第53話 歌い手
俺、有馬、水戸、御門先輩。四人は有馬のキスすれすれのチキンレースに赤面し(やった張本人である有馬も)、部室には妙な空気が流れていた。
宮田は依然床に転がり白目をむいている。意識あるのかわからんが、謎の涙を流しているので生きてはいるのだろう。オッケーだ。
空気に耐えられなかったのか水戸が身じろぎして「なぁ」と俺に呼びかける。
「ほんで青山くんはなんの用があったん?なんかあったから部室来てくれたんやろ?」
水戸が話が逸れてもはや脱線事故となってしまっていた会話を修復すべく行動を開始しする。さすが水戸!グッジョブ!
「あ、うん。来月に文化祭があるだろ?」
「ああ、あるなあ。それがどしたん」
「文化祭ライブ、【Rainy Planet】は出ないか?」
「!」
その言葉に水戸、有馬、御門先輩がぴくりと反応した。
「それは、お前がウチのボーカルをしてくれるということか?」
御門先輩はメガネを指で直しながら俺に問いかけた。
「ボーカルはできないですよ」
「じゃあ無理だな。ウチには今ボーカルが不在だ」
「え?......有馬がいるじゃないですか」
「有馬はもう歌いたくないんやって」
歌いたくない?ギターボーカルの有馬が?
「なら、誰がボーカルしてるんだ?」
「おらんで。今は空席。探し中や」
俺は有馬へと顔を向け聞いた。
「どうしてボーカルやらないんだ?歌が嫌いになったのか?」
彼女は首を横へ振る。
「逆よ。あなたの歌を聴くうちに思ったの。私の歌では良いバンドにはならないって......」
「どういうこと?俺は有馬の歌、良いと思ってるけど」
わずかに有馬の口元が動く。
「......それは嬉しいわね。でも、私は気に入らない」
......やっぱり、有馬は変わってきている。
「私はね、この【Rainy Planet】を最高のバンドにしたいの。私の歌では駄目......だから出ない」
瞳に強い意思が宿っている。これは、俺がもうどうこう言ったところで考えが変わらないだろう。
「......そっか、寂しいよ」
これは彼女らのバンドにとってもある意味チャンスだと思った。けど、ここまで拒まれてしまえば退くしかないな。
「ん?てか、なんやその言い方......もしかして、文化祭あんたら【Re★Game】でるんか?」
「あ、うん」
「......それ、大丈夫か」
御門先輩がいう。
「来場客えらいことになるだろ。例え当日までお前らの存在を公表してなくても、おそらくライブが始まればそれを皮切りに大混乱になる」
「あー、な。ただでさえaoである青山がこの学校におるって噂が出回っとるし。なんなら、ちょくちょくその噂を鵜呑みにしたファンが校門前におるしな。まあ、噂は本当なんやけど」
そう。それも計画の内。というかその噂を流させたのは俺で、燈子にネット掲示板等で書き込んで回ってもらった。
この間の顔出しライブも手伝ってかなりの効果となった。
最近では度々SNSで噂になりPwitterではトレンドにも何度か入っていた。
「まあ、文化祭ライブとうの出し物は学校関係者のみしか入場して観られないから......大丈夫じゃないかな」
「あ、せやな。けど多分ちょーネットとかに載せられんで?顔は隠すんやろな?前のライブみたいに出したらえらいことになるで」
「確かに」
まあ顔出しするんだけどな。
「......青山、お前」
御門先輩が何かを言いおうと口を開いた。しかし後に続く言葉はなく、「いや」と首をよこに振る。
「文化祭に【Re★Game】が......」
有馬が呟いた。
「ねーねー、なんの話?」
にゅっ、と俺の後ろ、顔横から燈子の顔がでてくる。
「うおおおあ!?」
「「!?」」「び、っくりしたぁ」
いつの間にか部室に入ってきていた燈子。
「あはは、ウケるんですけど」
「ウケねえよ......マジで怖かったわ」
けらけら笑う燈子。
「そんで?なになに、なんの話?」
「文化祭ライブに【Rainy Planet】も出ますかって聞いてたんだよ」
「あー、なるほどね。でもボーカルいないでしょ、【Rainy Planet】」
「お前も知ってたのか」
「うん」
そうなんだ。なら最初から燈子に聞けばよかったかな。てかいつの間に仲良くなったんだ。
「んで、燈子は何しに来たんや?また練習か?」
「ちょ!?」
?、練習って?
「あ、しもた......!」
何か隠してる?
「結局なんなの?」
有馬が再び燈子に聞いた。
「あのね、そのボーカルを連れてきたんだよ!しかもめーっちゃ上手いんだ!!ちょっと性格は難あるんだけど、すっごいんだから!!」
「!」
ボーカル......燈子は【Rainy Planet】のボーカルを探していたのか?なんで?
「いやあ、たくさんネットで調べて動画サイト回りまくってようやく発見したんだよねー!この学校にいる歌い手さん!」
「連れてきたって言ってたわよね?」
「嫌がってたけど無理やり連れてきたぜ!といっても交換条件をのんだんだけど。呼んでくるね」
燈子がガラッと教室の扉を開いた。
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