第31話 領民GET?
「教祖様、ほんとうにありがとうございました」
ロヨータ村の住民たちが、整備された村へ帰る日だ。俺がバフバッファローの暴走を止めたことで村周辺のモンスターが凶暴化したり大群をなすことはなくなったのだ。もちろん、このまま彼らを無理やり領民にすることもできたが、俺の良心がそれを許さなかった。
「いえ、先ほど説明したようにお井戸様のこと何か異変があったらすぐにでもこちらへ連絡を」
「まさか、そのようなモンスターの恩恵で元気な作物が育っていたとは」
「普段は温厚で人間には害のないモンスターです。なんでも、あの角から流れ出る魔力にはさまざまな良い効果があるとか。みなさんの先祖があの井戸を『お井戸様』と呼んでいたのと深く繋がりますね」
ジョハンナの説明に村長たちは優しく頷いた。
「ちょっとだけ惜しいですけど、あの笑顔を見ると無理にここに住んでとはいえないですね」
ユフィーは少しだけ悔しそうにしつつも、俺の意向を汲んでくれていた。けれど、慈善活動をしていると、この笑顔をもらえる瞬間がとても嬉しいということに気が付く。
転生前は自分勝手な子供だったけれど、少し成長できたような気がする。それもこれも、ユフィーや慈善活動を頑張るみんなのおかげだ。
「教祖様、ロヨータ村長である私から提案がございまして……本日、共に王国へまいりませんか?」
村長はそういうと他の村人たちに先に戻るようにと命じ、自分は俺の屋敷へと向かっていった。
「なんでしょう? お礼とか? もしや、入信したいとかだったりしますかね? 教祖様、ジョハンナさんたちに護衛は任せて私は教祖様と村長さんと王国へ行きます」
「あぁ、頼んだよユフィー」
馬車に多くの村人たちが次々と乗り込んでいく。ある人は期待に満ちた顔で、ある人は少しだけ名残惜しそうに。
それでも、彼らが元通りの生活に戻っていくことは喜ばしいことだ。
「お兄ちゃん!」
ピカが馬車から飛び出して駆け寄ってくると、小さな石をこちらへ差し出してくる。
「これは?」
「これはね、ピカが見つけた綺麗な石だよ。宝物の一つなんだっ。お兄ちゃんにあげる!」
「あっ、でも」
「じゃあ、元気でね!」
ピカはそういうと、馬車の方へと走ってゆき母親の手を掴んで乗り込んだ。俺の手の中には、キラキラと輝く小さな丸い石。小さい頃、河原で拾って集めたような少し乳白色の石だ。
「あぁ、元気でな!」
馬車が並んで走ってゆく。あの笑顔が見られたんだ。領民はまた探せばいいか。
***
「どうぞ」
シュカが俺と村長にお茶を入れて、そっと下がっていった。
「ところで、王国にてお話とは?」
「あぁ、単刀直入に話しましょう。ロヨータ村の敷地をイーゴ家の領地の一つとして欲しいのです。無論、村民である我々はイーゴ家の領民ということになりますな」
「村長、ロヨータ村はどこかの貴族の領地ではなかったのですか?」
「えぇ、川を越えた先はほとんど領地にはなっていないはず。あの辺はモンスターが少し強くなりますし、川を挟むことで管理が大変になりますから。なので、教祖様さえよければですが。申し訳ありません、守ってもらってばかり、我々から教祖様にお返しできるものは何もないというのに」
「ぜひ、そうさせてください。そうすれば何があったときにすぐに我々が助けに迎ええる。そうですね、ほんのすこし旬の野菜をいただければそれで問題ございませんよ」
「それでは、マゴアダヴィド教に入信を?」
前のめりなユフィーに村長は頷いた。
「はい。昨晩、村人全員で話し合って決めました。我々ロヨータ村の人間も慈善活動に励むマドアダヴィド教に深く感謝と共鳴をしています。ですから、ぜひ入信させてください。我がロヨータ村では多くの野菜が取れますから寄付という形で貢献させてください」
こうして、俺は領民どころか新しい領地まで獲得したのだった。良い行いをしていれば自ずと良い方向に向かっていく。
悪役に転生したとは思えない行いだが、平和に暮らせるのであればこれで良いのだ。
——赤い髪の男。まさかな
聖女の水晶の盗難、緑のゴッドドラゴンの力を吸収、バフバッファローの暴走。もしもこれら全てがつながっていたとしたら……?
全てに共通するのは「何かを強くする作用を持つ」ということだ。赤い髪の何者かが、己かまたは何かを強化している?
FGGの主人公、ファイアー。彼はいまどこにいるんだろうか。
「教祖様、行きますよ」
ユフィーに呼ばれて、俺は王国へ向かう準備を始めるのだった。
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