第50話 輝く



頭に血が上ると抑えが効かない。昔からの悪い癖だ。いや、悪い癖というレベルじゃないな......もう病気の域かもしれない。だが、いい加減なんとかせねばお前の側に居られなくなるな。


――部屋の中、鳴り響くロックバンドの演奏。


俺、宮田国広は拳の古傷を撫でながら、YooTubeのライブ配信を眺めながらぼーっと考えていた。


「やはり、良い。麗しく可憐な容姿、言の葉は凛とした音色で彩られ、さらには庇護欲を掻き立てられるこの乙女の恥じらい......これはアイドル界の頂点に立つ器」


流石は青山結人。俺が見つけたダイヤの原石だ。いやもう殆ど完成されているからもうダイヤだ。それも特大のな。素晴らしい.......眩い輝きを放っていて、俺の目は潰れる寸前だよ。

お前というやつは。ホントに恐ろしい女だよ......しかしこれはもうサングラスかけないと見られないレベルだぞ。なあ、青山結人。


「ふふっ」


しかしそれだけに勿体ない。この【Re★Game】とかいうバンドに彼女が所属しているという事が。

青山の才能はアイドルで完全な輝きを放つというのに。その美しい肢体で舞い踊るダンス、そうだ汗を振り撒き全身で表現することで青山の美しさはより完成される。


バンドではだめなんだ。確かに歌は上手い。正直初めて聞いた時は昇天しかけた。危なかった。危なく階段を転げ落ちそうになったよ。それほど感動したんだ。まあ膀胱の制御がきかなくなり股間を濡らしてしまったがな。嬉ションするのってこういう感覚なんだろうか......。


しかしだからこそ、アイドルが良い。彼女の表現力は声、歌唱力だけにあらず。おそらくはダンスをすることにより、より幅が広がると思われる。


なに?青山のダンスをみたことがあるのか?下手だったら?だと?

馬鹿めが!下手なら下手でいいのだ!必死に踊る姿が心を撃つのだろうが!想いとは、伝えようとするその行為に表れ心を揺らす!

そして努力をし、段々と力をつけていく!「あー、あの歌はうまいけどダンス下手な人?」から「いやほんと上手くなったなぁ!努力してきたんだなぁ!」へと周囲の見る目が変わっていくカタルシス!そこにある青山の歩む道、濃厚なストーリー!!


やがては事務所内で「あんた目立ちすぎ」だとかライバル的先輩からの妬みや僻みがでてくるかもしれない。もしかしたら所属した日からあるかも。けれど、それすらも己の糧に悔しさをバネにし天高くへと彼女は、青山は飛翔するだろう。


彼女の歌声には尋常でない努力の跡が見える。だからこそ、できる!!アイドル界の頂へと駆け上がる、それだけの力が備わっている!!

俺には見えるんだ、あいつの背にある白き翼とカリスマ的オーラが!!


青山、なんという逸材なのだ......は!そうだ!青山という呼び方ではマズイぞ!今更ではあるが、結人という名前は男のイメージがやや強い!

やはりアイドルとなるなら可愛らしいそれっぽい名前をつけねばならんだろう!


しかしどうする。青山、結人......まったく関係ない名前にするのも嫌がられてしまう気がする。

結人......結、人......結?


「結ちゃん!キタコレ!」


なんの捻りも無い。だがしかし、シンプルイズベスト!可愛らしく彼女に相応しい!

これからアイドルとなり多くの人を結びつけることになる彼女にこの名前はかなりマッチしてるんじゃないか......!?


「国広」


「むっ!?親父」


振り返ると扉を開け佇む親父がいた。


「ノックをしてくれ」

「いや十回以上ノックしたんだが」

「え、マジで」

「ああ、マジだ」


全然気がつかなかった。最近は青山.......あ、結か。結の事を考えていると周囲の音が全く聞こえなくなる事が多くなった。これがアスリートでいうゾーンに入るという事なのかもしれない。全く、あいつは俺をどんどん新たな世界へと導きやがるぜ。


「ところで親父、なにか用なのか?」

「ああ、うん。これ、お前あてに手紙がきてるぞ」

「これは!」


俺はその手紙を手渡され、思わず目を剥いた。なぜならその手紙の差出人は大手アイドル事務所ラブリープロジェクト、通称ラブプロからのものであったからだ。


ラブプロとは数年前にメイン戦力であり世界的人気アイドルであった五人グループ、【マジデマジかなマジカルズ】という通称マジマジを生み出した超大手の事務所だ。


ちなみに今はもうそのマジマジも相次ぐメンバーの脱退でついにはのこり一人となってしまっていた。このままではグループ存続の危機。残った一人もモチベが下がりまくり、Pwitterでの投稿でも『つかれた、一人は寂しいよ...』と投稿し消すなど危うい行為が目立っている。


事務所もヤバいと感じ始めたのか、そんなわけで先月、緊急的にメンバー募集が行われていたのだ。


先月、ね。


そう......皆様はもうおわかりですね?この手紙がなんの手紙か。


俺は手紙、もとい封筒の縁を切り開いた。


中には数枚の用紙が入っており、俺は目を通す。一枚目に書かれている文言に俺の口角が引きちぎれんばかりに上がる。





『【マジデマジかなマジカルズ】二次審査のお知らせ』




先月、マジマジのオーディションに送っていた合否結果である。書類審査、通ったよ......結。


これは結に知らせてお祝いをせねばならんな。なんとめでたいことか。

まあ、結の魅力ならば合格するのは当然という気はするが。なんにせよ、めでてえことには変わりない。ちょーめでたい。


さて、あとは結に知らせて二次審査を受けて貰わねばな。




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