第2話 お金は正義(2)


「ジーナです。えっと、頑張ります。アピールポイントはやわらかい体です!」


 ジーナと名乗った女は銀色のビキニアーマーに白いマント、兜はハチマキ型のテンプルリング。

 顔はたぬき系の美女だが、ゲームの中らしく紫色の髪の毛だ。媚びるような視線を俺に送りつつ、片足をこめかみの近くまで上げて手で支えるI字開脚をしてみせた。むちっとした彼女の色んなところに肉が寄って、近くにいた執事が目をそらした。

 

「よろしい、足を下ろして」

「はい、それから体力には自信があって……ね?」


 ジーナは意味ありげに首をかしげたが、俺にはあまり刺さらない。こうもアピールされすぎるとちょっと引いてしまう。逆に何か思惑があるのでは? と疑い深い俺は彼女を雇う気は失せてしまった。いい脚をしていたけど。


「次」


 ジーナが不満げに後ずさると次はその隣にいた女が一歩前へと出る。


「私はリン。忍びの国出身です。特技は守衛、暗殺、房中術」


 房中術というのは、確かハニートラップと同じ意味だ。忍びの国というのはゲームの後半で主人公が訪れるアジアモチーフの国である。

 リンは白いビキニアーマーにマントはなし。ただ忍びらしく口元はマスクで隠している。兜もなく黒髪をぎゅっと後頭部で結い上げ、目元はキリリとした猫目。

 先ほどのジーナに比べるとかなりの痩せ型で、背も低い。


「アピールポイントは?


「それは今まで暗殺した人数でしょうか」


 ぎらり、彼女の目が光った。これは冗談が通じないタイプだ。日本モチーフ出身の女の子は大変魅力的だが、最初のパートナーにはクセが強すぎるような。


「次」


 次に出てきたのは、内股でブルブルと震えているピンク色の髪の女の子だ。水玉模様のビキニアーマーにウサ耳バンド。おそらく初期装備。


「ニナです。昨日、傭兵になりました。その……枕営業ですかぁ?!」


 アホの子である。

 さすがに異世界初日で初心者ドジっ子属性アホの子傭兵を連れて歩くのはフラグすぎるので却下だな。


「違う、次」


 ニナがミスター・クレイブに部屋から追い出されると、最後の1人が一歩前へ出る。

 

「クルネと申します。傭兵歴は4年。剣術・弓術、そして魔法が少し使えます。それから、私は色気などでアピールすることはございません」


 水色の髪をツインテールにした彼女は、冷静沈着。美人でスタイルも良いが筋肉がしっかりとついている感じなので実力者なのだろう。何より、他の傭兵候補が俺が求める「色気」を汲み取っていたにもかかわらずクルネはそれをあえて跳ね除けたのだ。


「では、色気以外でアピールすることは?」


 俺がクルネに興味を持つと、ジーナがクルネを睨みわざとらしく俺に見えるように前屈みになって胸を寄せた。

 やればやるほど下品になるというのに、彼女はよくわかっていないようだ。


「色気以外……とは?」

「言葉の通りだ」

 クルネは眉間に皺を寄せ、自分の体を胸、腹、脚という順番に見て首をかしげた。

「平均以上かと……」

「いや、俺が聞いているのは特技だが。料理とか掃除とか土いじりが好きとか。誰も体付きについては聞いていないが?」

 クルネはかぁぁっと効果音が出そうな程真っ赤になると「ありません」とつぶやいた。

「今回、我が領地を開拓するにあたって、採用になった際には傭兵として常に俺のそばにいてもらうことになるが問題はないかな?」

 クルネは真っ赤な顔のまま「問題ありません」と返事をする。必死にクールを装おうとするも自爆した恥ずかしさで震えている。

「ミスター・クレイブ、クルネを採用しよう。即日だ。契約金はいくらかな?」


 ミスター・クレイブはニヤリと笑うとクルネ以外の傭兵を部屋の外に出してポケットから丸まった羊皮紙を取り出した。


「ダヴィド殿。女傭兵をとのご提案だったので、てっきり夜の方も得意なものをご希望かと思いましたが、やや。驚いた。クルネは夜の方はめっぽうダメですが、戦いの実力は折り紙付きですぞ、こちらに」

「いや、そういった経験がないほうが良いが」

「では彼女で問題ないかと、契約金の40万ゴールドと前払いで彼女に3日分の手当て12万ゴールドを」


 クルネは、金と契約書を確認すると俺の前に立って


「よろしくお願いいたします。ご主人様」


 と凛々しく言った。

 冷静沈着でクール、その上媚びない姿勢がいい。けれど、ふとした時に見せる「デレ」はまさに破壊力抜群。最初から好感度MAXで抱ける女なんて面白くないのだ。


「クルネ、どうぞよろしく」


 俺の1人目のパートナーは、金に物を言われて速攻で手に入れてやったクーデレ(多分)のクルネに決定したのだった。

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