1章 拠点のつくり方

第1話 お金は正義(1)


「とはいったものの、どうするか」


 教団を早々に解散宣言をしてみたものの、まずは転生した時間軸の状況を確認しなくては。 

 そもそも、俺がプレイしていた時はわりとこの辺サクサク街の人の話を聞かずにすすめてたもんだからな。


「とりあえず、家の場所はわかるからまぁいいか」


 城下町は貴族街、平民街、スラム街に分かれていて、ダヴィド・イーゴの屋敷は貴族街にドカンと建てられている。 

 悪役らしくゴテゴテした豪華なシャンデリアや趣味の悪い花柄のソファー。ゲームにあまり映らないところなのによく作り込まれているな。


 家の中に入ると自然と足がとある部屋へと向かう。まるでテレビで紹介されている豪華なホテルスイートルームのような広さで、ベッドはバカみたいに大きい。その上、部屋の中には猫足のバスタブ。

 どうやら自分の寝室のようだった。


「さすがに、しばらくはこの街を離れて生活したほうが良いよな」


 デスクの上にあった、古い地図のようなものを手に取ってみるとそこにはイーゴ家の領地について詳しく記されていた。城下町から結構離れたところに広がる土地は、この地図がちゃんとした寸法でできていたとすれば城下町の2倍ほど。

 ゲームの中では歩いて行けそうな距離だが、実際にはどうだろうか。車も飛行機もないのを考えると……


——いや、俺には金がある!


 次に必要なのは、従順なパートナーだ。

 けれど、すでに関わりのあるメイドや知り合いを連れていくと、死亡フラグにつながる可能性も考えられるので、可愛いメイドもいるが名残惜しい。


 こういう転生モノではテンプレとして「従順」で「可愛い」、そして「絶対的な信頼を寄せてくれる」といえば……奴隷という属性である。

 転生した主人公が、ひょんなことから奴隷の少女を救って……みたいな流れで好感度MAX、ハーレム初期を支えるヒロインに。


「いやいや、FGGの主人公はスラム街出身。今は近づかないほうがいいな」


 となれば奴隷は一旦候補から外すとしようか。

 では、俺を支えてくれるパートナーをどこで探す?


「こういう世界設定なら……、ちょっといいかな!」


 手を叩くと、執事がすっ飛んできて部屋に入ってきた。


「はい、ご主人様」

「この辺で傭兵を雇えるところはあるかな」

「はい、貴族街ですとミスター・クレイブの傭兵施設がございます。人間・亜人・エルフまで品揃えは城下町1番。ですが、ご主人様どうして傭兵を?」

「あぁ、しばらく領地の面倒を見に行こうと思ってな」

「左様でございますか。ではミスター・クレイブに連絡を」

「すぐに向かうよ」

「いえ、ご主人様。傭兵を用意させて呼びつけになっては? わざわざ旦那様が出向く必要はございません。どのような傭兵をお好みで?」


「女の傭兵で……人間。強さよりも誠実さ重視。それから、見た目が良いほうがいい。しばらくは連れて歩くことになるからな」

「かしこまりました。では、しばしお待ちくださいませ」


 傭兵施設まで呼び出せるとは、思った以上にダヴィド・イーゴは金を持っているらしい。

 大体のことが金で解決するはず。その上、このキャラは腐っても序盤のボス。戦っても強い。となれば……、しばらくは金の力を使って好き放題しようじゃないか。


***


「ご主人様、お待たせしました」


 しばらく待っていると、ドアの向こうから声がかかった。廊下には複数の気配。どうやら傭兵候補が来たらしい。


「入ってくれ」


 ベッドに腰掛けたまま、品定めをする背徳感にゾクゾクしながらドアが開くのを待つ。使用人の後に続いた男は、ミスター・クレイブと名乗った。中年の親父で彼も元傭兵なのか片目が潰れていた。


「この度は、我が施設をご利用いただきありがとうございます。さて、ご希望通り傭兵候補を連れて参りましたよ」


 俺は期待通りの状況に心をおどらせる。


——そう、このゲームでの「女傭兵」は……ビキニアーマーなのである!


 4名の候補は全員、セクシーなビキニアーマーにマントをつけた姿だった。装備品は初期の街らしくあまり強そうなものではないがそれがまた露出度が高くて良い。


「では、1人ずつ。自己紹介とアピールポイントを。ちなみに、採用する傭兵はまず半月の間に俺の護衛としてイーゴ家の領地開拓に参加してもらう。報酬は1日4万ゴールド」


 ミスター・クレイブが目を丸くする。


「4万ゴールド⁈ 1ヶ月分の報酬ですぞ。それを1日で⁈」


 終盤の武器の価格で換算したがちょうど良い金額である。となれば、傭兵候補たちの目もぎらりと光る。顔も良い金もある、貴族で領地も持っている……となれば考えることは一つ。

 永久就職である。


「では、そちらの方からどうぞ」


 俺は最初の傭兵に声をかけた。






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