第54話 夫婦


――燈子がガラッと扉を引き、廊下に待たせていた生徒を紹介しだした。


「じゃじゃーん!こちら、二年三組の緑川みどりかわ 菜花さいかちゃんでーす!!」


「「「?」」」


と、思ったのだが。


「燈子、その緑川さんは何処に?」


「へ?」


燈子の手が指し示したその先、そこには壁に貼られた火災防止のポスターだけがあり、緑川さんとやらは居なかった。


「あああーっ!!!逃げられたー!?」


そう言った燈子は、ややオーバーリアクション気味に廊下に上半身を出して左右を確認する。


「もしかして、嫌がる緑川さんを無理矢理つれてきたのか?」


「なわけないじゃん!バンド興味あるって言ってたから連れてきたんだよ」


「しかし現に逃げられてるだろ」


「あの子はちょっとコミュ障気味だから......ちょっと追いかけて連れて来る」


「それ、無理矢理なんじゃ」


「違うってば」


ジト目で俺を睨む燈子。おお?久しぶりに睨まれたな。


「そりゃ最初は嫌かなって思ったよ。目は合わせてくれないし、すぐうつむくし、なんかびくびくしてるし......でもそれは多分あたしのことが苦手なだけで、バンドはやりたいはずなんだよ」


「お前、なんでそんなに」


なんで?と燈子は首を傾げた。そしてすぐに答えが思いついたようで顔を上げた。


「あの子、お兄ちゃんに似てるんだ。だからほっとけ無い」


ばたばたと走り去る燈子。俺に、似てる?


「果たして、本当に使えるボーカルなのか......」


有馬がそういうと水戸は眉を寄せた。


「鳴々、そんな言い方あかんやろ。めっ」


「ごめん」


しゅんとする有馬。確かに今のは良くなかったぞ〜有馬〜。


と、その時新たな来訪者が現れた。


「結人!いたぁー!てかなんで軽音部にいるの!?」


「陽向!なんでここに......!?」


「なんでここに、じゃないでしょ!勝手にいなくなんないでよ!」


「え?今日、一緒に帰る約束してたっけ?」


「してないけど、あたしには結人を守る義務があるんだよ。ちなみに結人はあたしを守る義務があります」


「なにそれ、はじめて聞いたぞ!?」


「いや言ってないけど」


「言ってないの!?」


「でも、側にいてくんないとさ、心配になるから」


「心配って.....馬草達の件ならもう大丈夫だろ」


「それでもだよ。何かあってからじゃ遅いんだよ」


じっと俺の目を見つめる陽向。彼女の瞳に映る俺が揺らいでいる。本当に心配だったのか......馬草との一件があっていらい良く近くに来るなとは思っていたけど、それが理由か。


けど、こう過度に気を遣っていては陽向が疲れてしまうだろう。ちょっと良くない傾向だ。......いや、まあ元はと言えば俺が心配ばかりかけていたからなんだけど。というわけでここは素直に謝っとこ。


「ごめん、そうか。心配かけた」


「わかればよろしい!へへっ」


なんだそのへへって!可愛いかよ。でもマジでどうにかしないとな。陽向だって他の友達との付き合いだとか、色々とあるだろうし。俺に付きっきりじゃ何もできない。


「そんなに心配なら、青山に首輪つけてリードで引っ張ってあるいたらどうです?黄瀬先輩」


え?なんかすげえこといったやつ居たな、今?


てか、声色でわかった。俺はその台詞を言ったであろう女子、有馬へと目をやった。すると彼女はツンとした表情で、陽向へと挑戦的な視線を送っていた。


こいつまだ陽向の事を敵視してるのか。


「あ、有馬ちゃん。それ良いね」


「良くねーわ」


黄瀬が機転を利かせ、有馬の刺々しい言葉をボケに使う。俺はそれに反射的にツッコミを入れていた。


「あっはっは!これがホンマの夫婦漫才か」


「ふっ、ははは、面白いなお前ら」


水戸と御門先輩が笑った。意外とウケたな。それとは対象的に、有馬の機嫌が悪くなりつつある気配がする。......てか、まて今なんて言った?


「夫婦漫才って......」


「え?青山、黄瀬先輩と付きおうとるんやろ?」



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TSした男子高校生はガールズバンドでなり成り上がる。 カミトイチ@SSSランク〜書籍&漫画 @kamito1

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