第17話 制裁
「な、なにして、おい宮田......お前、なに」
副部長が震える声で部長へと声を掛ける。ちなみに宮田とは部長の名前だ。
「男にはやらなきゃならない時があるのさ。そう、例えばこうして愛する人を守るため戦うと誓った時とかな?」
うおおおお、ドストレートにキモい!?そうドン引きしていると部長が俺にウィンクしてくる。いやいやいやいや馬草もヤバいけどこいつもヤバいな!?心なしか見る目が変にやらしいし!?生理的に無理だわこいつ!!
「惚れたんか宮田!?あははは、ウケる!!」
爆笑する部長の後ろの女子二人。いや、ウケねえよ!と言わんばかりの視線を向ける他の部員。
とくに楽器を持っていた三人は唖然として傍観していた。それはそうだろう。だってこれ、傷害事件だもの。
これが外に知れれば活動停止、ここでのバンド活動ができなくなる。
「お前、どーするつもり?宮田......謹慎まであるぞ」
「いや、ねえな」
「は?」
ぐいっ、と馬草を起こした部長。
「お前が悪いんだぞ馬草。青山は嫌がってただろ」
「い、いや、だって」
「だって、なに?」
冷たい目の部長。馬草は全てを察する。どんな返答でもダメだと。彼の求めるのは正論よりも肯定だということ。
「ご、ごめんなさい、スミマセン」
「うん、素直な奴は好きだよ。それじゃ青山に土下座して謝って」
(......え?)
震える体で馬草は俺に土下座をした。
「......す、すみませんでした」
部長が馬草の頭を掴む。そして、床に押し付けた。
「悪いな、青山。こんなもんで許してやってくれ」
にこっと微笑む部長。いやサイコパスかよ。この部長って馬草と違うベクトルでヤバい奴だったんだな。知らなかった。もう近づかないようにしよう。
周囲を見ると部長に部員達は皆ドン引きの顔をしていた。
「......あ、えっと。それじゃ、俺はこれで」
俺は逃げるように部屋を出る。
あの部室にはもう行かないどこう。そう心に誓った。
(サイコパス、マジこええ......)
俺はこれ幸いと逃げるように部屋を出た。
――
「......おい、宮田もうやめろ」
ぱっ、と手を離す宮田。すると床に転がりぐったりとする馬草。
「ま、馬草、保健室いこうぜ」
そう言い肩をかそうとした馬草の友達、平田の肩を宮田は掴んだ。
「保健室は良いけど、怪我は転んだで通せよ?」
「え」
「じゃなきゃお前もこういう風に転ぶことになるかもな」
「え、あ......は、はい」
ガラリと扉を開い馬草と平田、そして田代が出ていった。
「ふはっ、はは!なにマジでどしたん宮田」
「さっきも言ったろ愛する人がやられたらやりかえす。それだけだ」
俺は聞く。
「その愛する人ってのは、青山の事か?」
「あたりまえだろう。あれは輝くダイヤの原石だ。馬草なんかのクズに壊されてはたまらないからな」
ダイヤの原石。前からずっとこいつは運命の人を探していた。それがついに見つかったのか。
どうでもいいが無駄に詩的な表現が絶妙にキモいな。
つーか、前々から思っていたが......こいつ頭おかしいよな。
心置きなくバンド練習できるから入ったが、じゃなきゃこいつとは関わりたくないまである。
「お前は青山をどうしたいんだ?付き合いたいのか?」
「付き合う?いいや」
あ、違うのか。意外だ。でもまあ、元が男だしな。愛するとは言っても付き合いたいとかじゃないのか。
「あれはもう俺のモノだ」
いやもっとやべえ感じだった。
「お前、やめろよ。変なことして活動停止とかになったら恨むぞ」
「はは、頭の硬い眼鏡はこれだから。俺は愛する人の嫌がることはしないさ。馬草じゃあるまいし」
「?、それじゃあ」
「必ず心を射止めてみせる」
青山......ご愁傷さまだな。かなりヤバい奴に目をつけられてしまったみたいだ。
まあ、でもわからんでもないか。あいつ容姿を男っぽく作っていたが、かなりの美形だったし。
多分フツーに化粧とかしたらかなりの可愛さなんだと思う。
(......そういえば、あの顔どこかでみたことが)
いつだったか、あの顔を見た気がする。どっかで偶然会ったか?
いや、あれだけのルックスなら街で合えば覚えているはず。
それじゃあ......。
「あれ?ちなみに青山は軽音部いたときは何をやってたんだ?」
俺が聞くと宮田の後ろの女子、牧が答えた。
「あー、ギターボーカルやりたいって入部したんだよね、確か。まあ、馬草と宮田のせいでギター壊されてやらせてもらえなかったけど」
「壊されて?」
「まあ、いじりの範疇てか遊び?」
まえまえから思ってたけどこいつらはシンプルにクズだな。つまりは青山はいじめられていたのか。
しかし、ギターボーカル......歌。
(......歌、ボーカル......そしてあのルックス......)
「......そうか!」
ふと呼び起こされる記憶。あれは数週間前。ピンときた俺は動画投稿サイトYooTubeを開きそれを履歴から探す。
(あった!やっぱり、青山は)
「どしたの?御門っち」
「これをみろ」
ギターの有馬とベースの水戸が俺の携帯をみにきた。他の部員もよってくる。
「?、歌い手のYooTuber......ao?って、あれ?この映ってる奴って」
「さっきの子やん。なんやこれ、歌上手いんかあの子」
「どーなんだろーか。って、はぁ!!?チャンネル登録28万!?」
「え?うおおお!?マジだ!!多っ!!」
「なんっじゃ、こりゃ!?」
「ええ、すごっ......ふつーにヤバない?」
チャンネル登録者、グッドの評価が3.4万。凄まじいな。
「ちょっと御門、音だしてよ」
「そんなに上手いんか!?青山って!?」
「いや、どーやろな。チャンネル登録者が多いからと言って上手いってわけでもないやろし」
「いや、とりあえず聴いてみようよ」
俺は携帯の音をあげた。流れ出した歌とaoの歌声。それまでやいのやいの言っていた女子達は一言も発さなくなった。
それどころか宮田に至っては涙を流し恍惚の表情を浮かべている。
(気持ち悪すぎだろ、と思ったが......正直、気持ちはわかる。彼女の歌声は感情を揺らす)
――これほどまでに高いレベルの歌唱力を、俺は他に知らない。
「すごいな。これがまだ学生というところが、化物染みている......」
「いやホンマに。......なあ、彼女ウチのボーカルにせえへん?有馬がよかったらやけど」
「.....いや、むしろお願いしたい所だね。音も全然外さない、リズムも良い、声の伸び、感情表現、あらゆる技術が高いレベルにある。彼女をウチのバンドに引き入れる事ができたら、このゲームは勝確......」
ギターを抱きしめながら有馬が言う。彼女は人を褒めることは滅多に無い。それこそプロクラスの奏者に対してでしか、俺は有馬の賛辞を聞いたことがない。つまりこの青山って奴はそれほどヤバい奴ってことか。
「こんど会えたら誘ってみよう」
彼女はウチのバンドに是が非でも欲しい。
(......いやまてよ?連絡先なら元同級生の馬草が知っているかもな。後で聞いてみるか......?)
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