23
再開された会合において主に話の中心となったのは「領域内での供物及び人間たちの信仰力の減少」だった。
近頃は妖人を信仰し、供物や祈りを捧げるという行為が著しく減少している。
人間たちの信仰によって妖人は「神」としての力を得る――その結果、加護を与えることも叶わず不作や災害などが多発しているという悪循環が、桜華国全体で起きているとのことだった。
会合が終わった後も興奮冷めやらぬようすで妖人たちが顔を突き合わせて話しあっていた。
「とはいえ、人間の前にむやみやたらに姿を
「【夢渡り】ぐらいが妥当じゃないか?」
夢渡り――聞き慣れない言葉にぱちぱちと瞬きしていると隣にいた天青がぼそりと教えてくれる。
「人間の夢の中に介入して、その者に自らの存在を刻みつけることを【夢渡り】というんだ」
「なるほど、そうすることで控えめながらも供物を寄越せ、信仰せよなどと要求できるんですね! もしかして、天青さまも里長のところに供物と信仰を催促するために【夢渡り】を?」
その結果、玉藻が花嫁として紅葉で紅に染まる水津ヶ淵に沈むことになったのか――そんなふうに納得していると、それは誤解だと苦々しげに天青が言い返してきた。
「私はあの愚者におまえを水底に寄越せ、と要求していたわけではない……あやつの家はいつも勝手に里の娘を贄に選んで、儀式と名付けた胡散臭い芝居を打って淵に突き落としてきた。毎度、それを死なせぬように拾いに行く此方の手間を考えもせずにな」
どっと疲れた、と言わんばかりの顔つきの天青を見ながら玉藻は苦笑した。
「そ、そうでしたか――お手間をおかけしまして」
「いや、構わん。【夢渡り】は対象となるモノと心身を同調させる必要があるんだ……あんな醜悪な
胸を押さえながら顔をしかめる天青を宥めていると、ふと、玉藻がかつて見た夢のことを思い出した。
水津ヶ淵に佇む玉藻に男の声と女の声が語り掛けてくる――甘く優しく穏やかな声音で、淵へと誘うようなその夢。
「天青さま、あの」
もしかして、私に【夢渡り】をしたことがおありですか。
そう尋ねようと思ったところで、背後から何者かがのしかかって来た。ずし、と背中に柔らかな身体が当たる――どうやら女性のようだ。ふわりと焚きしめた香の甘いにおいにくらくらした。
「のう、玉藻。妾はおまえが気に入ったぞ。どうだ、蛟のところなどやめてうちの社殿に残っていくがよいぞ。うちは天青とは違ってジリ貧ではない……何もせずとも有難がって浄土に行きたい者共が供物を置いていく、豊かな領域なのじゃ」
「
抱き着いてきたのは、この社殿に住まう女であり、会合の主催者のうちのひとり、鸞であるようだ。
むぎゅっと抱き着きながら、鸞は玉藻だけに聞こえるような声音で囁いてきた。
「うちの主、鳳のやつがもう少しおまえと話したいようでの……おぬし自身が忘れている『出自』について、少しは話してやれることがあると思うぞ」
「っ、私の……」
玉藻は幼いころに水津ヶ淵に流れ着いた得体の知れない子供として里で迫害され続けていた。「外つ国の血が入っておるのだ」と考えている者が多かったようだが――この会合の主催者である鳳、彼女の目の色が自分とおなじであったことが玉藻自身気になっていた。
だが――それでも。
「申し訳ありません、鸞さま」
自分から鸞から距離を取ると、姿勢を正してまっすぐに向き直った。
「私は、天青さまのお傍にいたいのです。花嫁ですから」
「……ふむ、先に蛟を始末する必要があるようじゃな。天青、いずれこの子を奪いに行くぞ」
「それを私が許すと思うのか」
玉藻を引き寄せ、天青は鸞を睨んだ。
大きな袖で口元を覆い、鸞は「おお怖い」と心にもないことを言った。
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