第49話 トラウマ



――ど、どうして......こうなった?


暗い部屋、携帯の灯りだけが俺、馬草亜空の顔を照らす。


(......あお、やま......まさかあんな奴に、こんな)


校舎裏、俺を見下すあいつの目。宮田とも誰とも違う。あんなやつは今までに見たことがなかった。

あの冷酷な瞳、表情......思い出すだけで震えがくる。


未だに吐き気が込み上げる。


気分が落ちていく。


怖い、怖くて仕方がない......。


落ちても落ちても、終わりがない。


暗い暗い、あいつの瞳。


「うっ、お......はっ、はぁ」


口を抑え、吐き気を止める。


思い出さないようにしようとすればするほど、蘇るあの光景。


跪き、赦しを乞う......泥と血にまみれた、俺。


それを見下ろす、あいつ。


俺は、なんで......こんな目に合ってるんだ?そもそもどうしてあいつをいじめていたんだ。


「ああ」


思い出してきた......青山結人、あいつを最初に見た時思ったんだ。


――ああ、こいつムカつくな、と。


高校入学時、初対面であいつの事はなにも知らなかったが、妙に癇に障って仕方がなかった。その笑顔や雰囲気、誰がと会話している声すら。


「なあ、あいつムカつかね?」

「え?あいつって......青山?」


平田が少し驚いたような顔で聞き返した。それに反応した田代が笑いながら言った。


「あー、あいつな。なんか音楽するらしいぜ」

「音楽?」

「クラスの連中が言ってた。軽音部に入りたいとかって。まあ、だからなのかな」

「なにが?」

「いやほら違うクラスなのに黄瀬と仲いいっぽいから。やっぱ音楽やってたら女にモテんのかね」

「あいつあの黄瀬と仲いいのか......」


田代は噂話が好きだ。だから色んな奴と交流があり、こうして色んな情報をくれる。


「ああ、あいつバンドやるのか」


平田がぼーっとしていた。こいつは逆に人と接するのが苦手なタイプ。根が臆病なのでいつも俺の意見に同調する。居心地が良いからつるむようになった。小さな頃からずっとそうだった。当時平田は親の影響かなにかでドラムを習っていたが、俺がゲームするから来いと言うと簡単にその習い事を放棄し来た。


「どうした平田?またバンドしたいか」

「あ、いや......そういう訳じゃ」

「あれれ〜?平田、もしかしてバンドでモテたいのかぁ?」

「ち、ちげえよ!」


いじられる平田。その間を俺が割って入る。


「ま、バンド良いよな。あれなら入ってみるか?先輩に知り合いいるし」

「え、マジでか」


平田が妙な期待の眼差しでこちらをみていた。俺は頷くと、あいつは平静を装いながらも喜んでいた。多分、ずっと好きでやりたかったんだろうな。まあ、俺の目的は青山なんだがな。

あいつをどうにか玩具にして遊びたい......同じ部活に入るのが都合が良い。


「馬草、お前......先輩ってあれか?宮田とかって人」

「そうそう。あの人近所に住んでて顔見知りなんだよ」

「お前、知ってるのか」

「あ?」

「あの先輩、表に出してないだけで重度のアイドルオタクなんよ。大丈夫か?」

「......言ってる意味がわからん。それがなにかまずいのか?」

「宮田先輩はさ、伝説があるんだよ」

「伝説?」

「あの人がこの学校に入学したとき部活説明会で軽音部が当時ハマってたアイドルグループの曲を演奏したらしい。あの人はその演奏に感動して軽音部へ入部したんだが、そこで問題が起きた」

「問題?」


「宮田先輩は思っていたんだろうな。これだけ上手い演奏をする人なら、そのアイドルグループが大好きなんだと。だが、軽音部の奴らはそうじゃなかった......ただ、新入生女子をゲットすべく流行りの曲を必死に練習しただけだったんだ」

「女目的だったと」

「そうそう。だから宮田先輩がワクテカで軽音部に行くと新入生女子が口説かれててな。嫌がる女子の肩に手を回されたりしてて、えぐかったらしい」

「ひでえな」


平田がぼそりとこぼした。いや、でもバンドマンてそんなもんなんじゃねえのか?イメージだけど。


「ま、そこから宮田先輩は大暴れしたワケよ。大好きなアイドルをダシに汚いことしてる連中をフルボッコ!当時の軽音部は壊滅したってわけ」

「え、ならなんでまだあるの?軽音部は」

「宮田先輩が部長になって助けられた奴らが入部したらしい。そいつらは元々音楽やりたかった連中らしいし」

「ふーん」


ともかくこれは使えるな。確かに扱いには注意が必要だが、上手くやれば利用できる。


「他になんかねえの?宮田先輩の情報」

「ん?宮田先輩に興味もっちゃった?」

「ああ、面白そうじゃん」

「そっか。でも、これといって特にはないなぁ」

「なんでもいいぞ」

「あ、宮田先輩の話じゃないけど、あの人が好きなアイドルグループがヤバいらしいな」

「というと?」

「五人のアイドルグループなんだが、一気に三人抜けるらしい」

「それもう解散だろ」

「へえ、やべーな」

「まだ、らしいって話だからどうなるかはわからんけどな」

「......ふーん、なるほどな」


これはちょうどいいネタだな。これを使って宮田先輩に近づこう。上手くやれば取り入ることができる。外堀を埋め、罠を張る。わくわくしてきたな......青山の絶望する顔が拝めそうだ。


けど、俺はどうしてあいつがムカつくんだ。



――暗い部屋、思考を巡らせているとたどり着いた。


俺があいつをムカつく理由。


そうか、あいつは......俺にないものを持っているから。


あいつを見ていると、真っ直ぐ好きなものに対して努力してきているのがわかる。そして、それが上手くいっている幸せそうなツラがどうしようもなくムカつくんだ。


俺は駄目だった。どうしようもないクズだと小さな頃から言われ続け、生きていた。だからあいつの真っ直ぐさが苛つくんだ......だから、あいつの歪んだ顔に喜びを感じていた。


そうだったんだ。


まあもう終わりだな。青山の顔を想像するだけで体が震えてくる。あいつの姿をみればパニックを起こすかもしれない。


平田、田代.....迷惑かけたな。やばいことに巻き込んじまった。あの動画をばら撒かれたら、俺は勿論あの二人も社会的に終わる。


どうしようもない......おれはやっぱりクズだった。親の言う通りの。


平田は、恨んでるだろうか。


軽音部に入った目的が青山を狙っての事だと知ったあいつの顔はなかなかだったな。

それまでは文化祭に俺たちバンドで出ようか?と嬉しそうにしていたからな。


さすがの俺も胸が痛くなった。あいつ、音楽好きだったもんな。


ドラムを辞めさせた時もあんな顔だったのか?


そういやあいつあれだけ好きだって言ってたドラムなんであんなに簡単に辞めたんだ?


(......簡単に辞めた?)


いや、簡単ではなかったのかもしれない。


好きなものを辞めさせた俺とずっと一緒につるんでくれてて.......田代もそうだ。あいつもただ偉そうな俺のそばにいてくれて。まあ、フツーに陰口はいってるだろうけど。


だけど、俺は多分......そんなあいつらに何かをしなきゃいけない。


こんな事になっちまった責任を、取りたい。



......平田、今、何してるんだろう。お前は、まだドラムしたいのか。




部屋の隅に立てかけられたギター。


埃かぶるそれをじっと見つめた。



平田と田代が誕生日にくれた、それを。



「......うっ、おええっ、あ......はぁ、はあ」



だが、それを見る度に......脳裏に過る冷徹な瞳が俺を苦しめ逃さない。






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