第51話 近いな
――ガラッ、軽音部の扉が開かれた。
現れたのはこの軽音部部長である宮田国広。
「よお、御門。それと水戸に有馬......」
「こんにちはぁ」「......こんにちは」
水戸と有馬が挨拶を返し、俺も片手をあげた。
「珍しいな、宮田。ここ最近ずっと部室に来てなかったのに」
「ん?ああ、結が来ているかと思ってな」
「結?」
「青山の事だ。今日は来てはいないのか?」
「今日はっていうか、あいつは軽音部では無いしな。どうした?何かようか?」
「いや、なにちょっとした事だ。気にしないで良い」
宮田は青山に固執している。けれど、あの日ここで起きた暴力事件以降、こいつが青山に近づいたという話は聞いてない。
というか俺も宮田の事は危険視していたから近づかないよう出来る限り見ていたが......これは青山に連絡入れたほうがいいな。
つーか、結って結人だから結?ドストレートにキモいな。驚きすぎてスルーしそうになったぞ。
「ところで誰か青山の連絡先は知らないか?」
聞かれて水戸と有馬は首を横に振った。
「御門、おまえは?」
「俺も知らない」
なるべく青山に近づけない方が良い。何が目的かはわからかいけど、そんな気がする。
「そうか......わかった。邪魔したな」
そう言って部室から出ていこうと扉を開いた。が、その足は廊下へと向かわずぴたりと立ち止まる。
「?」
バンド練習を再開しようとギターストラップを肩に掛けた有馬、髪の毛を縛り直した水戸が不思議そうにそちらを見ると、宮田は後退りするようにまた教室へ戻ってきた。
「え、おい、どうした......?」
しかしすぐに気がつく。宮田がなぜ帰らず再び戻ってきたのか。
「ゆ、結......!」
なんと偶然にも青山が現れたのだ。
「み、宮田先輩」
タイミングが悪すぎる。
「......ッ」
「えっと、こんにちは?」
青山が宮田へ頭を下げた。しかし、どういうわけか宮田の方は挨拶を返すどころか微動だにしない。あいつの事だから、「結!待っていたぞ!!」とか「今日も可愛いなぁ!!」とかハイテンションで詰め寄るものかと思ったが......。
困惑する青山。だがその時、彼女はふとあることに気がついた。
「あの、御門先輩」
ちょいちょいと手招きする青山。
「どうした?」
駆け寄る俺に青山は宮田の方へと視線で誘導する。
「......気絶してる?」
「「は!?」」
水戸と有馬が驚愕の声を上げ二人も寄ってきた。水戸がつんつんと宮田の額をついたが全く反応が無い。水戸はつついた指を念入りにウエットティッシュで拭きながら「ほんまやぁw」と爆笑し始めた。
有馬は睨みつけるように見て「なんなんだコイツ」と訝しむ。
こうなってはもはや青山になんの用事があったのかもわからないな。害はなさそうなのでとりあえず放っておこう。
そういえば青山はどうしてここに?ふと疑問が浮かんだとき、有馬が彼女にちょうどその質問を投げかけた。
「青山はどうして部室に来たの?」
一歩二歩と有馬は青山に歩み寄る。彼女は目が悪くかなりの至近距離でしか人の顔を判別できない。とはいえ、声で誰が誰だかはおおよそ理解できているみたいなんだが。
「いや近い近い!有馬顔、近いから!」
「だって見えないし」
「いや、そんなに見る必要無くないか......」
「あ、ふーん。そっか、そんなに嫌がるんだ。悲しいな」
「まてまて、人聞きが悪いな?嫌がっては無い。ただ近すぎると危ないだろ」
「危ないって、なにが危ないの?」
「何がって......鼻先が触れてるし、色々周囲に誤解されかねないでしょ」
「誤解ってどういう誤解?なんの誤解かな?」
「いや、それはほら、その......」
有馬はにやにやしながら青山の反応を楽しんでいる。人と関わることが苦手で、人間関係は面倒だとよく言っていた彼女。しかし青山だけは特別なようでこうして積極的に仲良くなろうと近づいていく。よほど気に入ってるようだな。
「いいよいいよ。確かにそーだね。好きでもない相手と誤解されるのは良くないか......」
「な、なにその言い方」
「だってそうでしょ?遊びに誘っても全然つれないし」
「いやほらそれはバンド練習があって」
「でもこの間はバンドの人たちと練習じゃなくて遊んだんでしょ?」
「あ、まあ。それあれか燈子から聞いたの?」
「さあねえ」
「はあ。......わかった、今度こっちから遊びに誘うよ。だから許してくれ」
「まじで!やったぁ!てーか、ため息つかないでよ」
「......あ、はい。スミマセン」
いや、なんだこのカップルみたいな会話は......。
「なははは、なんや二人共カップルみたいやなぁ〜」
水戸も同じこと思ってた!
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