番なのだ。
戦闘狂の彼女はジョハンナに譲ったものの、やはり強い魔物が出る場所に向かう俺たちが羨ましいらしい。
「教祖様、ジョハンナさんの装備ですが少し……」
バニー姿のユフィーがジョハンナをジロジロ見て言った。確かに、彼女は騎士服と呼ばれる装備品を身につけているが、正直あまり強くない。というか、中盤の装備ではあるものの、魔法耐性が弱いはずなのでお勧めはしない。
「確かに、買おうか」
と俺がいうとジョハンナは
「申し訳ないです。ダヴィド様には保安局に多大な寄付もしていただいているのに」
そう、保安局の腐敗の話をクルネから聞いた俺はかなりの額を寄付しているのだ。今はまだ上層部の養分にしかなっていないだろうが……後々何かあったときに顔を聞かせることができるのではないか? と思ってのことだった。
「あぁ、それは当然のことさ。この国を守る保安局には感謝も期待もしているんだ。それに、今回のクエストでは強い魔物から一般人を守らないといけない。君の防具も必要だろう? 希望はあるかい?」
騎士服であれば、最上級のものが貴族街のあの店にあったはずだ。ただ、露出度もないくせにクソ高いのでゲーム内ではあまり人気がなかった。けれど、ジョハンナが装備するとキャラボーナスで覚えられる技があるんだったな。
「その……クルネさんと同じものが欲しいです」
——まさかの?!
ジョハンナは過激シリーズ防具を羨ましそうにみるとそれらしい理由を口に出した。
「ダヴィドさん、お願いできるかしら? ふふふ、私もユフィーさんと同じバニースーツを買っちゃおうかしら。いつか一緒に私もクエストに行くかもしれないじゃない?」
とんでもないフラグがぐんぐんに立ちそうだったので俺は愛想笑いをしつつ貴族街へと向かった。
アマリスとクエストか。このままじゃまるで俺がFGGの主人公じゃないか。本物はどこで何をやっているんだろう。
グリコを襲った赤い髪の人間。まさか……な。
***
「おや、ダヴィド様。いらっしゃいませ」
例の店に着くと、ジョハンナは子供のように目を輝かせてショーウィンドウの中の武具を見つめた。彼女もまたクルネと同じように戦うことが大好きな子なのかもしれない。
ゲームの中ではあまりパッとしないキャラではあるが実際に動いて目の前に存在していると魅力的だな、と思う。
「ジョハンナさんも過激なビキニアーマーですかね。すみません」
ユフィーが店員に声をかけると、店員のおっさんはジョハンナを眺めて何かを思いついたように目を丸くする。
「その騎士のお嬢さんにはとっておきの装備がありますよ。過激なビキニアーマーよりは劣るものの、彼女が装備すれば特別な技を覚えられるかも」
店員が持ってきた騎士服は白銀のベースで「THE 男装の麗人」といったようなデザインだった。すらっと背が高いジョハンナにはよく似合う。さすが女子人気ナンバーワンのキャラだ。
「私、なんだか力が湧いてきます。あぁ、頭の中で技の構想が思い浮かぶっ……!」
——これ、主人公が後半に体験するイベントなんだよなぁ。俺やっちゃったよ
「じゃあ、これを」
俺が金を出そうとするとユフィーが待ったをかけた。
「技が思い浮かんだってことは、このあと過激なビキニアーマーを着ても問題ないってことですよね? 教祖様、どちらも買いましょう。ね、ジョハンナさん。さっ、過激なビキニアーマーに着替えましょうね〜」
ユフィーは不敵な笑みを浮かべるとジョハンナを連れて更衣室の方へと入っていった。
俺は代金を支払い、ジョハンナが着替えるのを待つ。
「あの、私が装備できるものはなさそうでした」
悲しそうに言ったシズカ。そう、忍の最強装備に関しては忍の国にあるこういう店に行かないとならないのだ。
「まぁ、いつかな」
「はい……」
シズカは少し残念そうに返事をしてからキリッと背筋を伸ばす。しばらくすると、更衣室のカーテンが空いて、過激なビキニアーマー姿のジョハンナが現れた。
デッッッ……。
いかんいかん、普段は隠れていたからというギャップで一瞬だけくらつきそうになったが俺はなんとか自我を取り戻して「行くか」と声を出した。
「ありがとうございます! ダヴィド様、私。大事にします」
「あ、あぁ」
ジョハンナは嬉しそうに飛び跳ねると先に店を出ていった。ユフィーが俺の隣に立つと
「教祖様、彼女もいずれは教徒にしてしまいましょう」
と呟いた。
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